025 海の生き物
3階のフロアは、ショーコーナーだった。イルカショーがメインのようだが、アシカやセイウチのショーや、ペリカンのお散歩など、バリエーションに富んでいる。
室内なのにすごいなとつくづく思う。なんせイルカがジャンプしてもぶつからないよう、10メートルの高さに天井があるのだ。普通のマンションの天井が2.5メートル程と考えると、その5倍。
ちなみに4階は、3階のフロアを取り囲むバルコニーのようになっており、レストランや宿泊施設があるらしい。イルカショーを眼下に望みながら、ランチやディナーができるなんて、贅沢極まりない。
若葉が全てのショーを見ると言い張るので、2時間かけてようやく回り終えた。
女子2人はまだまだ元気だが、男子2人には疲労の色が見える。
そしてお腹がすいた。
それは海斗兄も同じだったようで。
グーとお腹が鳴るのを聞いて、マーレが笑う。
「そろそろお腹がすきましたよね。上のレストランはさっき確認したら満席だったので、フードコートに行きましょうか。1階にあると店員さんが言っていました。」
「賛成!私もお腹ぺこぺこだよ。」
そりゃあれだけはしゃいでいれば、お腹も減るだろう。
「そういえば若葉、1階は何が展示されてるんだ?」
「んーとね……海の生き物?」
ん?どういう意味だ?予想外の言葉に、俺も海斗兄もハテナマークが浮かぶ。
当の本人も、なんじゃこりゃと思ったようで、もう一度パンフレットを見返しているが、当然書かれている内容は変わらない。
「今まで見てきたのも海の生き物……だったよな?」
「何を言ってるのですか?海にはこんな綺麗で可愛い生き物達はいませんよ。」
キョトン顔の姫様。
対して言っている意味がよく分からない俺達。
「とりあえず1階に行ってみようぜ!」
海斗兄の言う通り、行ってみれば分かるか。
今日3度目のイルカショーが始まり、イルカの宙返りに湧き上がる観客。水飛沫が天井のライトに照らされ、キラキラと光り輝いていた。
「なんじゃこりゃ。」
きっとこれは俺だけの感想ではないだろう。現に若葉も海斗兄も唖然としているし。
頭や尻尾が2つあったり、目が5つあったり、顔がなかったり、色がおかしかったり……とにかく色々な魚のような物が、水槽の中を優雅に泳いでいる。
隣の水槽には、足が20本あり、2メートル近い体長のタコのような生き物。その隣には、目と鼻と口がついたクラゲ?が浮き沈みしている。
フロア最大の水槽には、ペンギンがよちよちと氷の上を歩いている。だが、注目すべきはその色だ。紫、黄色、緑色など、とにかく多種多様。その毒々しい色味は、ペンギンの愛らしさを台無しにしてしまっている。
水槽には説明書きはおろか、生き物の名前すら書かれていない。
フロアの入り口には、確かに『海の生き物』と表示されている。
どういうことなんだ?
この生き物達はなんだ?
「とりあえず、フードコートで昼食を食べましょう。話はその時に。」
困惑する俺達を、今度はマーレが誘導する。ペンギンの水槽の横を抜けると、大きなフードコートがあった。お昼時とあってか、結構な人数がいるが、選びさえしなければ、席に座れないほどではない。
様々なお店が軒を連ねているが、おすすめは海鮮料理らしい。水族館で海鮮料理って、ちょっといたたまれないような気もするが、結局俺と海斗兄は海鮮ラーメンを、若葉は海鮮丼、マーレは小さなアクアパッツァを注文した。
「この魚達は……どっちの魚なんだ?」
目の前の美味しそうな料理に手をつけようとした時、海斗兄の何気ない呟きに俺と若葉の動きが止まる。
あの変な魚達が素材だとしたら、確実に食欲は減退するが……
すると、マーレが笑って貝の中身を一つ、上品に口へと運ぶ。
「大丈夫ですよ、これは2階より上の階に展示されていた魚達です。あっ、正確には別の場所で育てられた魚ですけどね。」
3人ともあからさまにホッとするのを見て、ふふと笑う姫様。
その後は、少しずつシェアしながら料理をいただいた。
どれもとても美味しかったが、やはり先程の展示のことが気になって、いまいち食事に集中できない。
「マーレ、さっきの話だけど。あの変な生き物達はなんなんだ?」
「太陽達の世界では、海ってどんなところですか?」
海?と言われても、大きくて広くて、魚がいっぱいいて。
そんな感じで説明すると、マーレは若葉から図鑑を借り、その1番最後のページを開く。
「えっ、これって……」
若葉が驚くのも無理はない。
空中に映し出されたのは海の写真。だが、元の世界とは明らかに違う。
灰色の海。
「これが私達の世界の海です。いつからこうなったのかは分かりませんが、残念ながら世界中の海がこのように濁ってしまっているのです。」
マーレの話によると、ただ濁っているだけではなく、この海の水は生き物にとても悪い影響を与えるらしい。
「海水には、大量の魔力が溶けています。前にも話しましたよね。魔力はこの世界に欠かせない物ですが、多すぎてもいけません。あの水に含まれる魔力量は、ハイラスマーレ国内の空気中の1000倍以上です。」
1000倍って……とんでもない魔力量だ。生き物が生きていられるわけがない。
「でも、じゃあここの生き物達は。」
「先程も言いましたが、2階より上にいた生き物、そして私達の口に入る生き物は、全て養殖された物です。しっかりと管理されているため、触れるのも食べるのも大丈夫です。
ですが、この1階にいる生き物。これらは海の水に含まれた大量の魔力に侵されてしまっている。その魔力によって姿形が変わってしまったのです。」
なるほど、だから海の生き物なのか。
確かに2階より上にいた生き物には、海とか川とか、そういう言葉は一切書いていなかった。全部養殖だから。
「私もいつか海で遊んでみたいですが、それは叶わぬ夢ですね。」
「そんなことないよ!マーレが私達の世界に遊びに来ればいいんだよ!
そうすればいっぱい遊べるよ!」
ありがとう。と、若葉の頭を優しく撫でるマーレ。
この世界には、俺達が住む世界との共通点がたくさんある。
でも、やっぱりこの世界は、俺達のいた世界とは違うということを、改めて実感させられることになったのであった。




