第十八話の1 一歩踏み出し、光のなかへ
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
その夫婦のことは仮面の男も気づいていた。
少しお高い料金の席にて、妻がひざの上に人形を座らせ、少し寂しそうな笑顔でショーを見ていた。
愛らしい女の子の人形だった。
おそらくは手縫いであろうと思われるぬいぐるみのような人形は、大切にされているのかこれまた手作りのドレスを着せられてちょこんと座っている。
かごいっぱいの花を振りまきながらピエロが客席を歩くパフォーマンスでは、受け止めた花を嬉しそうに人形の手に持たせていた。
ショーの最終日にもその夫婦は人形とともに現れた。今度は少し安めの席を取り、同じように人形とともに鑑賞していた。
仮面の男はピエロに指示して、いつもは回らないその安い席にも回らせた。
前回とは違う色の花がまかれるのを、夫が懸命に手を伸ばして受け止め、にこにこと人形の手に飾った。
仮面の男がその夫婦から声をかけられたのは、ショーが終わった後であった。
明日は一日使って撤収作業をすることもあり、団員らは最低限の片づけだけしてテントを後にしていくところだった。
「どうか、この人形を旅に連れていっていただけませんでしょうか」
その夫婦はそう告げた。
「それはまた、どういう」
「実は」
その人形は一年前に亡くなった娘の代わりなのだ、と夫婦は言った。
「もうすぐこの町にもショーが来ると聞いて、楽しみにしていたのです」
「その矢先でした」
友人数人と山菜取りにいった山で土砂崩れに巻き込まれ落命してしまったのだという。
夫婦は嘆き悲しんだが、そんなことをしていても娘は喜ばないと思い、旅一座が来るまでにはと一生懸命働き、チケットの料金をためたのだった。
「二度鑑賞させていただくのが精いっぱいでした。なのに図々しいお願いなのですが」
頭を下げて頼み込む夫婦から仮面の男は人形を受け取った。
大事に抱え、「わかりました。お嬢さんは私が責任をもって預かりましょう」と告げた。
夫婦は何度も頭を下げながら、娘の名は「クレア」であると告げた。
「ではクレアさん、私と世界を回りましょう」




