088 偽りの勇気と本物の殺意
「ん……んん…」
なんだか頬がとっても冷たい。
……というか寒い!!
ガバッ
目を覚まして勢いよく起きあがろうとし、そのまま倒れる。
身体の自由が効かない?
慌てて首から下を見ると、手首を背中側に縄で結ばれている。足首も同様だ。
どうりで動けないわけだ。
私、助かったんだ。
太陽を助けた後、私は落ちた。
もうダメだと思った。
でも、この様子だと、私はあの後ウォーデン国の人に助けてもらった……というか捕まったようだ。
一度死を覚悟したからか、状況を冷静に受け止めることができる。
一過性のものかもしれないけど。
「あっ、起きたみたいっすね。気をつけてくださいっすね。ここは空なので、無理して落ちたら今度こそ死んじゃうっすよ。きみ、魔法が効かないっすから。」
横を見ると、数メートル先にフィミールが座っている。白いつなぎの胸の部分がよれてしまっているのは、大将軍フリードとかいう大男に掴まれていたからか。
前にスカイキャッスルで戦った時に比べると、少しやつれたように見えるのは気のせいだろうか。
縛られているとはいえ、完全に動きを封じられているわけではないため、私は芋虫のようにクネクネと身体を動かしながら周りの様子を確認する。
本当に空の上だ……
どうやらここは大きなドラゴン?のような生き物の背中の上みたい。ゴツゴツしていて、硬くて、お世辞にも乗り心地が良いとはいえない。
けれど、かなりの広さがありそうだ。後ろの方は確認できていないけど、学校の校庭の三分の一くらいはありそう。
そんな巨大な生き物がいるなんて、この世界は驚きに満ちている。
と、相変わらず冷静モードの私。
しかし、それは数秒後には呆気なく終了する。
「ん……んー…んっ!」
うめき声??
真後ろを見ると、私とは違って魔法で作られた輪のようなもので拘束されている女性が見えた。口には猿轡をはめられ声が出せないようだけど……あれ?
あの青いローブ、ハイラスマーレ国の魔導師さんだよね。
すごく綺麗な銀髪……えっ!?
「マーレ!?」
拘束されている女性は何度も頷き、何かを伝えようと必死に声を出す。けれど、猿轡によって呻き声にしかならない。
ハイラスマーレ国の王女様……私達の大切な友達。
そんな大切な人が目の前で捕まり、地面に転がされている。
よく見るとローブの至る所が破れ、女の私から見ても真っ白で美しい肌には、無数の傷が刻み込まれている。
右の頬には殴られたような青あざ。
許せない。
私は拳を握りしめ、フィミールを全力で睨みつける。
対して彼は困ったような表情を浮かべ、必死に弁明する。
「いや、仕方なかったんっす。きみを取り返すために、全力で向かってきたんっすよ。
こっちだって国に4匹しかいないジャイアントドラゴン1匹と、部下を15人もやられたんっすから、このくらいの怪我と拘束、許してほしいっす。」
私を取り返すため。
一国の王女様とはいえ、マーレならやりかねない。私達のこと、本当に大切に思ってくれているから。
責任を感じながら、それでも負けじとキッと睨み続ける。
「そもそもあなた達がハイラスマーレ国に攻めてきたのが発端じゃない!!いいから早くマーレを解放して!!」
「いや、無理っすって。今解放したら、このジャイアントドラゴンまで落とされかねないっす。そしたら飛べないきみが一番困るっすよ?」
そんなの知らない!!
例え私が落ちようが、マーレがあんな姿で捕まっていることの方が我慢ならないんだ。
マーレが私を思うように、私もマーレのことが大切だから。
ヒートアップした私は、先ほどとは打って変わって周りのことが全く見えなくなっていた。だから、近づいてきている男の存在に気づかなかったんだ。
進行方向から吹き付ける風に負けないよう、全力で声を張り上げようとする……が、その言葉は後ろ髪を掴まれ一気に引き上げられたことで音を失ってしまった。
「ぐぅぅ、い、痛い!!離してよぉ……」
鋭い痛みが駆け巡り、涙があふれる。
私の髪の毛……引きちぎられちゃう……
「おまえさぁ、さっきからうるさいよ。俺は馬鹿にされることと、うるさい女が何より許せないんだ。
殺すぞ。」
ビクッ
身体が強張る。
最後の一言で、心を思い切り握り締められてしまった。
ここまで直接的な殺意を向けられたのは、生まれて初めて。
怖い……
先程までの強気が嘘のように、カタカタ身体を震わせながら黙りこんでしまう。
「フリード様、この女を傷つけることは王から禁じられているっす。落ち着いてくださいっす。」
苦しみと痛みで顔を歪めながら恐怖で震える私を見てニヤニヤ笑う男に対し、フィミールが横槍を挟む。
「フィミール、俺に指図するのは今日2回目だ。覚悟はできてんだろうな。」
ブチブチ
大将軍フリードの手に無意識に力が入り、髪の毛が千切れる音がした。
痛い……もうやめて…許して……
けれど、声に出そうとしても、その声が出てくることはない。
「ヒッ……ヒッ……」
過呼吸のような音。涎が頬を伝い、恐怖のあまりショーツを濡らしてしまう。
小学校低学年の時以来、家族以外の前では初めての粗相に私は呆然とする。
「くく、こいつ漏らしてやがった。いいぞ、俺はうるさい女は許さないが、従順で可愛い女は大好きだ。俺の下僕として、一生飼ってやるよ。」
「んーっ!!んー!!」
マーレの方を見ると、涙を流しながら必死に拘束から逃れようとしている。
拘束された部分と皮膚が擦れ、血が滲んでいる。




