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STORY TELLER  作者: 茶々丸
魔法邂逅編
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031 取り立て

その後は他愛のないお喋りをしながら東の町へ向かった。最近学校が忙しかったこともあり、お互いに話したいことはたくさんあったのだ。


「やっぱり若葉と話すと落ち着くなぁ。」


幼い頃からずっと一緒にいたこともあり、お互いのことは自分以上によく分かっているつもりだ。だからこそ、気兼ねなく話せるし、話すとなんだか心が落ち着く。

こういうの、幼なじみの特権だよな。


なんてことを考えながら若葉の方を見ると、なぜだか顔が真っ赤だ。

急に黙るしどうしたんだ?


「若葉?体調悪いのか?」


心配して声をかけると、全力でビュンビュン横に首を振る。


「ご、ごめん、ちょっと暑くて!」


なんだ、暑いのか。確かに最近本当に暑いよな。俺達のいた日本と変わらないらしく現在7月の初夏。気温計や天気予報がないので、正確な温度は分からないが、おそらく30度は超えているだろう。


「そうか、大丈夫か?もう少しでかき氷屋さんだろ?あとちょっと、頑張ろうぜ。」


今度はコクリと首を縦に振る若葉。こんな時、涼しくなる魔法とか使えたらいいのにな。でも、若葉に魔法は効かないか。


なんてことを考えながら歩いていると、目的のかき氷屋さんに到着……したのだが、どうも様子がおかしい。

遠くから見ていたら人気店で人だかりができてるのかと思っていたけれど、どうもそういうわけじゃなさそうだ。

人だかりの真ん中で話しているのは、かき氷屋さんの店長らしき人と……ルリット!?なぜここに!?

ルリットとは、同じクラスの貴族グループの中の1人だ。こいつがいるということは、ろくなことでは無さそうだが……

2人の会話に耳を傾ける。


「こんな一等地に店を構えて、定められた税金も払えないなんて、ふざけてんのか!?」


「大変申し訳ありません。」


どうやらルリットがかき氷屋さんの店主から税金を徴収しようとしているところらしい。

しかしなんて横暴な言い方なんだ。貴族ってだけでそんなに偉いのか?

かき氷屋さんの店主は謝り倒しているが、ルリットも一歩も引く気はないらしい。冷たい視線で店主を見据える。


「もうすでに10日待った。これ以上待って何か変わることはあるのか?いや、ない!

店主、悪いが店を畳んで出て行ってくれ。」


「それだけはご勘弁を。お願いします、この通りです。」


ついに店主が地面に頭をついた。周りには野次馬もたくさんいるのに、そんなことはお構いなしに地面に頭を擦り付ける。

もう我慢の限界だ!一言物申してやる!!


「ルリットさん!もうそのくらいでいいんじゃないですか!?

それに、あなた達も悪趣味ですよ!!」


俺が声を上げる前に、若葉が顔を真っ赤にしてルリットと周りの野次馬に叫ぶ。

急に出てきた若葉の剣幕に驚き我に返ったのか、野次馬達の大半はそそくさと自分の仕事に戻っていった。


「これはこれは、王のお気に入りさんじゃないですか。今日は無礼な男は1人ですか。

さて、そのくらいでいいんじゃないかというのは、私に対して言っているんですか?」


「それ以外誰がいるの!!そんなに誠意を込めて謝ってるんだから、少しくらい待ってあげてもいいじゃない!!」


ふふんと鼻を鳴らして店主を見下ろす。その目は冷たく、厳しい。


「店主、良かったなぁ。王のお気に入りが助けに来てくれたぞ。仕方ない、取り立ては10日待ってやろう。」


なんだ、意外と素直なやつじゃないか。若葉もほっとしたようで、店主に駆け寄って声をかける。

そんな様子を冷たい目で見ていたルリットは、店のドアの方を見てニヤリと笑う。


「ただし、ただで引き下がる訳にはいかないな。こっちだって、払ってもらえないということは、その分の税を立て替えなければいけないのだ。これで踏み倒されたりでもしたらたまったもんじゃない。なので……」


