表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
STORY TELLER  作者: 茶々丸
魔法邂逅編
PR
74/168

074 惜別の花

「おそらくここだよな。」


「うん、私達がこの世界で最初に目覚めた場所。それに、この建物……来た時は全然気がつかなかったけど、旧校舎に似てるよね。」


あの時はとにかく必死で、この建物自体をまじまじとみることはなかったけど、建物全体の形や扉は確かに似ているような気がする。


「調査を王様達に任せてたから。もしかしたら私達が確認してれば、もっと早く気付いたかもだね。」


「まあ気付いたとしても、鍵がなきゃ結局帰れなかっただろうけどな。」


STORY TELLERから出現した鍵は今、4人の首元にかかっている。

細かく調べたが、4本とも形も重さも同じだということは分かったものの、材質は不明だし、魔力は探知できないしで謎に包まれていた。

ただ、なぜか分からないけれど、旧校舎の鍵だということだけは4人とも分かるのだ。



12月25日、クリスマス。

元の世界に帰れる目処がついた俺達は、お世話になった人達にお別れの挨拶をしに行った。俺達が他の世界から来ていることは、最後まで隠し通した方が良いと王様から言われていたので、急に故郷の国に帰らなければいけなくなったということにした。

この世界で特に仲良くしていたミーナのアンナは急な出来事に驚き、とても悲しんでいたが、なんとクラスメイト全員を招集し、お別れパーティーを開いてくれたのだった。


「4人がいてくれたから、私の大事なものを守ることができた。また歩き始めることができた。だから……ありがとう。」


「4人がいてくれたから、勇気を持てた。正しいことを正しいって言えるようになった。ありがとう。」


別れ際、ポロポロ涙をこぼしながら2人に言われた言葉。この世界に来て良かったと心の底から思えた瞬間だった。



そして12月26日。早朝。

俺達はこの世界に来た時と同じ場所に、当時と同じ格好で戻ってきていた。


「ちゃんとお別れはできたのか?」


「あぁ、1人を除いてばっちりだ。悪いな、日にちを伸ばしてもらって。」


「いいのじゃよ。区切りというのは大切なものじゃ。永遠の別れとなれば、尚更じゃ。だから、申し訳ないのぉ。父親として謝らせておくれ。」


ここにいるのは、俺達が他の世界から来たこと、そして戻ることを知るショーンさん、エリーン先生、そして王様。

はぁと大きくため息をつき、首を振るショーンさん。


「ったく、マーレのやつ……あいつを擁護するわけじゃねーが、お前らが帰れることを1番喜んでるのは他でもないマーレだ。

ただ、同時に1番一緒にいたいと思っていたのもあいつだから。きっと気持ちの整理がつかないんだと思う。」


「分かってます。だって、俺達も同じ気持ちですから。」


マーレの気持ち、俺も痛いほど分かる。仲が良いほど、大切な人ほど別れって辛いものだから。


若葉はエリーン先生と、海斗兄はショーンさんとそれぞれ話している。俺と里穂姉はもう一度建物を確認し、鍵穴を覗き込んでいると……


「太陽、忘れ物じゃよ。」


王様が差し出した物は、寝室に置いてきたはずのSTORY TELLER。俺は首をゆっくり横に振る。


「それはこの世界の宝です。俺が触ってしまったので、もう使い物にはならないと思いますが、それでも元の世界に帰る俺が持っているわけにはいきません。」


里穂姉も隣で頷く。これは4人で決めたこと。できる限りこの世界の物は持ち出さない。きっとその方がお互いのためだから。

けれど、王様は静かに笑うだけで、STORY TELLERを差し出したまま。


そのままの状態が10秒、20秒と続く。


「王様、本当に受け取れません。」


「里穂、この本は君達が持っていなければ意味がないのじゃ。

太陽、持ち主として、最後までその本の面倒を見てくれないか?老人の頼みだと思って。」


互いをじっと見つめ続ける6つの瞳。


「俺以外は、もう絶対に使うことはできないんですか?」


「左様。」


「この本を持ち出して、何かが起きることはないんですか?」


「それは分からん。やったことがないからのぉ。ただ、それでもわしは君達にこの本を託したいのじゃ。きっと役に立つはずじゃ。」


他ならぬ王様の頼み。ここまで言われては仕方あるまい。俺はSTORY TELLERを受け取ると、カバンの中にしまった。




空が白み始める。もうすぐ夜明けだ。

こんなところに来る物好きはいないと思うが、何が起きるか分からない。出発は早い方がいい。


「それじゃあ、そろそろ私達は行きます。とは言っても、どうなるかはまだ分からないんですけどね。」


「STORY TELLERが言っているのであれば、大丈夫ですねぇ。若葉の消却魔法がどう作用するかは気になりますがねぇ。」


