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STORY TELLER  作者: 茶々丸
魔法邂逅編
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036 墓地と怪しい男

「なるほど。確かにその会合、怪しいわね。貴族の付き人が内容どころか場所さえも知らされていないところも気になるし。」


里穂は冷蔵庫から水を取り出し、一口飲むと太陽に渡す。

ルリット達の偵察から帰ってきた2人に対し、先ほどあったこと、新しく仕入れた情報を伝える。2人ともアンナと友達になることはもちろん大賛成。その後の重要な情報にも興味津々であった。


「でも、魔法大会は再来週の日曜日だ。練習もあるし、あまり貴族達の監視ばかりしているわけには行かないよな。」


太陽の言う通り、そもそも魔法大会で勝つことができなければ、学校にも通えなくなってしまうし、STORY TELLERも手に入らない。魔法大会で勝つことは最低限の達成目標なのである。そちらの方が疎かになってしまうのはもちろんまずい。

ちなみに俺と太陽はミーナに教えてもらった氷結トレーニングに毎日取り組んだ結果、この2週間でメキメキと力を上げた。校庭に大穴をあけることもなくなり、その上達具合にマーレも驚いていた。


「そうね、これ以上練習時間を削るのは、得策じゃないわ。

うん、じゃあ今週の土曜日の偵察を最後に、一旦この件は保留にしましょう。今後のことは、また魔法大会が終わったらみんなで考えましょう。」


「STORY TELLERが手に入れば、何か手掛かりが見つかるかもだしね。」


確かに、STORY TELLERは持ち主に必要なことを教えてくれる本だ。それがあれば、案外簡単に貴族達が豹変した理由が分かるかもしれない。里穂の考えにみんな賛同し、この話はお開きとなった。



その後、水木金曜日とあっという間に時が経ち、土曜日を迎えた。偵察は続けていたが、特に情報を手に入れることはできなかった。

あれから変わった事といえば、アンナと学校でも普通に喋るようになったこと。また、アンナが俺達と話すことによって、他のクラスメイト達も少しずつではあるが話しかけてくるようになったことだ。当然貴族達はいい顔をしなかったものの、そのことで何か嫌がらせ(俺達のことは相変わらずクラス内ではいないように扱ってくるが。)をするということはなかった。


「さて、いよいよね。太陽、海斗、準備はいい?」


「おう!」「オッケー!」


現在の時刻は14時、場所はルリットの邸宅向かいの空き地。様々な物が置いてあるおかげで、身を隠すのにはもってこいの場所。ここで里穂が各出入り口に施した探知魔法の反応をキャッチし、尾行を開始するという作戦だ。万全を期すため、目隠しの魔法、気配遮断の魔法もしっかりかけてもらっている。しかし里穂のやつ、こんな便利な魔法、どこで習得してきているのだろうか……

ちなみに、若葉は今回もスカイキャッスルの部屋でお留守番だ。彼女がいると目隠しの魔法も気配遮断の魔法も使うことができないので、こればかりは仕方ない。本人は自分が行けない悔しさと、心配な気持ちでしょんぼりしていた。早く終わらせて、安心させてやんないとだな。


「今、反応があった!この反応、人数は4人、おそらく家族全員だよ。場所は裏門!」


探知を始めてから約1時間、ようやく反応をキャッチした。裏門というと近そうに聞こえるが、そこは貴族の屋敷。家の周りを歩いていくと10分はかかる。というわけで……


「里穂、目隠しと気配遮断の魔法はかかってるよな?何メートル上空であれば、探知されずに追える?」


「うーん、むこうも手練れの魔導士だからね。20メートルくらいあれば気付かれないと思うけど。」


俺と太陽は頷いて、魔力を練り始める。太陽は3人をはぐれないように繋ぎ止めるとともに、20メートル上空まで上昇する魔法。俺は高度を維持しながら、移動する魔法を準備する。

これはあらかじめ考えておいた作戦で、里穂の魔力を温存するために魔法を分担するのが狙いだ。いざとなったら今1番頼りになるのは里穂だからな。


「それじゃあ行くよ!フライ!」


太陽の掛け声と共に、3人の体は上昇を始める。魔力コントロールはミーナのおかげでだいぶマシになったが、まだ不安はある。それではなぜこんなにスムーズに魔法が使えるのかというと、実はこの飛行魔法は恐ろしく魔力を消費する。一般の魔導師では、3分と持たないで魔力が切れるくらいだ。けれど、魔力量が膨大な俺達は、むしろ加減せずに魔力の放出ができるため、他の魔法に比べてうまく使えるのだ。20秒ほどで目標の高度に到達すると、今度は俺の魔法で横移動を始める。俺達の魔力があれば、1時間以上飛んでいることができる。俺達にしかできない力技だ。

