ep.11
「ふざけないでっ! どうしてこんな……なんで私たちが追放されなくちゃいけないのよ!」
王の裁定が下された直後、沈黙を切り裂いたのはジョーヌの怒声だった。
「悪いのは全部、あの女でしょう! 無能のくせに家に縋りついて、勝手に勘当されたって騒いで、民の同情を引いて、挙句の果てに騎士様にまで媚びて!」
その場にいた騎士団員数名が顔をしかめて一歩前に出ようとするのを、スールスが片手を上げて制した。
「黙れ、小娘」
落ち着いた声色だが圧倒的な威圧をもって放たれたスールスの言葉に、ジョーヌの口がぴたりと止まる。
「フルーレは追放後も己の魔法技術を磨くことに余念がなく、世界でも類を見ない精度の高位治癒魔法を習得するに至った。現在は王国騎士団治癒魔法士部隊の一員としてこの国に尽くしてくれている、私の大切な部下の一人だ。彼女への侮辱は私への侮辱と同義となるぞ」
あり得ないはずの言葉を豪雨のように浴びせられたジョーヌは、足元から力が抜けたように崩れ落ちる。
「己がしてきたことを省みず、なお他者を貶めるその姿勢。追放すら生ぬるいと思わせるに足る。貴様のような者が貴族の令嬢として存在していたこと自体が、この国の恥だ」
今度こそ、ジョーヌは呆れ顔の騎士団員達に連れられてその場を後にした。
「フルーレ」
喧噪と裁きの余韻が残る謁見の間で、フルーレは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。重苦しい空気が一掃されたような、どこか晴れやかな静寂の中で、微笑を浮かべたスールスが、穏やかな歩みでフルーレのもとへと近づいてくる。
「よく耐えた。王国騎士団長として、短い間ではあるが君を見守ってきた一人の男として、誇りに思う」
「スールス様、ありが……」
フルーレが感謝の言葉を述べようとした次の瞬間、彼女の体がスールスによってふんわりと抱きしめられた。暖かな手のひらが、フルーレ自身も気付かぬうちに震えていた背中をゆっくりと撫でる。
「この審判を終えたら、君に伝えようと思っていたことがあるのだ」
スールスの肩口に額を埋めて小さく嗚咽を漏らすフルーレを優しく宥めながら、彼はそう言った。
「伝えたいこと、でございますか?」
きょとりとしたフルーレの前に、スールスは優雅な所作で膝をつく。無骨に角ばった指先が、フルーレへと差し出された。
「国王陛下、ヌヴェル家当主、そして王国騎士団の重鎮達からの許可は降りた。フルーレ殿、どうかこれからの人生を、私の隣で生きてくれないだろうか」
スールスのその言葉に、まるで世界の時が止まってしまったかのように、謁見室は静寂に包まれる。二人を見守る誰もが、フルーレの返事を固唾を飲んで見守っていた。
「わたくしで……本当に、わたくしでよろしいのですか……」
フルーレの絞り出すような一言に、スールスはただ小さく頷く。
「誰よりも、君が良いのだ。まだ共に過ごした時間はさほど長くないが、それでも、役立たずだと蔑まれ続けても頽れることなく生を謳歌しようとした君の姿が、誰よりも気高く美しいのだと、私は知っているのだから」
ぽろりと、大粒の涙がフルーレの目元から流れ落ちた。
「スールス様……これからの長い時間をあなたのお側で過ごせること、一生の誇りにいたします」
差し出された指先に、フルーレは自らの手を重ねる。こうして手のひらを合わせること自体は初めてではないというのに、二人のそれはお互いひどく震えていた。
けれどその震えさえもようやく辿り着いた幸福の証のように思えて、フルーレはそっと微笑んだ。
「君の人生が愛という名の大輪の花々で溢れるものとなるよう、私は全力で君に尽くそう」
スールスは重ねられた華奢な指先をしっかりと握り返す。二人の手に込められた静穏な決意は、しかし他の何より強く、そして優しいものだった。




