040 再び墓地へ
今、命があることに感謝しなければいけない。さっきまで私達は間違いなく、死と隣り合わせに立っていた。
それもこれも、私達の……ううん、私の軽率な判断のせいだ。ちょっと魔法が使えたからって、周りからちやほやされたからって、自惚れるな里穂!!と声を大にして自分に言いたい。
扉を出た私達は、無言のまま、来た道を戻っていた。永遠とも感じられるような長く冷たい、無機質な階段。騙されていたことに対しての怒りと浅はかな行動をとってしまった自分の不甲斐なさ、何も言い返すことができなかった無力感、死への恐怖、生への安堵……様々な感情が入り乱れる。
とにかく早く地上に出たい。
押しつぶされそうになる心に鞭を打ち、階段を駆け上がった。
扉が開き、視界も開ける。見覚えのある墓地。やった!外だ!!
隣に立つ2人の顔を見る。2人共まだ顔色は悪いが、さっきよりはだいぶマシだ。私もきっと同じような顔をしているに違いない。
「里穂、お前が今、俺達以上に責任を感じているのは分かってる。いつも重たい決断をさせてしまって本当にごめん。でも、やっぱり俺は……いや、俺達は里穂のことを信頼してる。お前の決めたことなら後悔しない。だから、この後どうすればいいか教えてほしい。」
ヒューと、夏だというのに冷たい風が墓地に吹き抜ける。私の体が震えているのは、風のせい?それとも決断することについての不安のせい?
でも、大切な人達が私のことを頼りにしてくれている。反省は後だ。もう一度よく考えて、できることをしよう。海斗の言葉に私は頷いた。
まずは現状を確認する。耳を澄ませても、階段の下から誰かが上がってくる音は聞こえてこない。追っ手については考えなくても良さそうだ。
次に今いる場所について。ここは私達がルリット達を追って転移してきた墓場で間違いない。あの時は焦っていて周りが見えてなかったけど、ゆっくり見回してみると、なかなか広そうだ。
出入り口は、見えている範囲では西と北に一つずつ。一番近い大きい門がある北がメインの出入り口なのだろう。お墓については、そのほとんどが手入れが行き届いていない。
あまり人は訪れていないみたい。
時間は17時。夏なのでまだ太陽は出ているが、墓地ということもあり、薄暗く不気味な感じがする。
「本当は一刻も早く転移魔法で離れたいところだけど、墓場内は探知される可能性が高いからとりあえず歩いて外に出よう。」
まずはここから離れることが先決だ。その後どうするか、誰に伝えるかについてはわかちゃんも含めてみんなで話し合えばいい。
一番近い北門までは50メートルほど。全力で走れば10秒足らずで行けるけど、周りを警戒しなければいけないため、ゆっくり歩きながら向かう。
「それにしても、フィミールのやつに正体をバラされた時には、本当に終わったと思ったんだが……何事もなく返してくれたのは意外だったな。」
海斗の疑問はごもっともだ。最悪の場合は死、良くて拘束くらいは覚悟していたのだが。私達が思っているほど、貴族達は悪ではないのだろうか。それとも……
「まぁ、貴族を名乗っているわけだし、おいそれと手は出せないんじゃないかな?しかも俺達、一応王様の客人なわけだし。」
「私も太陽と同意見かな。手を出せなかったの方が近い気がする。
でも今回の潜入については収穫0よね。貴族達の本拠地?は突き止めたけど、中で行われていたのはただの集会。別に集会をするのは自由だろうし。」
むしろ命を危険に晒してしまったことを考えるとマイナスだろう。マーレに言ったら絶対に怒られるだろうな。
そうこう話している内に北門に到着した。金属製の大きな門の上には、ガーゴイルの彫像。管理人室と思われる小屋にも、人の気配は感じられない。
「さっさとこんな墓場とはおさらばして、スカイキャッスルに戻ろう。若葉もきっと心配してるしな。」
とにかく早く出たいと大きく一歩を踏み出す海斗。が……ガンッ!!
「いって!!」
踏み出した足が見えない壁にぶつかり、弾かれる。
「海斗、大丈夫!?ちょっと待って!!」
私は海斗の足が弾かれた辺りの地面を見る。そこには、魔法陣らしきものが描かれている。しかもこれは……
「そんな…この墓地、周りに二重魔法陣が組まれてる……」
「二重魔法陣??」
二重魔法陣とは、その名の通り二重に組まれた魔法陣のことだ。魔法陣には様々な活用法があるのだが、代表的なのが中に閉じ込めるものと、外から身を守るもの。その2つの魔法陣を組み合わせると、中のものを閉じ込め、外部からの干渉を遮る強固な檻が完成する。もちろん、魔法陣は大きくなればなるほど魔力をより多く使うことになる。それを2つも、しかも墓場全体を覆うなんて……
「こんな巨大な二重魔法陣を組むなんて、相当強い魔導士よ。2人共、すぐに戦えるように準備して!!」
「必要ないよ、君達はすぐに死ぬんだから。」
突如、目の前にフードを被った男が現れた。私は全く反応することができず、立ち尽くしたまま首元に手刀が迫る。