ちなみに、里穂の目眩しのおかげで、すぐそこを飛んでいる鳥達ですら存在に気付いていない。


「いたわ、あそこ!あっ、でも転移するみたい!」


ルリット一家は円になり、父親らしき男が小さな魔法陣を地面に描いている。

転移したら追えなくなる!俺は焦って飛び出そうとするが、太陽と里穂に制止される。


「追えなくなるぞ!どうすんだ!?」


「今出て行ってもどうしようもないでしょ!ちょっと落ち着いて!」


4人を囲んだ魔法陣が光り輝き、次の瞬間4人は跡形もなく消えてしまった。

言わんこっちゃないと2人の顔を睨むも、太陽と里穂は冷静そのもの。なんでそんなに落ち着いてるんだ?


「ねぇ、海斗。あなた、ちゃんと魔法学の授業聞いてる?」


「それ、今話すべき内容なのか?

まぁ、聞いてるか聞いてないかと言われれば……聞いてないというか起きてないことが多いが。」


はぁ、やっぱり……と2人がため息をつく。なんだってんだ?

とりあえず降りることになり、魔力を弱めてゆっくり下降する。地面に降り立つと、すぐに先程ルリット達がいたあたりの場所に手をかざす里穂と太陽。

疑問に首を傾げる俺に対し、里穂が少し呆れた様子で話し始める。


「転移魔法ってね、とっても便利な魔法なんだけど、その分魔法の痕跡も残りやすいの。だから……」


「あったぞ!」と太陽が手をあげる。駆け寄り、2人と同じように手をかざすと、確かに魔力を感じる。


「この魔力があれば、転移魔法で追うことは可能よ。だから焦らなくても大丈夫。

ちなみにね、海斗。このことは一昨日の魔法学の授業で先生が話してた内容よ。」


おぉ、なるほど。その時間、バッチリ寝てた記憶があるわ。この後、2人にはしっかり謝罪し、転移魔法についてもう一度教えてもらった。

まず、転移魔法はどこにでも跳べるわけではないということ。大体の建物は魔法陣で守られているので、勝手に跳ぶことはできないようになっている。確かにどこにでも跳べたら、家とか入り放題だもんな。

ちなみに学校は、登校と下校の時間だけ転移ができるようになっている。ただし、不審者が入らないよう生徒しか知らないパスワードのようなものがあるらしい。


「それじゃ、そろそろ私達も転移してみようか。多分もうルリット達は到着点から移動しただろうし。」


魔力の反応がある地面に魔法陣を描き、3人で手を繋いで円になる。里穂がルリット達の魔力を利用して転移魔法を使うと、目の前の景色が一瞬で変化した。





ここは……お墓?

ルリット達の魔力を追って転移した先は、スカイキャッスルの位置から推測するにハイラスマーレ国の東の端にある墓地。カラスが飛び回るのに加え、手入れのされていない苔むした墓石に不穏な空気を感じる。

でも、なんでこんなところに?もしかして気付かれていた?


「里穂、ここにルリット達が転移したのは確かなのか?


「うん、間違いなくここなんだけど……もしかしたら私達のことに気付いて行き先を変えたのかもしれない。」


そうなるとかなりまずいことになる。もしかしたら今にも墓石の裏からルリット達が出てきて攻撃されるかもしれない。目隠しと気配遮断の魔法はかけたままだけど、気付かれていればほとんど意味はない。

いつでも魔法を使えるように2人に伝え、周りに探知魔法をかける……が、反応はない。


「うーん……不意打ちするには時間がかかり過ぎてるし、やっぱりここが会合の場所なのかなぁ。」


「そう。そこのお墓の前に立つとあら不思議。地下への階段が現れるんっす!」


ビクッ!後ろからの声に総毛立つ。

その男は、探知魔法にもかからず、私達に全く気付かれることなく真後ろをとったのだ。


やばい……殺される。


頭によぎる死を懸命に振り払い、助かる道を考えるが、明らかに格上の相手を前に、思考力も鈍ってしまっていた。

さっきまで聞こえていたカラスの鳴き声も聞こえない。1秒1秒が永遠にも感じられる。先に話し始めたのは、男だった。


「ここはすでに貴族のテリトリーっす。上手に隠れているつもりだろうけど、もう君達がここにいることはバレてるっす。」


私の隠蔽の魔法が効いてない?

