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STORY TELLER  作者: 茶々丸
魔法邂逅編
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38/168

038 貴族長ジェラール

フィミールの言葉に会場がざわめく。中には「なぜ庶民が貴族会議のに!」と怒声をあげる人もいる。


『で、でも、海斗の口の悪さについては、ショーンさんとエリーンさんに聞いたって……知り合いじゃないんですか?』


念話を控えるように言われたことも忘れ、里穂姉は狼狽する。そんな俺達の様子をじっと見つめる2人の男達。


『そんなの決まってるじゃないっすか。君達3人をここに連れてくるための餌っすよ。』


得意げにふふんと鼻を鳴らす。


『君達が4賢者のショーン、エリーンと関係があることは、少し調べればすぐ分かることっす。ついでに海斗君の口の悪さもっすね。だからそれを有効活用させてもらったっす。

墓地に来た時点で探知されていたのは事実っすけど、無理に捕まえようとすれば抵抗するっすよね。もちろん負けるつもりはないっすけど、君達の中に眠る膨大な魔力は充分警戒に値するっす。

実際、作戦は大成功。現にここまで素直に付いてきてくれたじゃないっすか!』


正直はじめは状況が理解できなかった。彼には何故かわからないが変な安心感があった。それはきっと俺だけでなく、海斗兄と里穂姉も感じていたことだと思う。

今思えば、その変な安心感自体が罠だったのだ。後悔したところで、もうすでに時遅しだが……


「ルリット、ロンヌ、メガロ、ハウゲン。前へ出てきなさい。」


貴族長が低く響く声で4人を呼び出す。ルリットはともかく、他の3人もいたのか。全然気づかなかったが。

4人は神妙な面持ちで前へ出てきた。俺達の顔を知っているだけに、変身した状態の顔に違和感を抱いている様子だ。


「おまえ達4人のクラスに来た留学生というのは、この3人で間違いないか?」


4人とも顔を見合わせる。どう答えていいかわからないようだ。

その様子を見て、フィミールはハッとした表情をし、俺達を変身させた時と同じように手を振る。すると、あっという間に元の顔に戻った。

俺達の顔を確認した瞬間、4人の顔が意地の悪い笑顔に変わる。


「そうです!この3人で間違いないです!」


「いつもいつも私達に突っかかってくる、忘れもしないこの憎たらしい顔。ここはあなた達のような庶民が来る場所じゃないわ!」


ルリットとメガロの言葉に、海斗兄が反論をしようと1歩前に出るが、それを俺と里穂姉で止める。海斗兄の気持ちは痛いほど分かるけど、ここは貴族達のテリトリー。圧倒的に不利な状況で、これ以上相手を有利にするきっかけは与えたくない。

すると、貴族長は意外な言葉を発した。


「メガロ、俺はおまえ達に顔を確認させるために前に呼んだのだ。それ以上でも以下でもない。」


メガロの顔が凍りつく。一歩、二歩と後ずさった後、よろよろと跪いた。それに合わせて他の3人も後ずさる。


「なるほど、前々から噂には聞いていたぞ。実際に会って話してみたかったのだが、まさかこんな形でその機会が訪れるとは。

初めまして、俺はジェラール。ハイラスマーレ国の貴族達の長だ。」


立ち上がり握手をしようと手を前に出してくる。一見すると友好的に見えるが、このとんでもない威圧感。3人共一歩も前に出ることができない。

そんな俺達の様子を見て、「ふむ、まあ良い。」と手を下ろした。満足そうな表情。最初から握手する気なんてさらさらないのだ。


「さて、フィミール。面白い手土産をありがとう。おまえは本当に気が効く男だ。」


「ありがたき幸せっす。」


俺は裏切られた怒りを込めてフィミールのことを睨みつける。だが、全く気にしない様子でヒラヒラと手を振られるだけだった。

このやろう……


「ところで、君達が上の墓地にいた理由だが……まあふらっと立ち寄ったというわけではあるまい。話してくれるかな?

ちなみに、気付いていると思うが、そこのフィミールは読心術のプロだ。嘘をつけば分かるからな。」


今の状況で、この人達を納得させられる嘘なんて考えつくわけがない。それはきっと里穂姉も同じだ。こうなったら正直に話すしかない。


「貴族達の様子が最近おかしいという話を友人から聞きました。」


コンマ数秒、先を越される。里穂姉だけに大変な思いはさせられまいと、俺も後に続く。


「その子は泣いていました。心優しく、正義を貫く誇り高い貴族達はどこにいってしまったのだろうと。もとの姿に戻ってほしいと。一体みなさんに何があったのですか?」


想像していた内容と違ったようで、貴族長とフィミールは多少面食らったようだが、すぐに冷静さを取り戻す。そして、俺達の言葉にまたしても批判の声をあげる貴族達を諌める。


「なるほど、嘘はついていないようだな。では、おまえ達はその友のために命をかけてここまで来たというのだな。」


命をかけるつもりはなかったのだが……


周りを200人近い貴族達に囲まれているこの状況では、そういうことになるのだろう。

この最悪な状況を俺は……いや、里穂姉は俺以上に、後悔していると思う。きっと自分を責めているに違いない。それと同時に、どうやって生きてここを出るか必死に考えているはずだ。俺も諦めるわけにはいかない。里穂姉におんぶに抱っこではいけない。最後の最後まで考え続けるんだ。