ルリットは店のドアを指差す。

そこには何もないのだが……と、ドアが勢いよく開き、1人の幼い少女がルリットの腕に引き寄せられる。


「店主、お前の娘を担保にさせてもらう。もちろん文句はないよな?」


「あぁ、ミサ……そんな…」


なんてやつだ、こいつは人が嫌がることを知り尽くしている。素直だなんて考えた俺がバカだった。

急に魔法で引き寄せられ泣き喚く少女。年齢はおそらく5~6歳くらいだろう。こんな幼い子どもを人質にとるなんて、許せない。


「なんの権利があってその子を連れて行くの!?早くその子の手を離しなさい!」


怒りに震えるのは若葉も同じ。今すぐにでも飛びかかりたい気持ちを堪えているのが握られた拳から伝わってくる。

しかし、若葉の言葉を聞いても、俺達の姿を見ても、ルリットは余裕の表情を崩さない。


「権利だって?それがですねー、あるんですよ。」


権利が……ある?

ふと店主の方を見ると、こんな状況にも関わらず、反論することも、ましてや娘を取り戻そうとする様子もない。


「おまえらは海外から来たからこの国の法律など知らんのだろ。

いいだろう、特別に俺様が教えてやろう。まあ、おまえらみたいな下等な一般人に理解できるかは謎だがな。

法律にはこうある。『税金を徴収する貴族は、税金を延滞する者に対して、担保として一時的にそのものの所有物を預かることを認める。また、税金を払うことができない場合は、その者の全財産を徴収することができる。』

わかったか!!これは正当な行為だ。どこから来たのかも分からんような奴らが口出ししていいことではないのだ!」


ルリットの自信たっぷりな口ぶりがハッタリではないこと示している。

これはこの国では当たり前のことなのかもしれない。店主さんの様子や、周りの人達の様子を見ても、ひしひしと伝わってくる現実。

確かに俺達外から来た者に口出ししていいことではないのかもしれない。それに恐らく、俺達はきっとこいつら貴族が徴収したお金で生活しているのだ。


でも………でも俺は!!


「そんなこと知るか。いいからさっさと彼女を離せ!!」


右手をルリットに向ける。

ルリットの言うことは正論なのかもしれない。周りの人達の諦める姿が普通なのかもしれない。

それでも……この状況を許せるほど、俺は大人ではなかった。

右手を向けられ、余裕の表情が崩れるルリット……が、すぐに笑みを浮かべる。


「おまえのやってることは犯罪だぞ。捕まりたいのか!?

