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STORY TELLER  作者: 茶々丸
女神編
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097 宿敵の裏事情


海斗side


ジムの中には、ランニングマシンやベンチプレス等の機材が置かれ、俺と同じくらいの年齢の人達がトレーニングに勤しんでいる。

うちの父親が消防士で、小さい頃はよく仕事場に遊びに行かせてもらっていたのだが、その時マシンを少し遊びで使わせてもらったなぁと懐かしむ。

その奥には少し広いスペースがあり、魔法を使った対戦形式のトレーニングが行われている。


1人はよく知る坊主、残りの3人は小学校中学年くらいの子ども達。


「海斗さん、先生はあなたが知ってる人ですよ。」とリースに言われていたので……この国で知り合いなんてたかが知れてるから、まあ予想はしていたけれど、やっぱりこいつに教わるのか……複雑な気持ちだ。


「ファイアーボール!」


1人の女の子が放った火の玉を坊主は避けると、そのまま接近し蹴りを入れる。

その蹴りを男の子が受け止め、もう1人が稲妻の魔法で追撃する。


ガッ、ガガ、ガッ!


身体強化の魔法だろう。死角をつくように両側から男の子2人が打撃を入れる。

ローキックをかわすため跳び上がった男の脇腹にボクシングでいうフックが突き刺さる。

もちろん練習なので坊主頭にダメージを与えることはできていないが、その多彩な攻撃パターンには舌を巻く。


魔力量や魔法のバリエーションでは俺の方が上だろうが、純粋な肉弾戦ならこの子達の方が上かもしれない。

それに魔法のバリエーションは、どちらかと言えばチートだし。


「おっ、来たっすね。待ってたっすよ。

さてと、それじゃあおチビちゃん達、今日の練習はここまでっす。」


えーっと駄々をこねる子ども達をうまくあしらうフィミール。

こう見ると普通の子ども達で安心したわ。しかし、こいつ子どもの扱いうめーな。


「俺、一応この国では先生みたいなこともやってるっす。だからこのくらいはできて当たり前っすよ。」


「サラッと心を読むなよ。」


相変わらず油断ならないな。


フィミールは子ども達をジムの外まで送ると、室内練習場の扉を閉める。

側面に配置された窓から日差しは入るが、それしか明かりがないため若干薄暗い。この距離だと、どんな表情をしてるのか分からないな。


「さて、それじゃあさっそく始めるっすよ。ちゃんと海斗君の実力を見たいっすからね。」


「いや、ちょっと待て……」


ギャッ!ギャッ!


まるで分身したかのように両方向から蹴りを入れてくる。

俺は咄嗟に身体強化の魔法をかけると、真上に跳んで回避する。そのまま天井へ。


「そう避けるっすか。なかなかっすね。」


「いや、フィミール、まず話すことがあるだろ!?」


あいつ、壁走ってやがる。

まあ俺が天井に張り付いてるからなんだけど。


奴の手刀が、閃光の速さで放たれる。だが、身体強化した俺の動体視力は伊達じゃない。

身体強化の魔法は、そこに使われる魔力量に比例する。魔力を使えば使うほど、大きければ大きいほど、強化の値が上がるのだ。

俺の魔力量は、そこら辺にいる魔導師のそれを遥かに上回る。


フィミールも相当強い魔導師だが、身体強化だけなら……


本来なら目で追えるはずがない手刀を、俺は左手で掴み取った。そして、勢いのまま横にいなすと、空いた右手で拳を放つ。


ズガンッ


とフィミールの鳩尾に入るはずだった拳は、坊主の右膝によってガードされる。


まじか、絶対入ったと思ったのに……


若干ショックを受けながら、膠着状態に入る。右腕を引きたいところだが、引いた瞬間左脚の蹴りが顔面にとんできそうだ。避けるためには奴の左手を離さなければだが……


「秘匿回線。」


「あぁ??」


一瞬で両手にかかっていた質量が消え去り、入り口付近にフィミールの姿が現れる。


近距離瞬間移動ショートジャンプ

いや、それより、秘匿回線ってあいつ言ったか?




……やってみるか。



俺は天井を蹴り、一気に距離を詰める。と同時に、あることを試みる。


ガガンッ!


フィミールからしたら瞬間移動したかに見えるような速度での移動、そして蹴り。

しかしなんとこの技もすんでのところでガードされる。




いや、ガードさせる。



『海斗君、事前に教えてくれてなかったら、普通に今のはやばかったっすよ。』


『その時はその時だろ。それに、俺はお前のことぶっ飛ばしたいってずっと思ってたし。』


そのまま近距離で打撃を打ち続けるが、一方で念話テレパシーを続ける。


『それで、なんでこんな回りくどいやり方してんだ?聞かれたくないことでもあんのか?』


『聞かれたくないどころか、悟られたくもないんっすよ。ほんといつ誰が見てるかわからないっすからね。』


肘打ちをはたき落とし距離を取る。

だんだん部屋の暗さにも慣れてきて、男の表情が見える。

その顔は真剣そのもの。



『改めまして、海斗君。俺の名前はフィミールっす。昨日も話した通り、俺はきみの……いや、ハイラスマーレ国の味方っす。』


昨日のジャイアントドラゴンの背でのやりとりがフラッシュバックする。



そう、こいつはあの場で俺達の味方だと言ったのだ。


1年前、何度も俺達を殺そうとし、貴族達を使ってハイラスマーレ国を潰そうとした張本人が、だ。



さすがに信用できない、できるはずがない。

……が、ここでこんなことをカミングアウトする意味も分からない。

俺は思ったままの言葉をぶつける。


『信用できない。お前は一度俺達を騙して殺そうとした。』


貴族会議、殺し屋との墓場での決闘。全部お前のせいだろ。



『海斗君、手は止めないでくださいっすね。

まずあの時のことっすが、あれは君達が勝手に危険に首を突っ込んできたんっす。俺は君達を助けたんっすよ。』


話によると、あの時貴族長は俺達のことをあの場で直接殺そうと考えていたとのこと。しかし足が付いたら大変なことになるので殺し屋に任せようと提案したのがフィミールだったらしい。


