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STORY TELLER  作者: 茶々丸
魔法邂逅編
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50/168

050 誘拐犯と大きな影

「ねえ海斗。太陽とわかちゃん、大丈夫かな?」


「心配っちゃ心配だけど、太陽がああ言ったんだから、信じるしかねーよ。

大丈夫、何の根拠もなくあんなこと言うやつじゃないし、里穂もあいつの2週間の頑張りと成長、見てただろ?」


誘拐犯のシナリオに乗っかるのは本意じゃない。が、大切な2人の命がかかっている。

結局あの後も良い案は出ず、太陽と若葉が対抗戦に、俺と里穂が救出にあたることとなった。


やつらの狙いはほぼ間違いなく、対抗戦でのうちのチームの弱体化。そう考えると犯人はルリット達貴族のような気もするが、証拠がない。

今回は優勝賞品が豪華すぎることもあり、他のチームの可能性もある。

対抗戦はスタート時点でいない選手は参加することができない。仮に本当に5分前に居場所が分かったとしても、誘拐犯を倒し、店主さんとミサちゃんを救出してからセンターコロシアムに戻ることは不可能だろう。


「俺達はとにかく一刻も早く2人を助けることだ。里穂、頼りにしてるからな。」


「そうね。それにいざとなったらわかちゃんの消却魔法で全て消しちゃえばいいわけだしね。」


「はは、そんなことしたら、大変なことになりそうだな……」


それから俺達は、ミーナも入れた3人で、できる限りの状況を想定し、作戦や連携のパターンを打ち合わせた。

『2人で来ること』という条件があるため、ミーナは付いてくることができないのだが、それでも俺達より魔法経験が長い彼女の考えは、とても参考になった。



そして、ついに5分前。15時55分。

テーブルの上に置かれたメッセージカードは、時間ぴったりに音声を一文再生した。


「東の墓地で待つ。」


俺も里穂も顔を見合わせ、そしてしかめる。


よりによってあの場所かよ。


2週間前に俺達の軽率な行動から、危うく死にかけたあの場所。この世界で行きたくない場所ランキング、文句なしの第一位。


「もうあそこには行きたくなかったけど……そんなこと言ってられないわね。」


無意識の内に右脇腹に手を置き、呟く里穂。俺が殺し屋に刀で刺された箇所だ。

今度は絶対に同じ過ちは繰り返さない。大切な幼なじみに、あんなきつい思いはさせられない。


「今度は俺が守るから。」


「うん……よろしくね。」


里穂の小さい手が、俺の小指をキュッと握りしめた。





フローズンフローズンを出発してから30分後、俺達は墓地の入り口にいた。

相変わらず不気味なガーゴイルの像が、黙って見下ろしてくる。


追跡されやすい転移魔法は使わず、身体強化の魔法を付与し、走ってここまで来た。移動中は探知魔法を張り巡らせていたが、怪しい反応はなかったことから、きっと尾行はされていない。

到着してからは、怪しい魔法が仕掛けられていないか、魔法陣はないか一通り調べたのだが、こちらも確認することは出来なかった。


「何もない……ってのも、正直気になるよな。」


誘拐犯は自分に都合の良い場所を選んでいるはず。準備する時間だってたっぷりあったはずだ。

なのに、なぜ?


