028 自分らしく生きる
「ごめんなさい、取り乱してしまって。
それに、いっぱい食べちゃいました。王様の分が……」
2房の3分の2を食べたところで、ようやく落ち着き、王様の分まで食べてしまったことに気づく。けれど、王様は静かに紅茶をすすり、笑顔を見せる。
「よいよい。そのブドウは君のために用意したものじゃ。
それに、子どもの秘めた感情を引き出し、解放させるのも、大人の役割じゃからな。」
私はどんな大人の人とも楽しく喋れるタイプの人間だと自負している。
でも、王様と話していると、楽しいというか、なんだか気持ちが落ち着くのだ。こんな感覚を覚えるのは、自分の両親や幼なじみ、そして、想いを寄せるあの人くらい。
王様なのに、とっても年上なのに、出会ってまだ間もなく、そんなに話したわけでもないのに……不思議だ。
それから色んな話をした。とは言っても、私の話が8割以上を占め、たまに質問や感想をちょこっと王様が言うって感じだったんだけど。
気づけば、いつの間にか時計の長針がぐるっと一周していた。
話のキリがいいところで、王様がよいしょと腰を上げる。
「さて、そろそろわしも行かなければのぉ。里穂、お主も休まないと、明日学校を休まなければいけなくなってしまうぞ。」
「それはまずいです。私がいないと、海斗とわかちゃんに勉強を教える人がいなくなっちゃいます。」
勉強面、特に魔法学系の授業は、2人ともちんぷんかんぷんだから。私が分かりやすく教えてあげないと、どんどんわからなくなっちゃう。
「本当に頼りにされているのじゃな。そんな里穂に、一つだけ。」
大きくて温かい手のひらを頭に置かれ、なんだろうと顔を上げる。王様の顔は、いつものように穏やかだけど、その目はじっと私のことを見つめている。
「君は才能に溢れている。わしなんかよりも遥かに素晴らしい大人になるじゃろう。
だが、良いか里穂。いついかなる時にも、君らしく生きることを忘れてはならんぞ。
何を背負い、何を守り、誰のために、どのように歩むか。
決めるのは他人ではなく自分自身じゃ。それを忘れないようにな。」
『自分らしく生きる』、それは私が1番大切にしていること。
いや、私だけじゃない。
太陽も、海斗も、わかちゃんも。
教えてもらったから。その大切さを。
深く、コクっと頷くと、王様は目頭を下げて優しく微笑む。
分かっているようじゃな。って声が聞こえた気がしたんだ。きっと気のせいじゃないですよね。
「今日はありがとうございました。とっても楽しい時間でした。この後は……ちゃんと寝ます。」
「それなら良かった。来た甲斐があったというものじゃ。
そうじゃ、わしがここに来ていたことは秘密にしておくれ。もちろんマーレにもじゃよ。
これでもし里穂の体調が治らなかったら、叱られてしまう。
母親によく似て、怒ると恐いのじゃよ。」
それはきっと王様に似たんですよ。だって、王様も怒ったら絶対恐いに決まってますもん。
「ふふ、そうかのぉ。わしはいつも笑顔で優しいと思うのじゃが。」
また心を読まれてしまった。でも、今のは私も読んでくれることを期待していたような気がする。
言葉ではさすがに言えませんから。
王様、本当にありがとうございました。
マーレ達には、ちゃんと秘密にしますね




