053 高等学院生徒対抗戦②
でも、隣にいる私は気付いてしまった。額から落ちる汗、乱れる呼吸、震える右腕。
「だっ、だいじょ……むぐっ。」
人差し指を唇に押し付けられ、最後まで言うことができない。太陽は『心配させてごめん』と口パクで伝えてくる。
そりゃ心配だよ。私のせいでこんな無茶させてるんだから。
『ごめん』って今すぐに伝えたい。でも、その言葉は、突然の来訪者によって放つタイミングを失った。
「まさかここまで強くなるとは。正直驚いたよ。念のため残りの2人を参加させなかったのは、やっぱり正解だったな。」
宝石のついたメガネに、長い金髪。
生き残っていた1チームはやはり貴族チーム。左右の岩陰から、メガロとロンヌも顔を出す。ルリットが参加しておらず3人チームだということは入場の時点で知っていた。
でも、太陽の広域魔法を受けたはずなのに、3人共全くのノーダメージだなんて。煌びやかな衣装には、汚れ一つ付いていない。
「ハウゲン、やっぱりお前達の仕業だったのか。」
「あなた達……関係のない人を巻き込んでおいて、よく平気でいられるわね!!」
2人を参加させなかった……ということは、ミサちゃんと店主さんを攫ったのはこの人達ってことだ。なんて人達……最低だ。
今までで一番の憎しみをこめて、全力で睨みつける私。対して全く反省の色が見えない貴族達。ハウゲンは不快な笑みを浮かべながら、話を続ける。
「ふん、お前らが甘いんだよ。あんな平民、放っておけばよかったじゃねーか。
まあ、そうすることができないって分かってたから、この作戦を提案したんだけどな。見事にかかってくれて、助かったよ。」
ズガーンッ!!怒りに任せて放たれた雷の奔流が、ハウゲンを捉えたかのように見えた。だが、直撃の直前で何かに吸収される。
何?今の魔法?
「お前ら、許さねーからな。対抗戦が終わったら全員まとめて牢屋にぶち込んでやる。
けど、その前にここで全員叩きのめす。覚悟しろよ。」
太陽の言葉遣いがめちゃくちゃ悪くなっている。私も怒ると怖いってよく言われるけど、太陽ほどじゃないと思ってる。これはもう完全にお怒りだ。
「なかなかの威力だったが、怒りからかコントロールが乱れていたぞ。それに威力もだいぶ落ちている。お前、余裕そうに見せてるが、かなり疲れてるだろう。
大方、実力を見せつけて時間を作り、ボロが出る前に大魔法で一気に方をつける算段だったんだろうが、残念ながら、俺達はピンピンしているぞ。」
何も答えない太陽。首筋に一本、汗がツゥっと流れる。
「魔法陣よ!我らを守りたまえ!」
私達を中心にした半径5mの円陣が輝く。
あらかじめ用意していた魔法陣を展開した太陽。この中であれば、外からの攻撃を防ぎ、話し声も視界も遮断できる。もちろん太陽の魔力が続く間だけど。発動中は常に魔力を消費するから、長い時間はもたない。
外では、魔法陣を破ろうと、貴族達の一斉攻撃が始まる。鋭い魔法の数々が、壁にぶつかり陣を揺らがす。
「若葉、ごめんな、心配かけて。」
今度は口パクではなく、はっきり言葉で。
申し訳なさそうに笑う太陽に、私は思わず泣いてしまった。
困らせるから、絶対に泣かないって決めてたのに……最近泣いてばっかしだ…
「わた…しの方こそ、何も出来なくてごめんなさい……」
顔を上げられない。情けなくて、悔しくて。こんな私が、何もできない私がここにいることが間違ってるんだ。
私がいなければ、もっと自由に戦えるはずなのに。
私は…なんて無力なんだろう……
「若葉、何もできなくてもいいんだ。」
えっ?
驚いて顔を上げると、太陽がいつもの優しい顔で笑ってる。
「お前がそばにいてくれるから、俺は頑張れるんだ。だから、何もできなくてもいい。」
「でも……」
また人差し指で言葉を止められる。
その先は言っちゃダメだって。
念話じゃない。私は念話は使えないから。
でも、はっきりと聞こえたような気がした。太陽は話を続ける。
「残念だけど、ハウゲンの言ったことは当たってる。
魔力自体にはまだ余裕はあるんだけど、コントロールに集中しすぎて、疲労が出てきてる。だから、広域魔法で終わらせるつもりだったんだけど。どうやら奴ら、俺の雷魔法に対して対策をしてきたらしい。」
「うん、あの吸収魔法だよね。私の魔法と似てるようにも見えたけど……」
私は気持ちを切り替えて、少しでも役に立てればと頭を働かせる。
あれは彼らの魔法なのか、それとも、服に付与されている魔法なのか……
もしも服だったら反則なはずだけど、もうすでに犯罪にも手をつけているんだ。この程度のことに躊躇はしないだろう。
「とりあえず、雷の魔法は一旦使わずに攻めてみる。得意魔法を封じられるのは痛いけどな。
大丈夫、俺はまだ諦めてないよ。ただ……一つ約束して欲しいことがある。」
この顔は、きっと私が困ること、傷つくことを言う時の顔。
「もし……もしも俺が負けるようなことがあったら、若葉はすぐ棄権して欲しい。」
うん、そう言うと思ったよ。
悔しい……悔しいよ、とっても。言い返したい。私も最後まで戦いたいって。
でも……分かってる。これは私のことを思ってのこと。もし私1人になったら、魔法は全て消失させられる。でも、そうなったら、彼らは容赦なく私のことを痛めつける、暴力で。
だから……私は今できる精一杯の笑顔で。
「分かった。約束。もし、負けちゃったら……一緒に王様に謝りに行こっ!」
言うしかなかった。
「ありがとう、若葉。よし、じゃあ行ってくる。」
「うん、行ってらっしゃい。無茶、しないでね。」
親指をビッと上にあげると、太陽は戦場に戻っていった。
「私にもっと力があれば……」
ポツリ
そう呟くことしか、出来なかった。




