066 絶望と希望
状況は思った以上に悪い。
王族と4賢者だけが知る隠しエレベーターで王の部屋まで直通で向かった俺とマーレ。
しかし、部屋に入るとその状況に愕然とする。
王座を背に、両手に拘束具をつけられて床に押さえつけられる王。その横に立つ貴族長、ジェラール。その前に立ち塞がる貴族6人。どいつもかなりのやり手だ。1対1なら負ける気はしないが、7対2となると……正直厳しい。
王を縛る拘束具、あれは魔石で作られているのだろう。しかも、対抗戦で貴族のガキどもが使っていたものとは比べ物にならないくらい高純度な魔石で、全属性を吸収する。
普段だったら、王があんな拘束具を簡単につけられるわけがない。ということは、恐らくスタジアムに捕らえられた国民をネタに脅されたのだろう。卑劣な奴らめ。
とは言え、相手も俺達の登場は予想外だったらしい。驚き、うろたえる様子が見れる。
確かにあの魔法陣、本来であればこんなに早く突破されるわけないからな。
「お前達、どうやって……」
ジェラールが声を絞り出す。が、答えてやる義理はない。
「さあな。それより、王を放せ。さもないと、全員バラす。」
「本気で言ってるんっすか、ショーンさん。あなたと姫が手を出せば、俺達は即座に王を殺すっす。」
まあ、そうなるわな。こうなるとおいそれと手は出せない。
俺達が動かないのを見て、貴族達は余裕を取り戻していく。想定外のアドバンテージは、消えたに等しい。
「ショーン、マーレ……すまん。
わしのことは良いから、こやつらを倒すのじゃ。」
黙ってろと、貴族の1人が王の顔を蹴り上げる。反射的に雷の矢を放つが、先程の「~っす」の長身スキンヘッドが拳で打ち落とす。
「ショーンさん、今の状況分かってるっすか?王様、マジで殺すっすよ。
それから、王様も無駄なおしゃべり厳禁っす。」
ぐっ、と拳を握りしめ、堪える。王が殺されれば、この国は終わりだ。
王座の背に位置する窓から見えていた陽が完全に落ち、部屋の灯りが自動的に明るくなる。
「こんなことをして、何が目的なのですか?
あなた方貴族は、私達王族と共に、今までこの国を支えてきたではありませんか。そんなあなた達が、こんなことをするなんて、いまだに私は信じられません。」
ここにきてマーレが初めて口を開く。
「目的?それをあなたが聞くのか、姫様。
あなたの言う通り、我々貴族は、王族をずっと支え、国を良くしてきた。それが誇りだった。だからこそ、許せなかった……」
今度はジェラールが拳を握りしめる。そのあまりの強さに、爪が食い込んだのか血が滴り、大理石の床に赤いシミを作りだす。
「公にはウォーデン国が理不尽な要求をしてきたことから戦争が始まった事になっているが……実際には、この戦争は王が始めたのだ!しかも自分の私利私欲のために!!」
「俺はそんな話知らん!!」
「私もです!そんなことを知っていれば、私は王を……父を止めていました!!」
完全にデタラメだ。そんな話、ジェラールはどこで聞いたんだ?
私達が反論するのに対し、青い髪をかき上げ、ジロリと睨みをきかせる。
「お前達が知っていたか知らなかったかなんてどうでもいい。肝心なのはその事実があったかどうかだ。
俺はそれを聞いて、この国はもうダメだと思った。だったら、いっそのこと俺達が上に立ち、この国を変えようと考えたのだ。」
変えるためには、国と戦うための力と金が必要だった。そのため、闇の魔法に手を出したり殺し屋などの犯罪者と手を組んだり、国民から多くの税を徴収したりしたということだった。
「貴族長、あんたはその話、どこで誰に聞いたんだ。」
「それは……」
その先の言葉が出てこない。まるで口を縫いつけられたかのように。これは、口止めの魔法か??
「話はここまでっす。理由はわかったっすよね。俺達はこの国を今の王には任せられないっす。そして、あんた達4賢者も、新しい国づくりにおいては、目の上のたんこぶになるっす。」
ジリジリと、貴族達がこちらに近づいてくる。手には王につけている物と同じ拘束具。
恐らく、こいつらはここで俺達を殺すつもりはない。俺達を殺せば、エリーンを筆頭に、残りの魔導師達と戦うことになることは明白。ここで捕まえて、俺達を人質に降伏を迫った方が手っ取り早いだろう。
そして、全てを終えた上で、国民の前で俺達を処刑すれば……革命の完了だ。もう貴族達に逆らえる者はいない。
万事休す……か?と諦めかけたその時。
ふと、頭の中に見知った声が流れ込む。しかも、超厳重にプロテクトされた秘匿回線で。
その内容に、思わず俺は笑ってしまった。
「何がおかしい!お前達は何もできず捕まり、必要な時に殺されるんだぞ!」
俺の不気味な笑みに、不安がよぎったのだろう。ジェラールは、王の首に震える手を添え、叫ぶ。
あいつらも余裕があるわけじゃない。まあそうだよな、本来ならここに俺達はいないはずなんだもんな。
けどな、お前の予想外は、ここからがクライマックスだ。
その作戦でいけるはずだ。あとは自分を信じて、仲間を信じて飛び込んでこい!
俺は両手を挙げ、降伏とも取れる仕草をとる。貴族長は「はったりか。」と胸を撫で下ろし、手を下ろしたその時。
俺はその両手を下に振り下ろし、叫んだ。
「突っ込め!!」
バリーン!!
俺の号令と同時に王座の後方の巨大な窓ガラスが砕け散り、4人の人影が暗闇から無数の破片と共に舞い降りてくる。
俺以外の全員が、ギョッと目を見開き、そちらを見る。無理もない、本来であれば強力な魔法で守られており、割ることなど不可能なガラスだ。
ただ、俺達の弟子には、それを可能にする優秀な魔導士がいるんだよな。
さあ、反撃開始だ。
任せたぞ、弟子達!!




