065 memories
触れた瞬間、さまざまな映像が頭の中に流れ込んでくる。そのあまりの量に、咄嗟に本から手を離そうとするが……離せない!?
どんどん流れ込んでくる。これは、記憶?
1人の魔導師。顔はモヤがかかっていてよく見えないが、見たところ若い男性みたいだ。
魔導師は、様々な物と戦っている。あれは……ミサイル?潜水艦?戦闘機?あらゆる魔法を使いながら戦い、時にケガをした人を助ける姿は、まるで教科書のようで。使っているのはどんな魔法なのか、属性、使用魔力量、呪文まで、色んなことが手にとるように分かる。
その内に、舞台は焼け野原の荒野へ。魔導師は泣いているように見える。彼が腕を振ると、巨大な城ができる。その周りにどんどん建物が建っていく。それが街になる。もう彼は泣いていなかった。城の前で堂々と立つ姿は、自分の世界を失い絶望する民達を先導するには十分すぎる勇ましさだった。
すごい魔法の数々だった。
そして、私はもうその魔法を全て使うことができる。
ふと、魔導士が私の方を見る。
見えてるの?私のこと?
そして、にっこり笑うと(正しくは笑ったように見えた、だけど。)一言。
「里穂、自分らしくだよ。」
フッ……目の前が暗転した後、急に場面が大きく転換する。
ここは小学校!?
目の前には体育館の壇上で固まる女の子。その姿を見て、ひそひそと心ない言葉を呟く友人達。
「何でもできるからって、調子に乗ってるからこんなことになるのよ。」
「いい気味よね。」
顔を真っ赤にして震える少女は、小学6年生の私だ。
児童会長の就任式。原稿用紙3枚分のスピーチ原稿を頭に叩き込み、いざ会長として抱負を述べようとした時、頭が真っ白になってしまって……私は固まっちゃったんだ。
大きな失敗なんてしたことがなかった私は、自分の情けない姿がどうしようもなく恥ずかしくて。それに加えて聞こえてくるひそひそ話に心は折れかけていた。
でも、そんな私を救ってくれたのが、富士先生だった。
スタスタと壇上に登ってくると、私の横に立って大きな声で言ってくれたんだ。
「一生懸命頑張っている人を笑うんじゃねーよ!!
その後、私は最後までスピーチをすることができ、みんなに拍手をもらうことができた。
富士先生は色んな先生に言葉遣い等々で怒られてしまったみたいだけど、それでも後悔はないって言っていた。
そして放課後、先生は私に言ってくれたんだ。
「里穂、周りの声なんて気にするな。お前がやりたいようにやればいいんだ。
失敗したっていい。それをあざ笑って去っていく人は、最初から友達じゃない。
里穂、自分らしくな。」
その後、海斗達が来てくれて励ましてくれたっけ。あの時は本当に嬉しかったなぁ。
そうだ。失敗してもいいんだ。失敗しても、海斗、太陽、わかちゃんはいなくなったりしない。
私は私がやりたいことを貫くんだ。
私がやりたいこと。それは、大切な人達の笑顔を護ること。
立ち止まっている暇なんてない。
異世界なんて関係ない。
私は、私らしく生きるんだ!!
いつの間にか私はSTORY TELLERの前に戻ってきていた。情報量の多さで、頭痛が少しするけど、なんだかスッキリした気持ちだ。こんな気持ち、こっちの世界に来てから始めてかもしれない。
隣の海斗は何が起きたのか分からず戸惑っている。後ろには心配そうな顔をする太陽とわかちゃん。
「太陽、海斗、わかちゃん、ごめんなさい。」
急に謝る私に、さらなるハテナが追加された3人。その顔が面白くて、なんだか安心して……私はなんてバカだったんだろう。
「1人で責任抱えて、1人で勝手に潰れそうになって、ごめんなさい。みんなのこと、頼らないで……ごめん…な…さぃ……」
最後はきっと言葉になってなかったと思う。私は思いっきり泣いた。幼なじみ達の前で、初めてこんなに泣いた。
格好悪くていいんだ。隠さないでいいんだ。
みんなから頼られ、何でもできる、完全無欠な木崎里穂じゃなくなっても、見放すことなく、側にいてくれる。そんな大切な人を私も守りたい。
3人は私を優しく包み込んでくれた。
触れ合う部分が暖かくて。ほのかに薫るみんなの匂いが心地よくて。
「ごめんね……ありがとぉ……」
ちゃんと感謝の言葉も伝えることができた。
「それで、これからどうする?太陽、STORY TELLERは元の世界への帰り方は教えてくれたのか?」
私をギュッて抱きしめたまま、海斗は疑問を口にする。同じく私を抱きしめる太陽は、ゆっくり首を振る。
「俺が見たのは映像だけだ。記憶?みたいなやつ。一応一通り中のページも見てみたけど、全部白紙だった。」
全部白紙ということは、これから増えていくということだろう。最初から全てを示してくれるわけではなく、必要な時に必要なことを教えてくれる感じなのかな。
ということは、今必要なのはあの映像。
正しくは、あの映像……記憶から学んだ、戦う力。
「助けに行こう。」
小さい……でもはっきりとした私の強い意思に、待ってましたとばかりに頷く3人。
間違いなく危険。そんなことは百も承知だ。
でも、ここで行かなければ、例え元の世界に戻れたとしても、一生後悔したまま生きる事になる。そんなのは絶対に嫌だし、私……私達らしくない!!
それに、この4人なら、絶対何とかなる!!
「それなら早く上に戻らないとだね。」
早々とこの空間から立ち去ろうとする老婦人を急いで追いかける。
ミンフィさん、おばあちゃんなのに足が速い!
「ミンフィさん、ありがとうございました。」
「お礼なんていいよ。STORY TELLERは、あんた達が自分の力で勝ち取ったものだ。
それより、あんた達にこんなこと頼むのは筋違いの話だとは思うんだが……」
扉を出る直前、くるっと振り返り深々と私達に頭を下げる。
「ハイラスマーレ……あたしの古い友人を助けてやってくれ。」
この人、もしかしたら私達が異世界から来たことを知ってるのかもしれない。
おばあちゃん、筋違いなんかじゃないよ。私達は、たくさんたくさん王様やマーレやショーンさんやエリーン先生……この国の人達にお世話になった。この国がなければ、私達がどうなっていたか見当もつかない。
だから……必ず守るよ。
私達は大きく頷き、大きく一歩を踏み出した。
待っててください。
今、私達が行きます!!




