032 フローズンフローズン
「つまり、私が買い出しに行っている間に、貴族が税金を取り立てに来て、払えなくて困っていたところをこの人達に助けてもらったってわけね。
話は大体分かったわ。改めて、2人とも本当にありがとう。あなた達のおかげで、お店を潰さずに済んだわ!」
あの後、お礼と状況確認のため、店内に通され、かき氷をご馳走になっている。
とても美味しいんだが、さっきの出来事の手前、正直集中して味を楽しむことはできない。
このお店、フローズンフローズンは、店主さんと娘2人で切り盛りしている。けれど、妹はまだ小さいので、実質的には2人で頑張っている。店主さんの奥さんは、去年の暮れに亡くなってしまったらしい。
奥さんがいた時はそれなりに繁盛していたみたいだけど、娘と2人でお店を回していくことになってからは余裕がなくなってしまい、徐々に客足が遠のいてしまったという。
それに加えてとどめを刺す出来事が起きたらしいのだが……
「なぁ、若葉。おまえが言ってた新しくできたかき氷屋さんって……」
「うん、多分……」
ここのお店ではなく多分目の前の店。そしてフローズンフローズンを廃業寸前まで追い込んだ元凶の店。
「まさか私も目の前にかき氷屋さんができるとは思わなくてさ。参っちゃったよ。向こうはバックに貴族がついてるみたいで、宣伝もすごいしね。
やっぱり私のせいなのかな……」
彼女がため息をつく。
10日猶予をもらったものの、現状ではこのお店が生き残るのは難しそうだ。
でも私のせいって?
「あの、えーと……」
「あっ、まだ名前も言ってなかったね。ごめんごめん。私の名前はミーナ。この子の名前はミサよ。年齢は私が13歳で、ミサが6歳。よろしくね!」
ペコリと頭を下げる。
ミーナって、どこかで聞いたことがある名前のような……でも、はっきりとは思い出せない。
「私は若葉。こっちは幼なじみの太陽。よろしく。
それにしてもミーナさんって、魔法が得意なんですね。並大抵の魔力コントロールじゃ、あんなに上手には受け止められませんよ。」
ミサちゃんを受け止めたあの繊細な魔法。クラスの人達と比べても、レベルの高さが窺える。里穂姉もすごいけど、見た感じ魔力コントロールはこの人の方が上だと思う。
すると、妹のミサちゃんが笑顔で胸を張る。
「私のお姉ちゃんはね、すごいんだよ!だってね、すっごい学校に通ってたんだから!」
そんなミサちゃんとは対照的に、苦笑いで謙遜するお姉ちゃん。
「いやいや、そんなことないよ。それに今はもう通ってないしね。
それよりあなた、太陽君だっけ?すごい魔力量だね。体から強い魔力が漏れ出してるよ。」
その言葉に、今度は俺の方が謙遜する。
「いや、まあ魔力量は確かに多いんだけど……そのせいで魔法をうまく調整できなくて。さっきもミーナさんがいなかったらミサちゃんを怪我させてたかもしれない。」
「あー、魔力コントロールね。魔力量が多い人ほど、出力と制御に気を使わなきゃいけないからね。
そうだ!じゃあ助けてもらったお礼に、私が昔やってた練習法を教えてあげる!」
ミーナさんが目を閉じて集中すると、急に周りの温度が下がりだす。そして、勢いよく手を前に出す。
「フリージング!」
パキーン!
乾いた破裂音とともに、机の上に氷の塊ができた。でも、俺も若葉もイマイチすごさがわからず首を傾げる。
氷属性というものはないので、水属性の魔力と無属性の温度を下げる魔力を掛け合わせて氷を作る。ただ、掛け合わせ自体は魔力量があればそこまで難しくはなく、里穂姉はもちろん、俺や海斗兄だってできる。
なんとも言えない表情をする俺達に気付きクスクス笑うミーナさん。
「ふふ、これだけじゃなんの練習かも分からないわよね。太陽さん、あなたも氷を作ってみて。」
「いや、ここで作ったらこの店壊しちゃうよ。」
魔力コントロールが不安定なのに、室内で魔法を使うのは自殺行為だ。といことで、店の庭で作ることに。
ミーナさんと同じく集中して魔力を練り込み、放つ。
「フリージング!」
ガキガキガキーン!!
