042 墓地での戦い①
俺がコントロールできる身体強化は、全体の魔力量の10%程度。それ以上はコントロールできず、何かにぶつかったりしないと止まることはできない。そして今使っているのは、全力全開の身体強化。スピードもパワーも桁違いだが、コントロールも全くできない。
だからこそ、この一撃で決める!このまま魔法陣の壁にこの男をぶつけて倒す!
この勢い、もしかしたら殺してしまうかもしれない。ただ向こうもその気だ。太陽と里穂、大切な人を守るためなら、そのくらいの業は背負うつもりだ。
300メートルを約1秒で駆け抜け、そのまま魔法の壁に到達し……ガキン!!すごい勢いでぶつかった。
身体中に大きな衝撃が走る。身体強化はしているとはいえ、このスピードでぶつかれば、俺自身も無傷とはいかない。全身を打撲したような感覚。が、その瞬間体の痛みが消える。これが里穂の言っていた常時回復の効果か?これなら少しは無理しても大丈夫そうだな。
「素晴らしい魔法だ。まともに食らえば、魔法障壁など関係なくあの世行きだな。まあ、まともに食らえば……だが。」
「何!?」
壁にぶつかるギリギリまでは捕まえている感覚があったのに。いつの間にか男は真後ろに立っていた。
あそこから回避するなんてどんな魔法だ?
だが、外してしまったことだけは事実だ。次の手を考えなければ。
「あんた達は貴族に頼まれて俺達を殺そうとしているのか?」
次の強化に向けて魔力を練る間、男と向き合い疑問をぶつける。
先ほどの全開では直線的な攻撃しかできない。あれは奇襲には使えるが、一度見せてしまえば対応されやすい。ここは一旦魔力量を落として打撃戦に持ち込むべきだ。
「依頼人のことは話せない。そんなことより、俺はお前のような強者と戦えることが嬉しいのだ。無駄なことは考えず、本気でかかってこい!」
やはり話すだけ無駄か。こうなったら倒すしかない。
身体強化をかけ終えた俺は、一気に男に接近する。強化した俺の動きは、ボクシング世界チャンピオンのスピードを上回り、パワーは横綱級だ。格闘技はやったことがないが、元の世界であればどの格闘技でも俺に勝てる奴はいないだろう。
が、ここは魔法の世界。男は俺のパンチや蹴りをいとも簡単に捌いていく。
「だったら!」
作戦変更。打撃主体から組み技に持ち込もうとする。相手の懐に潜り込み、レスリングのように足を取ろうと腕を伸ばした。
シュンッ!
「うおっ!?」
地面に倒れたのは俺の方だった。先ほどと同じくあと一歩のところで避けられてしまう。
いや、これは避けたというより消えた?
後ろを振り向くと、男は平然とした様子で立っていた。
「どうした?それが本気だということはないだろう。さっきのスピードとパワーはどうした?」
身体強化で向上するのは体の強さだけではない。動体視力も向上している俺が、残像も含めて全く目に追えなかったということは……
「あんたの能力……瞬間移動か?」
俺の言葉に、男はニヤリと笑う。
「数回のやり取りで、もう俺の魔法に気づくとは。戦闘センスはずば抜けているな。
その通り。俺の得意魔法は瞬間移動。その中でもショートジャンプという魔法を使っている。」
「ショートジャンプ……」
言葉から察するに、短距離の瞬間移動か。それなら先ほどから寸前で逃げられてしまうのもわかる。瞬間移動の魔法はより多くの魔力を使い、準備も必要だ。それをいとも簡単に、何度も行うなんて。分かってはいたが、かなりの実力者だ。
だが、まだチャンスはある。あいつは俺のことを認めているような発言をしているが、自分の魔法を簡単に明かす等、油断している様子が見られる。そこにつけ込めれば。
「来ないなら次は俺から行くぞ!」
対策を考える間もなく、男は俺の目の前にジャンプし蹴りを入れてくる。寸前でガードをしたつもりが、衝撃はない。と、背骨が折れるような痛みが走り、前方に飛ばされる。
蹴られる寸前にジャンプし、背後に回って蹴り飛ばされたようだ。
こんな使い方もできるのかよ。汎用性ありすぎだろ!
