046 墓地での戦い⑤
ヒュン、スタッ。
男の笑みが一瞬にして凍りつく。
無理もない。破られるはずのない魔法陣が一瞬にして破られ、目の前には王国最強の魔導師が立っているのだから。
絶望的な気持ちで満たされた心を、希望の光が照らす。
「久しぶりだなぁ、ファンク。国を追放された後、どこで何をしているかと思ったら……殺し屋とは。」
冷たい目線を送るショーンに対し、以前強ばった顔の男……ファンクは、声を絞り出すと共に、再び散らばった魔力を集め始める。
「ショーン……なぜここに?どうして、こんなにも早く私の魔法陣を?」
「ショーンさん、あいつ魔力を溜めはじめています。気をつけ……」
スッ、パーン!
俺が言い終える前に、ショーンさんの右手から勢いよく放たれた雷の矢がファンクの右腕の魔力を吹き飛ばす。
強さ、鋭さ、正確さ。魔法を学んだ今だからこそ分かるその圧倒的な力。自分などまだ足元にも及ばないことを実感させられる。
「若葉に聞いたが、お前達、随分と無茶したな。良かれと思ってやったんだろうが、姫様の気持ち、ちゃんと考えたのか?」
何も言うことができない。ショーンさんの言うことは事実だ。勝手に無茶して、死にかけて、心配かけて、助けてもらって……
マーレもきっとこのことを知っている。いや、ここに来ているのかもしれない。きっと怒っているに違いない。
とても情けなく、恥ずかしい気持ちで顔が上がらない。
だけど、そんな俺の方を振り返ったショーンさんは、真剣な顔でこう言った。
「だがな……よく生き残った。それだけは褒めてやる。
里穂は大丈夫だ。きっと助かる。だから、最後までお前がしっかり守ってやれ。」
「……はい。」
涙が溢れた。止められなかった。
良かった……俺達、助かるんだ。
「さて、ファンク、待たせたな。とは言っても、万全の状態でも俺に勝てなかったお前が、この状況で俺に勝てるとは思えんが。
大人しく降参するなら丁重にもてなすが、どうする?」
「馬鹿を言うな。あれから2年、貴様を倒すためにたくさんの強者を殺してきたんだ。このくらいのハンデ、どうということではない。」
口調から、男の本気が伺える。少し時間が経ったことで状況を理解し、覚悟を決めたようにも見える。
2人の強大な魔力に、空気が震える。
勝負は一瞬で決着した。
ショーンさんが放った12本の雷の矢を、ファンクは全方位防御壁で迎え撃つ。
すると、12本の矢は生き物のように一点に集まり、巨大な一本の矢となり防御壁を難なく貫いた。
咄嗟に防御壁を解除し、一点集中型のシールドでブロックするが、視界が一瞬隠れたのをショーンさんは見逃さない。
目にも止まらぬスピードで後方に回り込み、拘束魔法で腕と体、両足を縛り上げた。
勝負あり。
その時間なんと3秒あまり。動体視力を強化していなければ、正直何をしていたのか分からなかっただろう。
「さあ、俺の勝ちだ。お前には聞きたいことがたくさんある。一緒に来てもらうぞ。」
拘束されたファンクは、蹴られて地面に転がる。これで終わり……のはずなのだが、何故だか不安がよぎる。何が気になるんだ?
「ふふふ、はっはっは。無様ですね。実に無様だ。
おまえを倒すために殺し屋になり、戦いを重ねることで強くなってきたはずなのに、こんな右も左も分からないような子ども達に追い詰められて、何もできずに敗北とは……」
お腹を抱えて笑う絶体絶命の男の姿は、まるで、何かに取り憑かれているようだった。
不意に顔が合う。目は血走り、鼻水、涙、涎がダラダラと流れている。
あまりの不気味さに、瀕死の里穂姉を抱きしめる。
何かするつもりなのか?何ができるんだ?
けど、何があろうと絶対に里穂姉は守るんだ。
「太陽……さんでしたよね。本当に素晴らしいセンスの持ち主です。リクも言っていましたが、君達を殺すのは実に惜しい。」
リクというのは、きっと海斗兄と戦っていた男のことだろう。
しかし殺すって……この状況でどういうつもりなんだ?
「おまえにこいつらは殺せないよ。おまえが行くのは牢獄だ。」
「ふふ、殺す中にはショーン、あなたも含まれています。牢獄に行き、おまえ達に拷問されながら生き永らえるくらいなら、ここで自爆して盛大な最後を迎えましょう。その方がリクも本望でしょう。」
ヴーン……
低い振動音と共に、地面が濃い紫色に染まる。
ただならぬ魔力。これはきっと闇の魔力。
「ファンク、やめとけ。おまえの魔法は失敗する。確実に。」
「そんなことはありません。確かに二重魔法陣は破られましたが、魔法陣そのものはまだ使えます。」
首をぐいっと上げ、ショーンさんの表情を見た瞬間、カッと目を見開く。
「だから……もっと怯えなさいよ!!なぜ余裕な顔をしているのですか!!
ショーン、あなたはいつもそうです!!そうやって遥か上から私のことを見下す!!まるでなんでも知っているかのように。
腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ!!
いいですよ、そうやって余裕な顔をしたまま死になさい!!
カースコフィン!!」
呪文の発声と共にファンクの体から急激に水分が失われミイラのような姿になる。
それを媒介に魔法陣の中の全ての生き物を即死させる闇の魔法……
……
……のはずだった。
「……なぜ、発動……しない?
ショーン、何…を、したの……ですか?」
紫色に染まっていた地面は、いつの間にか元の色に戻っている。
闇の魔力ももう感じない。
ミイラのような姿になった男を見下ろすショーンさんの目は、とても冷たかった。
「だから言っただろ、失敗するって。
おまえは昔から俺のことばかり見過ぎなんだよ。だから足元をすくわれる。」
ドンッ
俺は後ろから柔らかい何かに抱きしめられる。
その温かさ、匂い、心臓の音を聞き……また涙が溢れ出した。
振り返らなくても分かる。俺の大切な人。
「……グスッ、ヒック………バカッ……」
「ごめん……本当にごめんな…」
ファンクは、ふっ、と息を吐き、最後の言葉を呟く。
「なるほど……もう1人…いたんですね。やられ…ましたよ……完敗です…ね」




