039 愚か者
魔法の才能はそれなりにあるようだが、追い込まれていたとはいえ、あの程度の言葉で何も言い返すことができなくなるような奴らに、王は一体何を期待しているのだろうか。あまりの手応えのなさに、ジェラールは深くため息をついた。
「貴族長、先ほどの言葉は……」
「当然、全て冗談に決まっているだろう。どこの馬の骨とも分からん奴らに真実など語るに値しない。だが、あまりやり過ぎると、やつらが無事に帰れた時にこちらの弱みになりかねんからな。」
まあ、無事に帰れる可能性など万にひとつもないのだが……
ジェラールの言葉に安心した様子の貴族達。だが、1秒後。またしても場の空気は凍りつくこととなる。
「ところで、やつらをこの墓地まで運んできた愚か者はどこのどいつだ?」
誰もが顔を見合わせて、一歩二歩と後ずさる。まるで自分ではないということを主張するように。ただ誰しもがその確証が持てないのだ。その中でも、1人だけ悠々と周りを見渡す貴族が1人。
「貴族長。俺、誰だか分かるっすよ。」
フィミールの言葉がまたしても会場中に響き渡る。指をちょいちょいと動かし、話を促すジェラール。
「俺はあいつらが転移してきた瞬間を見たっす。その時の時間が14時半頃っす。つまり、それより少し前に現れたやつこそ……」
ビクッ!と反応する1組の家族。彼は、それを見逃しはしなかった。
「なるほど。リンバーグ、おまえの家族だったのか。」
リンバーグ、つまりルリットの父親のことだ。弁明しようと必死に頭を回しているようだが、時間的に見ても反応を見てもこの家族以外ありえない。
長とは、常に周りに気をかけるものだ。ジェラールは当然何時にどの家族が来たのかも、全て正確に覚えていた。
1分後、リンバーグは頭を床につけていた。同志達の前での屈辱。だが、そんなことは言っていられない。場合によっては命さえ取られるかもしれないのだ。家族も同じように屈辱的な格好をとる。
「大変申し訳ございませんでした。この失態は、必ずどこかで挽回します。ですから……」
ふっと冷たい笑みを浮かべ、屈辱的な格好の4人を見下ろす。命など取りはしない。もっと有効に活用できる方法があるのだから。
「この愚か者め。あの程度の奴らに尾行されるなんて、貴族の面汚しにも程がある。
とは言え、先ほども言った通り、一度話してみたかったのは事実だ。奴らと実際に会うことで、力量も測ることができた。」
まぁ、実際にはこいつらの手柄ではなく、フィミールの手柄なのだが。こいつらは勝手に尾行されて、そのことにも気付いていないのだから。
「リンバーグ、今お前は必ず挽回すると言ったな。なら、今挽回するがよい。」
「……っと、言いますと……」
気が気ではないリンバーグ家。貴族長のこの冷ややかな笑み。とんでもないことを言い出すのではないか?
その予想は当たっていた。
「おまえ達全員の魔力をもらおう。表層の魔力だけでなく、深層の魔力まで全てだ。」
「そっ、そんなことしたら……」
「長い間魔法を使うことができなくなるだろうな。だが、家族の命に比べたら安いものだろう?」
深層の魔力とは、その名の通り体の奥底に溜められている魔力のことだ。表層の魔力は、使い切ってしまっても1日もあれば完全に元に戻る。だが、深層の魔力は長い時間をかけて溜められた魔力なので、すぐに回復とはいかない。魔法が当たり前のように使われているこの世の中、魔法が使えなくなるということは死活問題なのだ。
まさかそんな大切なものを要求されるとは……
けれど、リンバーグ家に拒否権はない。
「わかりました……私達の魔力を、お納めします。」
「あなた!!」
「黙ってろ!!これしかないんだ!」
妻の言葉を一蹴するリンバーグ。その様子を満足そうに眺めるジェラール。何も言わずにただ傍観する周りの貴族達。
「皆の衆、待たせたな。まず、この後の会議についてだが、この場所で行うのはさすがに危険すぎる。そこで、俺の魔法でこの広間ごと皆を別の場所に移そうと思う。」
再びざわつく会場。無理もない、そんな大掛かりな魔法、すぐに使えるものでもなければ、使われる魔力量も尋常じゃない。
いや、魔力は今確保したではないか。先ほどのやりとりを思い出し、一同ハッとする。
「その通りだ。幸いにも、魔力を提供してくれる心優しき愚か者が現れてくれた。ただし、それだけでは足りん。皆の魔力も少々借りることになるが、良いか?」
賛同の声があちらこちらから上がる。いや、賛同の声しか上げられないのだ。
「皆の協力、感謝する。フィミールよ、悪いな。おまえの復帰祝いも、少し遅れそうだ。」
「そんなこと気にしないでくださいっす。王達に悟られる前に、移動するのが先決っす。」
さすがフィミール、現状がよく分かっている。そこの愚か者とは大違いだ。
「それでは、今から俺の魔法で転移する。よく見ておけ。おまえ達の長の強大な力を。カーストランスポーション!!」
貴族長が魔法を発動した瞬間、リンバーグ家の4人は魔力の枯渇により意識を失い、貴族達も魔力を強制的に奪われふらつく。
ズーン!!という轟音が響き渡った後、広間は跡形もなく消え去り、墓場の地下には広大な空洞だけが残っていた。