先程とは異なる巨大な音とともに、庭を埋め尽くす氷塊。これでも自分的には魔力を抑えているつもりなんだけど……
「いやぁ、すごいね本当に。私じゃ全力でやってもここまで巨大な氷塊を作るのは無理だよ。
さて、じゃあ今度は火の魔法を使ってもらってもいいかな?この大氷塊と、私の作った氷のブロック。どちらの方が溶け残るか勝負してみよう!」
えっ?明らかに量が違うけど……
でも、そんなことはお構いなしで、とにかくやってみなよとミーナさんが言うので、とりあえず控えめに火の魔法を使う。とは言っても大火力になってしまうのが困るところなのだが。
すると、意外な結果が待ち受けていた。
「あれ?太陽の氷はどんどん溶けていくけど、ミーナさんの氷は全然溶けないよ。」
俺の氷はみるみる内に溶けていくのに、ミーナさんの小さな氷塊はほとんど溶けていない。
1分後、巨大な氷塊は巨大な水たまりを残して消え去り、対する小さな氷塊は半分も溶けなかった。
「ほらね。ちゃんと勝負になったでしょ?」
「その氷、どうなってるの!?」
ニコニコ笑うミーナさんの手から氷を受け取り、寄り目になるくらい氷を凝視すると、あることに気付いた。若葉も「あっ!!」と声を上げる。
「2人とも気づいたみたいね。その氷にはね、不純物がほとんど混ざっていないの。だからほら、向こう側が見えるくらい透明でしょ?」
そう、この氷、めちゃくちゃ透明なのだ。俺の作った氷は中が白くなったり、気泡が入り込んだりしていたのだが、そういうものが一切ない。
不純物を含まない氷は、より溶けにくいということを聞いたことがある。俗に言う天然氷などのことだ。
「だけど、不純物を減らすためにはゆっくり凍らせる必要があるはず。ミーナさんは一瞬であの氷を作り出したよね?」
「そう、そこが大事なところなの!
つまり、この氷を作るためには3つの魔法を絶妙にコントロールする必要があるの。」
指を3本立ててこちらに向ける。
「1つ目は氷の素となる水の魔法、2つ目はそれを凍らせる温度低下の魔法。ここまでは普通ね。
そして3つ目は……不純物を押し出す圧力の魔法。この3つの魔法をコントロールすることで、溶けない氷を作ることができるのよ。」
「3つの魔法を同時にコントロールするなんて可能なのか?」
ミーナさんは簡単に言っているが、これ恐ろしく難しい魔法だぞ?1つの魔法もコントロールできない俺にできるのか?
「大切なのはイメージよ。あと実はね……1つの魔法をコントロールするよりも複数の魔法を同時にコントロールする方が魔力が分散して感覚を掴みやすいの。ほら、やってみて!」
とりあえず言われるがままにやってみる。
えーと、さっきの魔法にプラスして圧力をかける。水をギュッと凝縮させて不純物を押し出すイメージ。
「フリージング!」
ガキーン!
イメージがより鮮明になったおかげか、さっきと同じくらいの魔力が使われたはずなのに氷の量は5分の1くらいになった。氷の密度が高まり、代わりに量が減ったのだろう。
だが、多少中が透けた程度でまだまだミーナさんの透明な氷には程遠い。
「うん!1回目でこれだけ上手にできればOKだよ。あとは繰り返し練習あるのみ!」
「お、おう、やってみるよ。」
確かに今まで取り組んできた練習の中で、1番コントロールできた感があった。この人、魔法はもちろんだが、教えるのもめちゃくちゃうまい。ハイラスマーレ魔導高等学院にいてもおかしくないような人だ。
「はぁー、それにしても……お父さん、10日後にどうやって税金払うの?若葉さん達のおかげで猶予はもらえたけど、このままじゃ絶対無理だよぉ。」
「確かにな……機会をくれた2人には悪いが、店を閉めるしかないか。」
「えー!?お店閉めるの嫌だよ!!頑張ろうよ!私ももっとお手伝いするから。」
父と姉の苦しい言葉に、床が抜けそうなくらい飛び跳ねながら駄々をこねる妹。でも、現状は俺から見ても厳しい状況だ。
何か方法があればいいんだけど…
「ん?若葉、どうした?」
チョンチョンと脇をつついてくる幼なじみ。この顔、何か考えがありそうだ。
「ねぇ、太陽!こういう時はさ!私達だけで考えてもダメだよ!」
なるほど、たしかにあの人なら何とかしてくれるかも。やはり持つべきものは、頭の良い幼なじみだ!
俺はすぐさま里穂姉に念話を飛ばした。