それに、おまえは確か魔法をコントロールすることができなかったはず!!そんな状態で魔法を使えば、この娘も、町もただじゃ済まないぞ!?」


確かに、ルリットの言う通り、俺の魔法は今の状態では使うことができない。使った方が被害が出るのは間違いない。つまりハッタリだ。

だが、ルリットの口ぶりからして、さっきまでの余裕は無くなっている。ハッタリだと分かっていても恐いのだ。きっとこの間空けた校庭の大穴でも見たのであろう。

あと少し、あと少し揺さぶれれば、こちらが優位に立てるかもしれない。


「そもそも俺は外国から来た人間だ。この国の法律なんて知らん。

そして魔法についてだが、俺は若葉がいれば魔法をコントロールすることができる。

ハッタリだと思うか?ならここで勝負しよう。そうすればはっきりする。」


若葉が俺と同じように右手を前に出し、魔法を使う構えをとる。さすが幼なじみ。俺の意図に気づき、瞬時に合わせてくれたようだ。

若葉が右手を前に出したことで、ルリットは完全に余裕をなくしたようだ。顔が青ざめ、震えながら左手を上げる。

若葉の魔法は全く知られていない。つまり、ルリットにとっては未知の魔法なのだ。


お互いに手を上げたまま、1秒、2秒と時が過ぎる。俺はただ、ルリットがハッタリにかかることを祈る。


先に手を下ろしたのは……ルリットだった。


「ちっ、仕方ねー。今日のところはとりあえず引かせてもらおう。

ただし、10日後には必ず取り立てる。そこで払えなかった場合は、店はもちろん、貴様の財産も全て差し押さえるから、そのつもりでいろよ!!」


よかった、ハッタリが効いたようだ。

彼は渋々ながら少女の腕を離し、踵を返して帰って行く。

店主もほっと胸を撫で下ろし、娘さんを呼び寄せようと手を前に出す。

その時、ルリットがピタリと立ち止まりこちらを振り返る。


「そうだ。おまえらに言ってなかったことがあった。

いいか、貴族は自分の管轄する地域では税金の徴収や治安維持など、様々なことを行なっている。町のため、国のために行動するのが俺達だ。」


またしても意地の悪い笑みを見せる。

何をするつもりだ?


「そして、今回は国の法を破る者がいる。当然、管轄する俺としては黙っていることはできない。ただ、下手に手を出すと被害が拡大する恐れがあるからおまえ達に手出しができない。

困った困った。周りの目もある中で、貴族として何もしない訳にはいかないのだよ。だから……」


急に手を上に振る。

と、店主の娘さんが空高くに飛ばされた。

あまりの出来事に、その場にいた誰もが目を疑い、動くことができなかった。

そんな姿を見て高笑いしながら去って行くルリット。


「おまえ達を取り押さえようとした魔法が誤って女の子を吹き飛ばしてしまったよ。

あーあ、おまえらのせいだ。ちゃんと法を守らないからこうなるんだぜ。ちゃんと助けてやれよ!」


「てめー、待ちやがれ!」


追おうとする俺を若葉が止め、必死な形相で訴える。


「太陽!今はあの子を助けないと!太陽の魔法だけが頼りなんだよ!!」


そうだ、今はあいつを追うよりもやらなければいけないことがある。

若葉の魔法では、少女を助けることはできない。俺がやらなければ。


30メートル近く上昇した後、きりもみしながら落下しだす。ただただ恐怖に震え、声を出すことすらままならない少女。


「頼む!あの子を助けてくれ!」


「分かってる!!」


店主の悲痛な叫びに答える。

でも、どうする?

落下まで残り数秒だ。セオリー通りいくのであれば、風の魔法でスピードを弱めながら受け止める……だが、俺の魔力コントロールでそれができるのだろうか。いや、やるしかない!


少女に右手を合わせながら、魔力を生成する。

強すぎてもいけないし、弱すぎれば受け止められない。優しく、でも力強い風で少女を受け止めるイメージを固める。


俺の手のひらから、風が吹き出す。そして、少女の元へ向かう。

少女に風が到達すると、徐々に落下スピードが落ち始める。


いける!!


と思った。だが、その考えが甘かった。

少女のことを思うあまり、魔力を弱めすぎたのだ。落下スピードは落ちているものの、このままでは受け止めることができず地面にぶつかってしてしまう。

どうする?魔法を強めるか?

だが、勢い余れば、それこそ少女の命を奪ってしまいかねない。


「まずい!このままじゃ受け止めきれない!

って、おい、若葉!」


若葉が走り出し、少女を受け止めようと落下地点へ向かう。間に合うか微妙なところだが、下手すれば若葉もただでは済まない。

くそっ!俺にもっと力があれば、2人とも無傷で助けられるのに!


その時、急に少女の体が落下から解放され、ふわりと浮き上がった。泣いていた少女は、自分が空を飛んでいることに気づき笑顔になる。そしてそのまま地面に両足で着地した。

何が起きたのか全くわからず、俺と若葉は目をぱちくりさせる。


「危機一髪だったね!間に合ってよかった!」


そこにいたのは俺達と同い年くらいのポニーテールの少女。右手が上がっているのを見て、この子が助けてくれたことに気付く。


「さて、なんで私の妹が空を飛んでて、お父さんが跪いているのか聞いてもいいかな?」


彼女は少し怒ったような、困ったような顔をしながら腕を組んだ。


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