「えっ、どうしよう私だけ戻れなかったら……」


というわけで、まず初めに若葉が鍵を差し込むことになった。最後に若葉が扉に入ったら、帰れませんでしたは洒落にならないからな。


若葉が鍵を差し込もうとゆっくり手を伸ばす。その手が緊張で震えているのが分かる。鍵が鍵穴に触れるか触れないかまで近付いた時……


バサッ、バサッ、バサッ。

大きな羽音が上空から響き渡った。上を見ると、よく知っているドラゴンがゆっくり降りてくる。


「ルーラ!」


里穂姉が手を伸ばすと、着地したドラゴン……マーレのドラゴンであるルーラが、一枚の手紙を渡す。

優しく撫でながら受け取ると、透き通るような水色の手紙に書かれた宛名をゆっくり確認する。


「マーレからだわ。」


里穂姉は魔法で綺麗に上部を切り取ると、中から同じ色をした便箋を取り出す。




拝啓 大切な私の親友達へ


お見送りに行けなくてごめんなさい。でも、行ったらきっと迷惑をかけてしまうから。「帰らないでほしい。」って言ってしまうと思うから。泣いている私を見たら、きっと優しいみんなは困ってしまうと思ったから。

だから、お見送りには行けません。ごめんなさい。


みんなと過ごした半年は、私にとってかけがえのない宝物です。大変なこともありました。怒ったこともありました。悲しいこともありました。でも、それと同じくらい、楽しくて嬉しくて、わくわくする、そんな日々でした。

みんなは私を姫ではなく、1人の友人として扱ってくれましたね。この世界でそういう風に接してくれる人は、ショーンだけだったから。でも、ショーンにも立場があるから。だから本当に嬉しかったのです。

水族館、花火、文化祭、放課後の寄り道……どの時間も、私にとっては大切なものです。


太陽、いつも私のことを笑わせてくれて、元気にしてくれてありがとう。若葉、いつも私に笑いかけてくれて、抱きしめてくれてありがとう。海斗、いつも私のことを気にかけてくれて、助けてくれてありがとう。

そして里穂。私は母を知りませんが、父から聞いている母に、あなたはそっくりな人です。優しくて、聡明で、勇敢で、ちょっぴり緊張しいで。私の方が年上なのに、変ですよね。でも、そう感じたのです。里穂と一緒にいると、心が穏やかになるのです。だから、ありがとう。


最後に、私は宣言します。

みんなの世界に行く方法を必ず見つけます。

人がいっぱいで、高い建物が所狭しと建つ巨大な街や、透き通った青い海を見てみたい。今度は私がみんなの世界に行ってみたいのです。


だから、これは永遠の別れじゃない。私達はまた会えます。そちらの世界で、待っててください!


みんな、本当にありがとう。大好きです。


またね。

            マーレより




「なんだよ。言いたいことがあるなら面と向かって言えよ!!」


手紙の内容に、感情が抑えきれなくなってしまったのだろう。憤る海斗兄を諌める里穂姉。


「でもさ、海斗兄……私、マーレの気持ち、分かるなぁ。だって…私も、すっごく…さみしいもん。」


若葉が笑顔で、でもポロポロと大きな褐色の瞳から涙をこぼす。小さな幼なじみをスッと引き寄せると、俺の身体に身を預け俯ける。


俺も寂しいよ。



ヒューーーンッ………パアァッン!!



スカイキャッスルの横に大きな花火が上がる。

それは、この世界に来て、里穂姉が初めて使った魔法。

マーレが1番気に入ってくれた魔法。


「海斗、きっとまた会えるわ。だから……ねっ!」


海斗兄は右手を空高く掲げると、火の玉を打ち上げる。それは、打ち上げられてからきっちり3秒後、大空に大輪の花を咲かせた。


それはまるで、別れの言葉に応えるかのように。




「わしの娘の友人になってくれて。本当に感謝しておる。ありがとう。

さあ、別れの時じゃ。太陽、若葉、海斗、里穂、達者でのぉ。また会えるその日まで。」


王様。


「お前ら、次来た時は4賢者を継いでもらうからな。」


ショーンさん。


「元の世界でもしっかり学び、成長してくださいねぇ。」


エリーン先生。


「今まで、ありがとうございました。」


全員で一礼。深々と頭を下げた俺達は、パッと振り返り扉に向き直った。



俺達がこの世界に来た時より空はずっと高くなり、足元の風に揺れる草は、種類を変えている。


約半年か……元の世界はどうなっているのだろう。

父さん、母さんは心配してるかな。友達は、先生達は、俺達を受け入れてくれるかな。



若葉が勢いよく鍵を鍵穴に差し込み、右に回した。


ガチャリ!


とドアの開く音が聞こえたと同時に、俺達はこの世界から跡形もなく消え去ることとなった。






激動の日常と共に




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