092 ウォーデン国
私達は、ドラゴンの上であれば自由にしていて良いということで、端っこの方から町を眺めている。
他にすることもないし。
マーレはリースさんが引き続き診てくれており、何かあったらすぐに治療をしてくれるということだった。
ウォーデン王やフィミール、その他の魔導師達に対してはまだ半信半疑だけど、リースさんだけは何故だか信じることができるのだった。
本当に不思議だ。
ちなみに海斗兄はマーレの側にいると言って聞かなかったのだが、
「治療に集中できないので。」
とリースさんに言われ、渋々私と行動を共にしている。
前にこの世界に来た時にも感じてたけど、海斗兄ってマーレのこと好きなのかなぁ。
でも、サッカー一筋、サッカー馬鹿の海斗兄が好きな人……うーん……
ウォーデン国。
ハイラスマーレ国と同等の面積、人口を誇る王政国家。国の形は正方形で、碁盤状に道と建物が綺麗に配置されている。
建物はなんとコンクリート造りの物が大半で、私達の世界のものとほとんど変わらない。マンションやビルのような建物も多くはないが建っている。
ハイラスマーレ国の建物は、中世のヨーロッパのような石造りがほとんどなのに。
正直、同じ世界、同じ時代とは思えない。
海沿いには4つの四角い建物があり、そこから町の方に向かって貯水槽のような円柱型の建物が所狭しと敷き詰められている。
あれがお城なのかな?
でも、なぜだかそっちの方は生き物の気配が感じられないような……
「あの建物は……」
なんだろうね。と海斗兄に問いかけようとした言葉は、いつの間にか真後ろにいたウォーデン王の言葉によって途中で遮られてしまった。
「若葉さん、きみ達にはこの国からさえ出なければ自由を約束しようと考えている。もちろん衣食住もこちらで用意しよう。
ただし、あそこにだけは近付かないでくれ。あそこは危険な場所だ。きみ達の身に何かあったら困るからね。」
海斗兄は何か言いたそうな顔をしているけど、目を瞑り小さく頷いた。
ここでまた食ってかかっても、何も良いことはないと察したのだろう。
代わりに私がウォーデン王に質問をぶつける。
「近付かないのは約束します。ただ、何の建物なのか気になるんですが。」
もしかしたら脱出する時の鍵になるかもしれないし。何でも良いからできる限り情報が欲しい。
対して、困った顔をするウォーデン王。
「教えてあげたいんだけど、多分難しいかな。」
そして次の言葉を言おうとした時、
キィーン!!
突然金属を擦るような音が耳を貫いた。しかもそれは私の耳だけに響いたのではなく、このドラゴンに乗っている全ての人達の耳に響いたようだ。みんな耳を塞いでうずくまっている。
そう言えば、前にもこんなことが……
「分かったかな。このことはきみ達……というより、この世界では話すことができないんだ。もちろん念話も文字に書き表すこともね。この世界には、大きな魔法……呪いがかかっているんだよ。」
念話の場合は同じく金属音のような音がし、書こうとした場合は何と筆記具が折れてしまうらしい。どんなに強固な物質で作られたペンでもだ。
この魔法……呪いのことを、ウォーデン国では『悲鳴』と呼ぶらしい。
こんな大規模な魔法、誰がどんな目的でかけたのだろう。
気になって聞いてみるも、同じ結果になるという答えだった。
ざわつく魔導師達に大丈夫だと説明した後、そろそろ着陸だと私達をドラゴンの背中の中央に促す。
もう少し町を見ていたかったけど、しょうがない。
マーレのところに戻ると、リースさんが私と海斗兄に首飾りのようなものを差し出す。金属製のチェーンの先に、緑色の宝石?が付けられている。
よく見ると私達以外の全員(マーレも含め)がその首飾りと同じようなものを付けている。
「それは、魔防石。過剰な魔力から身を守るための宝石です。今は空の上なので分からないと思いますが、地上は高濃度の魔力で汚染されています。常に身につけるようにしてください。」
魔力の量が多すぎると、魔力酔いと呼ばれる酒に酔ったのと似た症状が表れる。それでもそのままにしていると髪の毛が抜けたり、内臓に異常が生じたりと体に良くないらしく、ハイラスマーレ国では国を覆う魔法陣によって自然界の魔力量を制限していた。
ウォーデン国では、各自が持つ魔防石によって過剰な魔力から身を守っているらしい。
「海斗兄……」
「若葉、俺も不安だけど、魔力量が高いのは地上が近づくにつれて感じてる。今は着けておこう。」
何か他の魔法がかけられている可能性もあるが、身体への影響が出てしまうのであれば仕方ない。
私達はリースさんに従い、魔防石を首からさげた。




