037 貴族会議
10階分くらい下っただろうか。入り口の時は2人並ぶのがギリギリだった階段は、今では5人くらい並ぶことができるほど広くなっている。壁にも煌びやかな装飾が増えてきた。
『そろそろ着くっすよ。この先は君達レベルの念話だと感知されるので、使わないようにするっす。何かあったらこっちから念話を飛ばすっす。』
私達3人は大きく頷いた。念話が使えないということは、先ほど言われた通り臨機応変な対応が大切だということだ。ここは敵の本拠地。少しでも違和感を感じ取られれば、私達だけでなくフィミールさんも生きて帰れないかもしれない……
あれ?当たり前のように信用して一緒に行動しているけど、フィミールさんってそもそも何者なのだろう。貴族なのになんで私達に味方してくれるのだろう。なんでそんな大切なことも聞かずに付いてきてしまったの?
心配になった私は恐る恐る顔を覗き込む……と、笑顔の彼と目が合った。
まずい、心を読まれてる……
けれど、特に何かをされるわけでなく、フィミールさんはすぐに前に向き直った。
階段が終わり、50m程の広い廊下の先に扉が見える。あっという間に廊下を通り抜け、大きな両開きの扉を手前に引いた。
そこには……
「すげぇ、墓地の地下にこんな空間があるなんて。」
あまりの凄さに言葉を失った私と太陽を代弁して、海斗が呟いた。
扉の先には広大な空間が広がっていた。広さは中学校の体育館の倍くらい。その真ん中を貫く長いテーブルは大理石でできており、豪華な料理が所狭しと並んでいる。天井には巨大な水晶のシャンデリア、壁には様々な絵画が飾ってある。
まさに貴族!というような広間の中では、200人近い人達が笑いながら会話をしたり、自分の持つ芸術品を自慢しあったりと様々なことをしている。
「戦争が始まって、金に困ってる……って感じではないよな。」
「うん、私も同じこと思ってた。」
どこからどう見ても、この会場の様子は戦争をしている大変な国の状況とリンクしていない。税金が上がって大変な思いをしている人達のことを思うと、怒りが沸沸とこみ上げてくる。
「さぁ、我が子供達。今から貴族長のジェラール様に挨拶しにいくっすよ。」
貴族長?ジェラール?
疑問はどんどん湧き出てくるが、話せば話すほどボロが出る気がして何も聞くことができなかった。誰が耳を澄まして聞いているかわからないし。
貴族長のジェラールさんとは、一番奥のステージのような場所の真ん中に座っている、青髪パーマで目つきの鋭い男性のことらしい。年はエリーンさんと同じくらいかな?
座っている場所のせいでもあるんだろうけど、この会場の中でも一際目を引く存在だ。
『いいっすか?3人共、俺と同じ行動をとるっすよ。特に海斗君、跪けないとか言い出さないように。プライドより大切なものがあるっす。』
確かに海斗が跪くとか想像できないなぁ。でもフィミールさんの言う通りプライドより命なので、頼みますよ海斗さん。
「貴族長、失礼するっす。この度、私フィミールは、長期に渡る任務を終え無事にここハイラスマーレ貴族会議に帰ってくることができましたっす。」
フィミールさん、めちゃくちゃ偉い人相手でも、この口調なんだ。元の世界で社長さんとかにやったら怒られるだろうな。
なんてことを考えていた私だが、貴族長の顔色が変わったことに気づき一気に緊張が高まる。
貴族長は徐に立ち上がると、フィミールさんに近付いていき……なんと抱きしめたのだ。
「おぉ、我が親愛なる友よ。随分と待たせてくれたではないか。よく生きて戻ったぞ。」
いつの間にか会場がしんと静まり返っているいる。みんな2人の一挙手一投足に注目しているのだ。
貴族の一番偉い人にこんなことを言われるなんて、フィミールさん、本当に何者なのだろう。私の不安は、どんどん大きくなっていく。
貴族長、ジェラールさんは、フィミールさんを抱きしめながら、静かに見守る貴族達に向けて叫んだ。
「皆の衆!貴族の中の貴族であり、我らが友人であるフィミールがついに戻ったぞ!!」
「「「「おー!!!!」」」
大きな掛け声と共に、貴族達が拳を突き上げる。もう私達からすれば何が何だか分からない。
その後も数分間は、お祝いの大合唱が広間全体に響き渡り続けた。みんながようやく落ち着いてきたところで、貴族長はようやくフィミールさんを離した。
「いやいや、俺としたことが、子供のようにはしゃいでしまったよ。しかし本当に久しぶりだな。何年ぶりだ?」
「4年ぶりっすね、貴族長。お変わりないようで良かったっす。」
話の流れから、フィミールさんはどうやら長期間の任務に出ていたらしい。それも反応から察するに、相当重要な任務だったのだろう。
2人は、今の現状や他愛もない世話話を交わした後、私達の方に目を向けた。貴族長の目線が急に鋭くなり、体が強張る。なんて威圧感のある人……純粋に怖い…
貴族長の視線に気付き、質問される前に彼は話し出した。
「紹介が遅れたっす。この子達は左から海斗君、太陽君、里穂さんと言いまして……」
えっ、私達の名前、本名でいいの?
またしてもフィミールさんの言葉に会場が静まり返る。でも、さっきとは様子が違う。
おかしい、何かがおかしい。自分でもわかっている。こういう時の私の勘はよく当たる。
でも……今回はあまりにも遅すぎた。もうどうしようもない。
私達は全てのことを甘く見過ぎていたのだ。
今度はフィミールさんがニヤリと笑う。そして、大きな声で言い放った。
「ハイラスマーレ魔導高等学院に留学してきた、王のお気に入りの4人組の内の3人っす。上の墓地でコソコソと何やら嗅ぎ回っていたので、連れてきたっす。」
私達は、完全にはめられた。




