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STORY TELLER  作者: 茶々丸
魔法邂逅編
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069 黒幕

ウォーデン国特旗隊第3部隊隊長のヤリス。

俺達がこの世界に来て初めて対峙した敵。こいつのせいでたくさんの魔導師が死に、俺達もマーレも死にかけた。

ケルベロスを召喚したときに死んだとばかり思っていたが……


「いやぁ、それにしても、見違えましたね。ヤリスとして初めて会った時から2ヶ月ちょっと。魔法のまの字も分からなかった子ども達が、まさかここまで強くなるとは。」


俺、里穂姉、海斗兄、若葉の順で一瞥した後、静かに笑みを浮かべる。戯けた感じの口調で話すが、こいつは油断ならない。いつでも魔法を放てる状態にして様子を見る。


「ジェラールはどうした?」


ショーンさんの厳しい口調。


「ジェラールさんは、俺の中でちゃんと生きてますよぉ。使い所はたくさんありますし。もちろんさっきまではちゃんとジェラールさんです。

あっ、でも本人は俺のこと、全然気付いてないですよ。記憶はうまく操作しているので。

国に忠実ないいやつでしたよね。その分、不信感を植え付けた後は早かったですが。」


「貴様……」


ショーンさんが高速の正拳突きを放つが、フィミールが間に入り止める。拘束していたサンダースピアは、先程の衝撃波で解除されたらしい。


「ありがとうございます、フィミールさん。」


「あんたのことは知らないっすけど……あんたからは王の匂いがするっすから。」


2人は腕を解き、距離を取る。ショーンさんの怒りは凄まじく、魔力がバチバチと音を立てる。


「さてと、正直なことを言うと、私とフィミールさんじゃ、もう勝ち目はないです。しかも、私の身体は闇の魔法の使い過ぎでボロボロですしね。ジェラールさんの肉体が無ければ、とっくの昔に死んでますよ。」


実際、ヤリスの身体の至る所に血管が浮かび上がり、骨と皮しかないようなガリガリな姿だ。顔も青白く、坊主頭は皮膚が剥がれかけている。


「なので、最後に一つ。私が慕い敬う至高のお方とお話ししてもらうための道具になります。ありがたく思ってくださいね。本来ならあなた方が話せるお人じゃないんですから。」


その言葉を最後に、ヤリスの足元に魔法陣が浮かび上がる。あの色、闇の魔法陣だ。


「わかちゃん!!」


「分かってる!!任せて!!」


いざとなったら若葉の消却魔法がある。

しかし、いざという時は来なかった。代わりにヤリスが白目を剥き、身体が浮かび上がる。天井についたシャンデリア付近まで上昇する。豪華なシャンデリアと、貧相な男のミスマッチ具合が凄まじい。


魔法陣から黒い何かが立ち上り、ヤリスを包み込んだ。そして、黒いオーラを纏った男は、ゆっくりと話し出す。


「こんばんは。初めましての人もたくさんいるね。」


少し高めの柔らかい声。けれど、王様と同じように威厳に満ち溢れ、逆らってはいけないような気分にさせられる。


この人は、誰だ??

間違いなくヤリスではない。


「……ウォーデン王、ハイル……」


呟いたのはマーレだった。その言葉に、俺達は言葉を失う。

ウォーデン王……ハイラスマーレ国に一方的に戦争を仕掛けてきた国の王。

俺達を無理矢理連れ去ろうとした男。


「マーレは私のことを知っているね。一度会ったことがあるからね。あれは確か5年前かな?時が経つのは早いね。」


この話し方……正直、ウォーデン国の王はもっと武闘派で、荒っぽい人を想像していたけど、どうも違うように感じる。


「それから、挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません、ハイラスマーレ王。尊敬する偉大な……」


キィーン!!突然金属を擦るような音が耳を貫く。あまりの音に、耳を手で塞ぐ。

すぐにその音は落ち着いたが、2人の王を除き全員同じような姿勢をとっていた。


「ウォーデン王、次にいらんことを言おうとすれば、お主の精神を別の空間に吹き飛ばさねばならんのぉ。」


なんて空気の重さ。ウォーデン王に向けられた言葉のはずなのに、俺の体にも震えが生じる。隣の里穂姉も固まっている。

王様、めちゃくちゃ怒ってる?けれど、振り返って顔を確認する勇気はない。


「ふふ、冗談ですよ王様。これは私と貴方の大切な大切な秘密ですもんね。

それにしても、酷いですねぇ。今回の戦争、ハイラスマーレ国では私が悪者になってるんですよね?

