027 紅茶とブドウとマスカット
今頃みんなはお昼ご飯かな。はぁ、行きたかったな、水族館……
予報通りの天気。窓を濡らす雨粒は、一層心を暗く、寂しくさせる。
私って、なんでいつもこういう日に限って体調崩すかな。間が悪いというか、なんというか。前日にワクワクしすぎなのかなぁ。
まだ熱は38度ちょっとある。体がだるい。頭も喉も痛い。
「はぁぁぁー」
誰が聞いているわけでもないので、ここぞとばかりに盛大にため息をつく。
風邪なんて、大っ嫌い!!
コンコン。
ノックをする音。こんな時間に誰だろう。太陽達が早めに帰ってきたとか?
でも、それならノックはしないか。
この部屋に私達が住んでいることは、一部のメイドさんと、マーレ、ショーンさんくらいなはず。メイドさんも、家事は自分達でやるって伝えてあるから滅多に訪れないし……何かの伝言とかかな?
重たい体を起こしてノロノロと扉の方へ歩き出す。こんなにゆっくり歩いていたら、留守かと思って帰っちゃうかも。
まあそれならそれでもいいけど。
30秒たっぷりかけてドアにたどり着いた私は、覗き穴から外を伺い……仰天する。
「お、王様!?!?」
「おぉ、里穂。反応がないので、出直そうかと思ったのじゃが。
体調はどうじゃ?お見舞いにきたのじゃが。」
なんで王様が私の具合を知ってるの!?
ドアの前で待たせてしまって、申し訳なさが半端ない。すぐに扉を開けて謝る。
「待たせてしまい申し訳ありません!!
体調は、良くないですが元気です!!」
何言ってるんだろう……
そんな私を見て、ふぉっふぉと笑うと、入っても良いかと聞いてくるので、部屋にお通しする。
荘厳な紫色のマントを翻し、いつも海斗が座るソファに王様は軽やかに座った。
太陽が勝手に座ると怒るけど、王様なら怒らないだろう。
お茶を用意しようと立ち上がると、よいよいと見えない手が私を座らせ、代わりにテーブルの上にティーカップとポットが現れる。
「いい香り……」
「それはそれは、気に入ってくれて良かった。君はこういう紅茶が好きなのではないかなと思ってな。あくまで勘じゃがな。」
絶対に勘じゃないな。なんて考えていると、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべる王様。
あっ、心読まれた。
「さて、改めて、今日は残念じゃったのぉ。君と遊びに行けることを、マーレもとっても楽しみにしていたのじゃが。」
「私もすっごく楽しみにしてたんですが……こういう時に限って体調を崩してしまうんです。」
あからさまに落ち込む私を気の毒に思ったのか、空中を掴む仕草をする。すると、そこからブドウとマスカットの房が入ったバスケットが現れた。
綺麗な紫色と黄緑色。艶やかに輝く丸い果実は、宝石のよう。
ブドウとマスカット、大好物なんです。
いつもは買ってもらえないブドウ。でも、体調を崩した時は、私を元気づけるためにお母さんがよく買ってきてくれたっけ。
それでお父さんもマスカット買ってきてくれて……体調崩して大切な行事に参加できないのは嫌だったけど、それだけは嬉しかったなぁ。
「おや、これは好きじゃなかったかな、」
いつの間にか涙が頬を伝って落ちる。自分でも驚き、すぐに手で拭うと、顔をブンブンと横に振る。
「そんなこと……ありません。とても、大好きです。ありがとうございます。」
なんで涙が止まらないんだろう。
そりゃそうか、私、まだ中学2年生だもん。とにかく色んなことで精一杯だったから気が紛れてたけど、やっぱりお父さんとお母さんに会いたい。会って抱きしめてほしい。
寂しいなぁ。
「今は君が守りたい3人はいないのじゃ。自分の気持ちに素直になるのも悪くないぞ。」
私はマスカットを一粒もぐと、そのまま口に入れた。とっても甘い、懐かしい味。
でも、涙でちょっぴりしょっぱかった。




