084 大将軍フリードの暴虐
「これって……」
私は目の前に広がる光景に目をぱちくりさせる。
こんなことって。いや、良かったんだけど、きっとすごく良くない。
だって、何か理由がなければ、わざわざ国を守る魔法陣を解除してまでこんなことしないはずだから。
まず、燃えていたり倒壊したりしていた建物は全て無傷の状態に戻っている。
そして、倒れていた人達、怪我をしていた人達は、全員いなくなってしまった。
多分今まで見ていた光景は全て幻。
いつも外部の攻撃から身を守っている魔法陣を転用して、こんな大掛かりな幻術魔法を行使していたのだろう。
一体なぜ?
ううん、ウォーデン国の人達の唖然とした顔を見たら、ねらいなんて明らか。
多分これはハイラスマーレ国が仕掛けた罠。そしてそれをぶち壊してしまったのが私達。
「退却!!退却!!」
いち早く状況を察知したウォーデン国側の指揮官と思わしき魔導師が叫ぶ。その言葉で我に帰った動ける魔導師達は、一斉に転移を始める。
太陽の広域魔法、『スプレッドサンダー』は、多くの敵に直撃したみたいだけど、範囲を重視した魔法だったため威力が足りず、かなりの魔導師がまだ動けている。
バサッバサッ!
上を見ると大きな黒い影。あのドラゴンは……
ドラゴンの背からフワッと軽やかに着地した女性は、私達2人に勢いよく抱きついた。
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「若葉、里穂!!」
「マーレ!!久しぶり!!」
青いローブを着た銀髪の美女は、私達をパッと離すと、もう一度じっと顔を見て、また抱きついてきた。
「やっぱり若葉と里穂ですね!!会いたかったです!!」
この妖精みたいな女性(とは言っても、私と3つしか歳は変わらないのだけど。)はマーレ。この国、ハイラスマーレ国のお姫様で、私達の大切な友達。
「しかし、どうしてこっちの世界へ?何かあったのですか?」
「うーん、なんて言えばいいか……向こうの世界がピンチだから、それをなんとかするためにこっちの世界に行けって、STORY TELLERが。」
確かにそんな感じ。どんなピンチなのか、こっちの世界で何をすればいいのかは全然分からないんだけど。
「里穂達の世界を救うための手段……全く思い浮かびませんが、STORY TELLERがそういうのであれば、何かあるのでしょう。でも、本当に会えてよかった!」
心当たりがなく途方に暮れた表情から、また出会えた喜びで笑顔に戻る。そして。また困った表情に。
「しかし……」
「ごめん、マーレ!!何か大切な作戦中だったんだよね。なのに……勝手に動いちゃって。」
「いや、仕方ないです。里穂達は何も知らなかったのですから。それはショーンも分かっているはず……ですが……」
この感じ、絶対ショーンさん怒ってる。
ショーンさんとは、ハイラスマーレ国最強の魔導師で、4賢者の1人。ちなみにマーレも4賢者だ。
ウォーデン国の魔導師が撤退を進める中、ハイラスマーレ国の魔導師がそれを追撃する。けれど転移魔法を使われたらどうしようもない。
痕跡を辿ることはできても、跳んだ先で囲まれてしまえば万事休すだ。
「おいおい、ハイラスマーレ国の諸君。随分と舐めたことしてくれたな。」
つん裂くような声に、思わず耳を塞ぎ、声が聞こえてくる方向を見る。
そこには私達が前回この世界に来た時にハイラスマーレ国の存亡をかけて戦った坊主頭の長身、フィミール。
そしてもう1人、同じく坊主頭で巨人のような大男。
身体は傷だらけだけど、なんだか異様な空気を纏っている。
「正々堂々やれると思っていたら、まさかの幻術とは。いやはや参った参った。」
「正々堂々とは、ふざけたことを言ってくれますね、大将軍フリード!!私達がいない隙を狙って攻撃するつもりだったのでしょう?」
姫様の言葉に、大男はこちらをジロリと睨みつけ、ニヤリと笑う。その不気味さに一歩引いてしまう。
「どうやらこっちの情報が漏れている……いや、フィミール、お前が持ってきた情報がブラフだったのか?まあいい。この事については国に戻ってからにしよう。
さて、俺は馬鹿にされることが何より許せないんだ。そしてこの状況、完全に馬鹿にされているよな。」
大男の真下にドス黒い魔法陣。あれは、闇の魔法。
「フリード様、気持ちはわかるっすが、無駄な殺しは王に禁じられているはずっす。」
青ざめた顔でフリードと呼ばれる男を止めようとするフィミール。が、フリードは止まらない。
「フィミール、俺に指図するのか?そもそも王のその姿勢は前から気に食わねーんだ。むしろ王も殺すか?」
自分の国の王様でしょ?なんて事言うの?
この人、やばい。今までこの世界であった人達の中で、ダントツにやばい。
魔法陣の上空にドス黒い巨大な雲。空気が一気に熱せられたため、上昇気流が発生して積乱雲を作り出したようだ。
それだけの熱量を持った魔法。太陽が使った『ザ・サン』という擬似太陽を作る魔法より遥かに強力で規模も大きい魔法だ。
「ジ・イクリプス。」
男が呪文を唱えた瞬間、魔法陣の真下に黒い太陽が出現した。
その大きさは、ハイラスマーレ国の3分の1ほど。大きすぎる。あんなのを落とされたら……
「俺を馬鹿にした罰だ。消し炭にしてやる。」
黒い太陽が、少しずつ下降してくる。魔法から発せられる熱で、木々のてっぺんの葉が燃え始める。
「若葉、力を貸してください!!」
言われなくても!!
「うん!!任せて!!」
私とマーレはルーラ……ドラゴンの背にまたがり飛び出す。魔法は強力だけど、私の消却魔法なら。