「うん、私もそう思う。でも、突入しないわけにもいかないし……

私の隠蔽の魔法も、認識されている相手にはほとんど効果がないから、もう正面から行くしかないわ。海斗、しっかり強化の魔法をかけてからいくよ!」


パッっと今度は俺が里穂の手首を掴む。驚いた表情をする幼なじみ。俺はもう一度ギュッと握りしめ、瞳を合わせる。


「里穂、今回は肩代わりの魔法はなしだ。約束してくれ。」


1秒、2秒……じっと合わさる2組の瞳。

これだけは譲れない。もう二度とあの魔法は使わせないと心に決めたから。


「よく分かったね。」


「何年一緒にいると思ってんだ。」


魔法のことは分かんないことだらけでも、お前のことは、何でも知ってんだ。

ずっと隣で見てきたからな。


「分かった。肩代わりの魔法は使わない。代わりに海斗も約束して。

無茶しないで。『命をかけて』なんて思わないで。

海斗が私のこと、大切に思ってくれてるのと同じくらい、私だって海斗のことが大切。いい?約束だよ!」


指切りのための小指。その細い小指に自分の小指を絡める。


「約束、破ったら針千本飲ますから。私、本気だからね!」


ぷぅと頬を膨らませる里穂が可愛くて。

何かあったらきっと俺は『命をかけて』守るだろう。例え針千本を飲むことになっても……だ。



「じゃあ行くか。俺が先行するから、里穂は探索しながら後衛を頼む。」


「了解。カウントいくよ。

3、2、1……GO!!」


俺は一歩で門と守衛室を通過し、高速で動き回りながら周囲を確認する。今のところ何も発見できていないが、墓地内にいるのであれば時間の問題だ。西側のエリアを一通り見終わったところで、念話が入る。


『海斗!東の出口、守衛小屋の中に3人!1人はとても小さい魔力だからきっとミサちゃんだと思う!』


『オッケー。意表を突くために、屋根を突き破って誘拐犯を捕まえる!小屋の中の詳しい状況と、侵入時の目眩しを頼む!』


里穂から伝えられた小屋の内部の状況を頭に叩き込み、一回の跳躍で侵入できる位置にスタンバイする。

入り口側に里穂が到着し、右手を前に出す様子が横目に入る。


ヒューン……パーンッ!!!


放たれた光弾は扉の穴を通り抜け、凄まじい豪音と共に閃光を放った。


と同時に屋根を突き破り小屋の中に侵入する。視界確保の魔法をあらかじめ里穂にかけてもらっていたため、眩い閃光の中でもいつもと同じように動くことができる。

誘拐犯は左手にナイフのような物を持っているが、閃光から目を守るために腕を使っており、人質から最も遠いところにある。


今がチャンス。


俺は一瞬で距離を詰めると、ナイフを右足で蹴り上げた。男は俺の存在に気付いたが、もう遅い。ローキックでバランスを崩した後、そのまま床に倒し、圧縮氷結魔法で両手を地面に拘束した。


少しずつに光が止んできたところで、正面の入り口から里穂が駆け込んでくる。


「ミサちゃん、店主さん、しっかり!!今解きますからね!」


反応はない。どうやら2人とも気絶しているようだ。


里穂が2人の縄を解き、安否を確認している間、俺は誘拐犯に向き直る。フードを被っていて中は見えないが、この金色の時計には見覚えがある。


「ルリット、やっぱりお前だったか。」


勢いよくフードを引き上げると、予想した通りの顔がそこにはあった。


「対抗戦開始時間から30分、随分かかりましたね。

大方以前の失敗でも思い出して、慎重に慎重を期したのでしょう。トラップも何もない場所をご丁寧にね。」


拘束されているとは思えないほどの余裕。

こいつふざけやがって。関係のない2人を巻き込んでおいて、よくもそんな態度がとれるな。


ドゴッ!


あまりにも腹が立った俺は、ルリットの横っ面に拳を叩き込む。

もちろん身体強化は解いてあるが、口の中が切れたようで血が滲みだす。

だが、ルリットの余裕の笑みは崩れない。


「無抵抗な人間に拳を振るって良いのですが?あなた達は正義の味方なのでしょう?」


こいつ、もう少し痛い目に遭わないと事の重大きさが分からないようだな。

もう一度、今度は先程より振りかぶって拳を振り下ろそうとした時、


「待って!ルリット、あなた魔力が……」


里穂の言葉に初めて余裕の笑みが消える。同時に顔が真っ赤になり、体が小刻みに震え出す。


「魔力?あぁ、無くなったよ!!お前らのせいで家族全員な!!

お前らがいらねーことしなければ、こんなことにはならなかったんだよ!!

