049 誘拐
「ごめん…なさい…。大切な試合前なのに…」
「ミーナ、気にしないで。私達のせいでもあるんだから。
それに、もし呼んでくれてなくて、店主さんやミサちゃんに何かあったら、そっちの方が嫌だよ。」
泣き崩れるミーナを必死に励ます里穂姉。
ミサちゃんらしい可愛い部屋には似つかない血のような赤で、壁には文字が書かれている。勉強机の上には、小さな魔法陣に囲まれた手紙。
『王のお気に入り。ハイラスマーレ魔導高等学院の4人組転校生を連れてこい。他の人間が来た場合、父親と妹の命は保障しない。』
誰がこんなことを……
海斗兄と太陽は怒りで震えている。
私の脳裏には、いつも仕事終わりにかき氷を作ってくれる店主さんと、笑顔でお店の手伝いをするミサちゃんの姿が浮かぶ。
2人共、無事でいて……
「そ、その魔法陣……私は触れることができなかったけど、みんななら……」
トラップが仕掛けられていないか確認し、里穂姉が手紙にゆっくりと手を伸ばす。魔法陣は反応することなく、手紙を取ることができた。中に入っていたのは、1枚のカード。
「こんにちは。王のお気に入り諸君。このメッセージカードが再生されているということは、もちろん壁の文字も見ていただけたのだろうね。」
「おまえ何者だ!?ミサちゃんと店主を返しやがれ!!」
急に再生された音声に対し、海斗兄が声を荒げるも何の反応もない。どうやら録音された音声のようだ。
「さて、おまえ達がしっかりと言うことを聞いてくれれば、2人はちゃんと無傷で返してやるから安心してくれ。なぁに、そんなに難しいことじゃない。」
ゴクリと4人の喉が鳴る。一体どんな条件を出してくるのだろう……
「高等学院対抗戦の開始時間に、指定した場所に来てくれ。4人全員はダメだ。2人だけ来い。残りの2人は、必ず対抗戦に出場すること。お前達が全員棄権となったら興醒めだからな。どうだい、簡単だろう?
場所は開始時間5分前にメッセージカードから再生されるようになっている。私達も無駄に人を殺めるのは本意ではない。ちゃんと約束を守ってくれよ。」
音声が途切れ、部屋は沈黙に包まれる。
最初に口を開いたのはミーナだった。
「ごめん……なさい。私達のせいで、大変なことに……」
「ミーナ、謝るな!悪いのは2人を誘拐したやつらだ!」
怒りが口調にそのまま表れている。こんなに怒ってる海斗兄の姿を見るのは久しぶりだ。
荒ぶる海斗兄を制す里穂姉の瞳にも、怒りの炎が揺らめいているように見える。いや、私や太陽だって同じだ。大切な人達を好き放題されて、黙ってなんかいられない。
「海斗、落ち着いて。でも、その通りだよ。悪いのはミーナじゃないし、もちろん店主さんでもミサちゃんでもない。私達が絶対助けるから、安心して!ねっ!」
里穂姉にギュッと抱きしめられ、ミーナも少し落ち着いたみたいだ。
「里穂姉、マーレ達に相談することはできないの?」
貴族の一件と同じく、今回の件も私達には手に余る事案な気がするし、何より2人だけじゃ対抗戦の優勝も、2人の救出もかなり難しい。誘拐犯は、すんなり2人を返してくれるとは限らないし。
でも、私の質問に対し、里穂姉はゆっくり首を振った。
「相談したい気持ちは山々だけど……今回は私達が名指しで指名されてる。ということは、今この瞬間にも、誰かが私達を見張っている可能性が高い。2人の命を握られている今、危険は冒せないわ。」
不安になってキョロキョロと周りを見てしまう。
それじゃあどうすればいいの?
すると、ずっと黙っていた太陽が、徐に口を開いたの。
「よし、じゃあ海斗兄と里穂姉は店主さんとミサちゃんの救出に向かってよ。里穂姉なら何があっても臨機応変に対応ができるし、海斗兄の機動力は救出作戦には必須だよ。」
そして、太陽は私の肩に手を当て、こう締めくくった。
「対抗戦は、俺と若葉の2人で優勝するから、心配しないで。」
……マジですか!?!?
いや、太陽の言ってることは間違ってないけど……私達だけで勝てるの?絶対に勝たなきゃいけないんだよ??
きっとこの時の私の顔、最高にブサイクだったと思う。
自信満々に言い切った幼なじみの横で、鯉みたいに口をパクパクする私であった。