自信満々で使っていた魔法の効果が無かったことにショックを受ける。そんな私を横目に、海斗が静かに問う。


「じゃあなんで貴族達は襲ってこない?あと、あんたは誰なんだ?」


ははっ、と男は笑うと海斗の頭をゴツく。


「海斗君、ほんと聞いた通りの口の悪さっすね。ショーンやエリーンが怒るわけっす。

さて、なぜ襲われないかっすけど、それは俺と一緒にいるからっす。俺は貴族っすからね。名前はフィミールっす。よろしく。」


海斗の名前もそうだが、急にショーンさんとエリーンさんの名前が出てきたことに驚きを隠せない私達。とりあえずは敵じゃなさそうだけど……


「太陽君、隙あらばと思ってるみたいっすけど、魔法を使えばもっと厄介なことになるのでやめて欲しいっす。

とりあえず里穂さんの思ってる通り、俺は君達の敵ではないっすから。とは言っても、信じてもらうための根拠はないっすけど。」


心を読まれた!?でも、太陽はともかく私はしっかり心にプロテクトを張ってるのに。

この世界では、相手の心を読む魔法が存在する。心を読めれば常に相手より一歩先の対応ができるので断然有利になる。そのため魔導師は常に心にプロテクト……防御するための壁を張っている。もちろんこのプロテクトも魔力量やコントロールが関係しているのだが、私のプロテクトは4賢者のマーレも破れないほど強力なものだ。それを気づかれない内にいとも簡単に破るなんて……この人ただ者じゃない。


「お褒めの言葉、感謝するっす。俺は心を読むのが得意なんっすよ。

さて、君達には2つの選択肢があるっす。どちらかを速やかに決めて欲しいっす。」


2本の指を出し、笑いながらヒラヒラ振る。


「まず貴族会議には絶対出席してもらうっす。いることは探知されてるっすから、これで行かなかったら確実に怪しまれるっす。

その上で……1つ目の選択肢は、俺の息子と娘のふりをしてもらい一緒に参加するものっす。当然ふりっすから、3人には話や行動を合わせてもらう必要があるっす。君達の臨機応変な立ち回りが要求されるっす。」


なるほど、確かに難易度は高そうだ。私と太陽は大丈夫かもしれないが……

隣を見ると、案の定不安そうな海斗。


「そしてもう一つは……同じく息子と娘のふりはしてもらうっすけど、俺が3人を洗脳して参加される方法っす。こっちの方が確実性はあるっすけど、かなり脳に影響を及ぼすので、あんまりおすすめしないっす。」


「「「臨機応変な行動、頑張ります!」」」


フィミールさんは笑顔で頷く。

いや、さすがに洗脳は…しかも脳に影響って……絶対嫌だ!!

もう一度隣の海斗を見ると、不安な表情から一変、気合を入った表情になっていた。


「じゃあそろそろ行くっすよ……あっ、その前に、皆さんのこと知ってる貴族の人っているんすか?」


「同じクラスにいる貴族の家族を追ってきたので、顔は割れてると思います。」


フィミールさんはうんうんと頷くと、右手を軽く振った。すると、なんと私達3人の顔が見る見るうちに変わっていく。

これは……変身魔法??しかも同時に3人の顔を変えるなんて。

焦って右往左往しているうちに、ものの数秒で私達は完全に別人になってしまった。


「これでバッチリっすね。誰が見ても元の君達とはわからないっすよ。」


太陽と海斗は、鷲鼻で細目のいかにも魔法使いらしい見た目に変身した。幼なじみの私から見てもイケメンで、学校では女子にも(もちろん男子にも)大人気な2人。きっとこんな姿見たら倒れちゃうだろうなぁ。

なんて思ってたら、2人が私の顔を見て笑い出す。えっ、もしかして私も……


「り、里穂、絶対その顔自分で見ない方がいいと思うぜ。」

「うん、里穂姉ショックで倒れると思う。」


「そ、そんなに!?見たいような、見たくないような……」


2人がこんなに笑うということは……

うん、見ないでおこう。絶対普通でいられなくなる。


「そういえばフィミールさん、あなたは魔法を使っても大丈夫なんですか?」


「貴族が魔法を使う分には心配いらないっすよ。探知されても、ここに貴族がいるのは当たり前っす。それに魔法の種類までは探知されないっすから。

さて、そろそろ行かないと遅れちまうっす。貴族は時間や約束に厳しいっすからね。」


目の前のお墓の前にフィミールさんが立つと、『ゴゴゴゴ』という音と共に、地下へと続く階段が現れた。中は暗くて何も見えず、どこまで続いているのかも分からない。

私達3人は覚悟を決め、スタスタと進んでいくフィミールさんを追って、貴族達が待ち受ける地下空間へと階段を下り始めた。



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