そんな俺達の心の中とは対照的な、貴族長からまたしても予想外の言葉が飛び出した。


「貴族達の様子がおかしい……か。確かにその通りかもしれんな。」


会場の貴族達がざわめきだす。当然だ、急に自分たちのリーダーが、不法侵入者の言葉を肯定したのだから。

俺達も呆気に取られてどう反応すればいいのかわからない。


「だが、こうなってしまったのは王が戦争を始めたからなのだ。戦争には金がかかる。心を鬼にして、国のために税を徴収するしかないのだよ。」


「戦争を始めたのは相手の国だと聞いています。相手の国が横暴な要求をしてきたから。」


ウォーデン国から一方的に仕掛けてきた戦争だ。ハイラスマーレ王が始めたわけではない。けれど、貴族長は大きく首を横に振る。


「その申し出を受けたのは紛れもなく王だ。戦争というのはな、双方が合意しなければ始まらないのだよ。

それに、横暴な要求というが、それは果たして本当のことなのかな?あくまでも王達が発表した内容で、真相は分からんだろう?」


確かにそうなのかもしれないが……


「でも、そんなにお金に困っている状況なら、こんな豪華な食事や宝飾品なんて必要ないじゃねーか。」


海斗兄がたまらず声を上げる。

その無礼な態度に、周りの貴族が罵声を浴びせる。


「たしかに君達にはそう見えるかもしれない。だがな、これでも戦争前に比べたらかなり抑えてはいるんだ。急に生活を180度転換するのは不可能だ。そんなことをして暴動にでもなれば、それこそ戦争どころではなくなってしまう。」


貴族長は言葉を続ける。


「皆、国のために必死に税を徴収している。それを横暴だと感じ、貴族は変わってしまったと言う人もいるのだろう。だが、危機に面することで、新たなものが生まれることもある。例えばおまえ達が手伝っている店なんてそうじゃないか。結果としてあの店は盛り上がり、我々は想定以上の税を徴収することができた。」


俺も里穂姉も、もちろん海斗兄も何も言い返すことができない。貴族長の言っていることは、間違っていない。ついこの間までただの中学生だった俺達は、経験豊富な大人の言葉に完全に丸め込まれてしまっていた。


「さて、反論がないならここまでだな。おまえ達が不法侵入であることは間違いない。だが……」


パチンッ!と指を鳴らすと、広間の扉が音を立てながら大きく開く。


「間違いは誰にでもある。また原因を作ってしまった責任は我々にも少しはある。なので今、自分の足で出ていくのであれば、今回の件は不問としよう。さあ、どうする?」


「で、出て行ってもいいんですか?」


どうやって逃げ出そうか懸命に考えていのに……予想外の提案に思考が追いついていかない。この絶望的な状況からただで逃してくれるのであれば、願ったり叶ったりではあるのだが……

先ほどフィミールに騙されたことによって、疑心暗鬼になってしまっていたのだ。

すぐに返答しない俺達を見て、苛立ちの表情を見せるジェラール。


「なんだ、帰りたくないのか?俺はお前達の罪を不問にすると言っているのだ。気が変わらん内にさっさと出て行った方が身のためだと思うが。」


冷たい汗が頬を伝う。答えは一つしかないのに、誰1人として言葉にすることができない。

すると、不意に3人の頭の中に声が響いた。


『何してるっすか。早く出て行くっすよ。』


『フィミール!このやろう、裏切っておいてどのツラ下げて言ってやがるんだ!』


キレる海斗兄を無視して、俺達を裏切った張本人は念話を続ける。


『貴族長の気が変われば、あんた達確実に処刑されるっすよ。まあ、それについては別にいいんっすけど、機嫌の悪い貴族長はタチが悪いんす。だから急ぐっす。』


どうやらこの念話は他の貴族達には聞こえていないらしい。フィミールが何か細工をしているのだろう。裏切り者の言うことなど聞きたくはないが……確かに現状ではジェラールの提案に乗るしかない。


『お前の裏切りは許さないからな。』


『俺はそもそも裏切ってないっすよ。敵なんっすから。勝手に味方だと思い込んで、ほいほい付いてきた方が悪いんっすよ。次からは気をつけるんっすね。』


海斗兄はこれ以上話すとやばそうだ。里穂姉が必死に抑えているが、そろそろ限界だろう。俺もはらわたが煮え繰り返るが、ここで怒っても何も始まらない。


「分かりました。では、出て行かせてもらいます。俺達の罪を不問にしていただきありがとうございます。」


早く行けというように面倒臭そうに手を振るジェラール。この感じだと、これ以上待たせていたら本当に気が変わっていたかもしれない。最後の最後にフィミールに助けられる形になり複雑な気持ちを抱く。

貴族達は俺達が通れるように道を開けてくれるが、皆一様に鋭い目つきで睨みつけてくる。『神聖な貴族会議の場に、庶民のくせに勝手に踏み込みやがって。俺達は許さないぞ。』ってところか。だいぶ敵を増やしてしまったな。

が、最後まで攻撃されたり罵声を浴びせられたりすることはなかった。俺達は後悔と安堵の気持ちを入り混じらせながら、荘厳な扉をくぐった。


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