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STORY TELLER  作者: 茶々丸
女神編
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080 お願い


正直に言えば、あの世界に戻ることを手放しに喜べる訳じゃない。


あの世界には、大切な人達がたくさんいる。


けれど、あの世界には常に戦いが、そして死がつきまとう。


それは太陽も重々承知のはず。

なのに行きたい。いや、今すぐに行かなければいけないというのであれば、相当な何かがあるということだ。


であれば、私も勇気を振り絞らなければいけない。



階段下の重たい鉄の扉をゆっくり押すと、ギギギといいながら内側に開いた。


中は橙色の光で照らされており、少し眩しい。それが太陽の魔法であることはすぐに分かった。


「そっちは大丈夫か?」


「うん。ひかりがなんとかしてくれるって。」


「さすがはひかりだな。こういう時、あいつほど頼りになる奴はいないからな。」


幼なじみから全幅の信頼を置かれている親友に若干の嫉妬し、いやいやいやと考えを改める。

こんなことですら嫌な気持ちを持ってしまうなんて……恋をしてから心が狭くなった気がしてならない。


私が「太陽の方は?」と聞き返す前に、太陽は準備に戻ってしまった。

周りを見渡すと、そこは倉庫らしく箒やちりとり、パイプ椅子等が雑多に置かれている。

ただ、出入り口からは道ができており、中央には私達が2人入っても余裕があるくらいのスペース。

きっと太陽が作ったのだろう。床には物を押した際にできる跡がある。


「私、そっち行っても大丈夫?」


「あぁ。あともう少しで準備が終わるからそこに座っといてくれ。」


太陽が指差したのは、スペースの隅に置かれたパイプ椅子。

こういうのを準備してるところが、太陽の優しいところだな。



それから数分、何やら細かい記号や数字のような物を床に書き、最後に円で囲み、中央にSTORY TELLERを置いた。

これは……魔法陣??


「できた!!さて若葉、こっちにきてくれ。」


「いやいや、私が行ったら魔法陣が壊れちゃうよ。」


私の魔法、太陽も知ってるでしょ?

けれど、太陽はちょいちょいと手で私を呼ぶ。

もう、どうなっても知らないんだからね。

私は心の中でそう呟きながら、恐る恐る魔法陣の中に入った。


が、特に何も変化はない。


「あれ、魔法が消えない?」


「まだ魔法は使ってないからな。」


あっ、そういうこと。

確かに魔力は感じないし、消した感覚もなかった。


「それでどうすればいいの?」


太陽がSTORY TELLERを開くと、そこには新たな文字と魔法陣が書き加えられている。この魔法陣、太陽が描いたものと一緒だ。


『時は満ちた。魔法を消し去る少女の手を、この本に重ねよ。道は開かれる。』


「私…自信ない……」


太陽だって私の魔法のこと知ってるよね。いくらSTORY TELLERの言葉でも、さすがに……


何より私の手で全部台無しにしてしまうのが怖い。



ううん、それもあるけど……これ以上幼なじみに幻滅されたくない……



「時は一刻を争うんだ。俺ができるのであればなんでもするけど、今はこれしか頼れるものがない。若葉、頼むよ。」


私の気持ちを知ってか知らずか、両腕をぎゅっと握られじっと見つめられる。

私に触れたことで魔法が消却され、部屋を照らしていた光が消える。真っ暗になったことで更に不安が増す。


「頼むよ。」


もう一度。太陽の聴き慣れた少し低めの声が、暗闇に包まれた部屋に静かに響く。


うぅ…やっぱり自信はないけど……

ここまで言われたら断ることもできず……その分不安な気持ちをいっぱい言葉に乗せてつぶやいた。


「……分かった。」


太陽は私から手を離しても新しく光の玉を出現させることはなかった。本の位置は分かるから問題ないのだけど……

その暗闇は心を表しているようで。

太陽と喧嘩して、まだ仲直りもできてない状態で、こんなことになって。


でも、太陽が頼ってくれる。それはとっても嬉しいこと。だから、頑張らないと。

ただでさえ、私は彼に助けてもらってばかりなのだから。



覚悟を決め、ゆっくりSTORY TELLERに手を伸ばす。


触れた瞬間、魔法陣が光り輝き、身体の中からブワッ(正確には音はしなかったんだけど、感覚的に)と何かが噴き出した。

それは魔法陣の中に留まり、溶け込んでいく。


「なんで若葉にこんな魔力が!?」


驚く幼なじみ。いや、驚いているのは私も同じ。これは確実に魔力だ。しかもすごい量の。

でも、それは自然界に存在する魔力じゃなくて、紛れもない私の魔力。


魔法を消すこと。それが私の魔法のはずなのに……どうして?


魔法陣の輝きがいよいよ強くなり、浮遊感が生じる。この後どうなるの?


「若葉!!」


咄嗟に差し出された右手を、左手で強く握り返す。


シューンッ

次の瞬間、私達は階段下倉庫から、跡形もなく消えていた。



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