俺はすぐに立ち上がり防御姿勢をとるも、また後ろを取られ攻撃を受ける。
受けたダメージは身体強化と里穂の防御障壁によって軽減されており、常時回復ですぐに回復するからほとんど影響はないのだが、こちらの攻撃がとにかく当たる気がしない。
魔力量にはまだまだ余裕がある。このまま太陽と里穂が合流するまで耐えるのが得策かもしれない。だが、そう甘くはなかった。
「なるほど。その様子を見る限り、お前は全力を出さないのではなく、出せないようだな。差し詰めコントロールできないとかそのような理由だろう。
しかし、俺の打撃では、お前にダメージを与えることはできないようだ。丸腰の相手に武器を使うのは気が進まんが、あまり長引かせると奴に怒られるからな。」
シューッという音と共に、男の手に刀身が鈍く発光する刀が現れる。あれで切られれば、いくら強化や障壁があっても、ただでは済まなさそうだ。
何とかしなければ……でも、俺が戦闘で使える魔法は身体強化しかない。いや、あれを使えば。
ジャンプして斬りかかってくる男をかわし、目的の場所を目指し移動しながらもう一度魔力を練りはじめる。
そんな俺に対し、更にジャンプを繰り返し、男は全方向から斬りつけてくる。流石に全てをかわすことはできず、切り傷が増えていく。致命傷を喰らうのも時間の問題だ。早くしなければ。
「何を狙っているのかは知らんが、これでとどめだ!」
もう一度ジャンプし、俺の背後をとる。
同時に俺の方も魔力が練り終わり、狙っていた位置にも移動が完了した。
「いや、やられるのはお前の方だ!」
こいつは背後をとってくるはず!
そう予想した俺は、身体強化を一気に高め、振り向き様に地面を蹴り攻撃を仕掛ける。
だが、相手も百戦錬磨の殺し屋。
反撃には驚いたものの、すぐに上空にジャンプして間一髪で攻撃をかわした。
そう、ここまでも俺の予想通りだ。サッカーの時にも相手の動きを読みプレーをしていたが、その経験がしっかり役に立っている。全開ではないものの、これだけ強化すれば自分では動きをコントロールすることはできない。けれどこいつには直線的な攻撃は通用しない。ならば、ここにある物を活用して、やつの動きを上回るしかない。
飛んだ先にある物、それは墓石。これを使って方向転換をするのだ。けれど、くたびれた墓石では俺のスピードには耐えられないはず。だから……
「いっけー!!」
全力の身体強化をしなかった理由は、もう一つの魔法を使うため。
ガキッガキーン!!
右手の先にある墓石が一気に凍りつく。しかもただの氷ではない。俺が全力で圧縮した、超高硬度な氷だ。これなら耐えてくれるはず!
ミシミシミシッ
凍りついた墓石を足場にし、上空の男に向かって方向転換する。残った魔力を身体強化に上乗せし、そのまま勢いよく飛び出した。
超速の拳は、男の動体視力と思考、そして瞬間移動を上回った。
ドゴンッ!!
鈍い音と共に、俺の拳が男の鳩尾に直撃した。障壁に阻まれ貫通はしなかったが、戦闘不能にするには十分な一撃。男はそのまま吹き飛び、魔法陣の壁に直撃した。
「やった……うぐっ…」
俺の体は勢いを失い、そのまま地面に落下する。落下した衝撃以上の痛みが脇腹に走る。痛みは徐々に灼熱感に変わっていく。
「う、嘘だろ……」
地面に倒れ込みながら痛みの原因である右の脇腹を見た。そこには本来あるはずのない物が深々と刺さっている。
「まさか…あんな方法で俺に攻撃を当てるとは……やはり俺が見込んだ男なだけはある。内臓がぐちゃぐちゃで力が入らん。だが……」
壁に寄りかかって倒れた男は、ゼーゼーと肩で息をしながらニヤリと笑う。
「仕事はしっかり果たさせてもらったよ……」
俺の脇腹には男の刀が刺さっていた。おそらく俺の攻撃を喰らう寸前に突き刺したのだろう。血が流れているからか、どんどん意識が遠ざかっていく。
「俺は……死ぬのか?」
誰かに話しかけたわけではない。ただ、信じられない気持ちが言葉に出てしまったのだ。こんなに早く生を終える日がくるなんて。
俺、プロサッカー選手になる予定だったのにな。そのために、中学の大会でエースとして全国までいって、名門高校にスカウトされて、それで……
楽しかった思い出がフラッシュバックする。あぁ、これが走馬灯ってやつか……
太陽、里穂、若葉。約束……守れなくてごめんな………
「何!?こんなことあるわけない!!あの状態から持ち直すなんて!」
なんだ…あいつ何を驚いているんだ??
あれ?さっきより意識がハッキリしてきたような気が……
「痛みが消えている??」
俺は自分の脇腹をもう一度見た。なんと、深々と突き刺さっていた刀が抜け落ちている。しかも血も止まっており、傷口もどうやら塞がっているようだ。
「俺は……助かったのか?」
「ぅう…きゃーっ!!!い、痛い!!」
死から解放され安堵したのも束の間、里穂の鋭い悲鳴が聞こえる。
何かあったのか!?
助けに向かおうとするも、度重なるダメージと魔力の使い過ぎで体に力が入らず、意識も朦朧とする。
「里穂、太陽…頼む……無事でいてくれ。」
この言葉を最後に、俺の意識は途切れた。