確かに仕掛けたのは事実ですけど、そうなる理由を作ったのはそちらではないですか。」


聞きたいことは山ほどある。

王の秘密?戦争の理由?

けれど、誰も口を開かない。いや、開けないと言った方が正しいか。


何も言わない王様から、今度はこちらに顔を向けるウォーデン王。白目を剥いたままこちらを見つめるおぞましい姿に身体が強張る。ゆっくりと視線が移り、ため息をつく。


「それで、この子達が選ばれし子ども達ですか。なるほど、確かに素晴らしい力の持ち主だ。」


「選ばれし子ども?俺達のことを言ってるのか?」


海斗兄が思わず質問をぶつける。ショーンさんとマーレが止めようとするが、見えない何かがそれを妨害する。


「そうです、君たちのことです。浅間太陽君、関若葉さん、本田海斗君、木崎里穂さん。知りたいですよね。君達がなぜこの世界に呼ばれたのか。」


この人は俺達がこの世界に呼ばれた理由を知っている?王様も知らなかったことを?


……いや、王様も本当は知っているのか?ただ、俺達に話していないだけで。


海斗兄が一歩前に出る、まるで引き寄せられるように。黒いオーラに包まれていることで、表情はよく分からないが、ウォーデン王の口角が上がったような気がした。

更に一歩……だが、海斗兄がそれ以上近付くことはなかった。2人の間にハイラスマーレ王が割って入る。


「話したいことは、そのことか?だったら話さなくて結構じゃ。国にこそこそ隠れ、闇の魔法で意識のみ飛ばしているお主に分かるはずはない。偽りで大切な子ども達の心を乱すのはやめてもらおう。」


突如、シャンデリアを含めたウォーデン王の周囲の空間が歪み始める。歪みはどんどん大きくなり、顔や身体が捩れる。


「王様、ジェラールの身体ごと異空間にとばすつもりですか?」


「致し方ないじゃろう。貴族長の精神は、深いところまで犯されておる。生き残ったとしても辛いだけじゃ。

それに、仕留めるチャンスを逃すわけにはいかん。こやつさえ仕留めればこの戦争も終わるのじゃ。」


厳しい言葉に息を呑む。1人の命で戦争を止めることができる。確かにその選択は正しいのだろう。でも、もしそれが大切な人の命だったらと考えると……

そんな王の非情な判断に、せせら笑う男。


「その判断が出来るのであれば、自分の行いに対しても考えを改められるのではないですか?それとも、自分は別だと?」


「黙っとれ。貴様の命もあと数十秒じゃ。」


捩れは最大限に達し、もう身体の原型をとどめていない。


これで戦争が終わる。


ウォーデン王の言葉により、心は大きく掻き乱されているが、この戦いが終わるのであれば……と自分に言い聞かせる。


「うん、これ以上はさすがにもたないですね。それでは、そろそろお暇させてもらいます。あっ、フィミール君はこれからも私のもとで働いてもらわなければいけないので、連れて帰りますね。あと置き土産を一つ、置いていきます。楽しんでください。」


「貴様は逃さんぞ。」


王の手の平が閉じる寸前、どす黒い魔力がジェラールの身体から吹き出した。それはフィミールを一瞬で包み込み、跡形もなく消えた。


そして、ズチッ、という引きちぎられるような音と同時に、ジェラールの身体が消えた。

やったかに思えたが、次の瞬間、頭の中にウォーデン王の声が響き渡る。


『いいですか。正しいか誤りか、判断を人に委ねてはいけません。自分で導き出すのです。君達の判断で、世界は大きく変わります。忘れないように……』


『おい、どういうことだ!!』


しかし、もう声は聞こえない。その後も何度も呼びかけてみたが、返答はなかった。




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