おかげで俺達は貴族の位も取り上げられて、家もなくして……最悪だよ!!」


いらないことって……あぁ、なるほど。ピンときた。


「あの時、俺達に尾行されたことで家族全員罰を受けたってことか。でも、お前らが尾行されるような怪しいことしてるからだろ。」


肯定も否定もしないところを見ると、当たりなのだろう。

逆恨みにも程がある。呆れてものも言えない。

だが、だからと言ってこの世界で1番大切な魔力を根こそぎ奪うなんて。しかもルリットの話だと、家族全員分。

仲間のはずなのに。


「海斗の言う通りだわ。家族全員というのは同情するけど、それでもあなた達の行動がこの事態を招いたんでしょ。」


里穂と俺の言葉に言い返そうと頭を上げようとするが、拘束されているため動くことはできない。

諦めたようで、大きく息を吐いたルリットは、また笑みを浮かべる。


「まあ好きに言えばいいさ。寛大なるあの人は、俺……俺達にもう一度チャンスをくれたんだ。今回の任務が成功すれば、魔力は戻ってくる。

俺の役割は、黒髪、お前を対抗戦に出させないこと。お前さえいなければ、ハウゲン達が負けるわけないからな。」


やっぱりうちのチームの弱体化が狙いか。

里穂しかマークされていないことに若干の苛立ちを感じるが、まあ仕方ない。確かにうちのチームの中では、里穂が飛び抜けて強い。




いや、『飛び抜けて強かった』の方が正しいか。

2週間前までだったら、の話だが。




「あなた達、太陽とわかちゃんを舐めてると、痛い目に遭うわよ。」


「ふん。たった2人、しかも魔法初心者に何ができる。いいさ、どうせ今から行ったって間に合わないんだ。ゆっくり待とうじゃないか。」


「何言ってんだ。人質は取り返したんだ。お前を今から魔導師達に引き渡す。覚悟しな。お前達がやったこと、全てしっかり伝えてやるから。」


俺はマーレに連絡を取ろうと意識を集中する。だが、一向に念話が繋がらない。

里穂がショーンや他の魔導師達に連絡しようとするも、同じ結果に終わる。


「念話は繋がらないよ。なんせ、魔導師達のほとんどはセンターコロシアムで対抗戦を観戦しているか、警護に当たっているからな。八百長や不正防止のため、外からの交信は遮断されているのさ。」


なるほど、人が一箇所に集まっている分、そちらに人員を集中させているということか。まあ確かに、こんな日に犯罪を犯すバカなんて、ほとんどいないだろうしな。ここにいるけど……


用意周到なやつめ。魔法が使えないということは、俺達に捕まるのももちろん想定内なはずだ。やはりこいつらのシナリオ通り進んでしまっているようだ。


いや……そういえばさっき寛大なるあの方とか言っていたよな?誘拐の理由の方に気を取られていたが、今回の計画、そもそもこいつらが考えたものなのか?



前回のここでの出来事と同じように、俺達はまた、とんでもなく大きな何かを敵に回しているのではないだろうか。



守衛小屋の窓から、西日が差し込む。外でしきりに鳴いているカラスの声を聞き、ますます不安が募る。


「里穂、2人の様子はどうだ?」


「しっかり呼吸してるし、外傷もないけど、全然起きる様子が無いわ。もしかしたら何かの魔法か薬品で眠らされているのかも。早くお医者さんに診てもらった方がいいと思う。」


もう救出してから5分以上経つ。回復魔法も使っているのに目を覚まさないということは、やはり何かされている可能性が高いのだろう。この場合はもう専門家に任せるしかない。

俺は頷くと、そのまま里穂だけに聞こえるように念話を飛ばす。


『里穂、なんだか嫌な予感がするんだが。』


『私も同じこと思ってた。とりあえずこのままここにいるのはまずいと思う。足がつきやすいから使いたくないけど、一旦転移魔法でフローズンフローズンまで戻ろう。』


俺よりも勘の鋭い幼なじみも不安を抱いているということは、いよいよ確定的だ。

早く2人を病院に届け、ルリットを引き渡した後、センターコロシアムに行かなければ。


勘違いであって欲しい。

ただ単にルリット達が自己顕示欲のために優勝したくて、ストーリーテラーが欲しくて、卑劣な手段を取っただけだというなら、どんなに良いか……


焦る気持ちを押し殺しながら、俺達は転移魔法の準備に取り掛かった。



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