『だったら俺達を貴族会議に連れて行かなきゃ良かっただろ。殺し屋との戦いだって、生き残ったのは運が良かっただけだ。』


『あの場にいた時点でもう君達の存在はバレてたっす。連れていかなければ、いかないで色々まずかったんっすよ。

それに結局死ななかったじゃないっすか。あの場で貴族達に囲まれた中で貴族長と戦うのと殺し屋2人、どっちが生き残る確率が高かったと思うっすか?』


俺が出現させたブラックホールを、同じ重力魔法でかき消し、接近してくる。


『それでも、やっぱりお前のことを信用することはできない。』


ついに俺の蹴りが、フィミールの防御を掻い潜ってヒットする。もちろん殺すつもりはないが、手加減もしていない。

勢いのまま壁に激突したフィミールは「ぐっ。」と小さなうめき声を出し、動きを止めた。



『旧校舎。』



『おまえ、なんでそれを……』


こいつ、俺達の秘密を……俺達の世界とこの世界をつなぐ道のことを知ってやがる。

このことを知るのは、ハイラスマーレ王と4賢者のみのはずなのに。

俺が固まるのを見て、壁にもたれかかりながら笑みを浮かべる坊主。


『これで信じてもらえなかったらキツかったっすが、どうやらオッケーみたいっすね。』


本当にこいつは味方??

いや、というかこいつ、旧校舎のことを知ってるということは、まさか……


『改めて自己紹介っす。俺の名はフィミール。ハイラスマーレ国4賢者の1人っす。』


呆気に取られた俺は、いつの間にか接近してきていたフィミールの拳をモロに受け、壁に叩きつけられたのであった。




「いって……」


フィミールのやろう、思いっきり殴りやがって。まあ俺も人のこと言えねーけど。

あまりの衝撃発言に、完全に虚をつかれてしまった。


しかし、こいつが4賢者の1人だったとは。

確かに4賢者のくせに、3人しかいねーなとはずっと思ってたけど。


「もう終わりっすか?まだまだっすね。」


ニヤリと笑って手を差し出してくるフィミール。

の腕を掴んで天井に向かって投げ飛ばす。


「誰が終わりっつったよ!!まだ全然本気じゃねーから!!」


「そうこなくっちゃ。遠慮はいらないっすからね。」


戦闘の激しさは増す。部屋の隅に立てかけてあったエクササイズ用のマットや跳び箱が吹き飛び、強化ガラスにヒビが入る。


何事かと思い入ってきた管理人?のような人は、俺達の戦闘を見て、その一瞬で止めるのを諦めたらしい。俺は何も見なかったという顔で部屋を出ていった。


戦闘の中で、言葉(念話)は交わし続ける。そこで、様々なことを知ることができた。


フィミールは戦争が始まる1年半前……3年前からウォーデン国に潜入しているらしい。

その時はまだウォーデン国とハイラスマーレ国は仲が良かったらしいが、王様が何か不穏な空気を感じたようで。

その頃ちょうど前任の4賢者の1人が老衰で亡くなり、貴族の中でも抜群に戦闘能力が秀でていたフィミールが後釜に就任した。

とは言ってもそのまま潜入任務に就いたため、ハイラスマーレ国内では賢者の1枠は未だ空席になっているという認識のようだ。


『じゃあ、貴族長と知り合いだったのも、元貴族っていうのも……』


『本当のことっすよ。事実を混ぜながら潜入するのがプロっす。』


そこでふっと攻撃の手が緩む。俺もテンポを合わせて手数を減らす。


『海斗君、貴族長ジェラールはいい奴だったんっすよ。いや、貴族全体が。

みんな国のために一生懸命で、優しくて、強くて。』


友人のミーナの言葉を思い出す。そういえばあいつも同じことを言ってたな。


『だからこそ、ウォーデン王の命でハイラスマーレ国に帰ってきた時は、貴族達の変貌ぶりに驚いたし、悲しい気持ちでいっぱいだったっす。

俺はウォーデン国を許さないっす。俺の仲間を……誇り高きハイラスマーレ国の貴族をあんな風にしたこいつらを。』


俺は何も答えられなかった。

俺の知っている貴族は、はっきり言ってクソ野郎だ。でも、そうじゃない時……俺が知らないあいつらの姿があったのも事実なのだろう。

もしかしたら、ルリット達とだって出会う時期が違ければ、友人になれていたのかもしれない。


『それで、このタイミングで俺に正体をバラしたということは……』


ガシッ

俺は右腕を、フィミールは左腕を、互いに掴み合う。この戦いで組み合うのは二度目だ。

ジッとお互いを睨み合う。


『時期がきたっす。奴を倒すために、君の力が必要っす。』


ビシッ!!


コンマのずれもなく俺達の右脚が相手の顔の真横まで上がり、ビタっと止まった。


「合格っす。海斗君、闇の魔力のコントロールの仕方を教えるっす。厳しくいくっすけど、ついてくるっすよ!」


「ふん、そんなの一瞬でマスターしてやらぁ。そしたら覚悟しろよ。まとめてぶっ飛ばしてやるからな。」


闇の魔力のコントロール、必ずものにしてやる。



そしてこの戦争を、終わらせるんだ。







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