023 ギャップ
「マーレ、その服……」
「どう……ですか?あの、変だったら言ってくださいね?」
変だなんてとんでもない。
レース素材の白のフレアスカートに、淡いブルーのカーディガンという、美しさと可愛さが混在した姿に、思わず息が止まる。
いつもの青いローブ姿とのギャップが凄すぎる。
「マーレ、めっちゃ可愛いよ。私もそういう服を着こなせるようになりたい。」
そういう若葉も、世の一般女性からしたら、喉から手が出るほど羨ましいくらい可愛いと思うけどな。無い物ねだりとはまさにこのことだ。
まあ今日はマーレのギャップ勝ちだな。なんて言ったら、きっと膨れ面でそっぽを向いてしまうだろうから言わないけど。
「でも、マーレ、本当にいいの?姫様が水族館に来てるってなったらパニックにならない?」
「ふふ、大丈夫よ若葉。こんなこともあろうかと……」
腕をふわりと優しく下ろすと、なんとマーレが別人になってしまった。彼女の面影は一切なく、確かにこれならバレないだろう。
「でもさ、なんかそれだとマーレと一緒に遊んでる感じがしないよな。」
海斗兄、結構不満顔ね。まあ俺も同じこと思ってたけど、やっぱ仕方ないよな。だって、水族館に皇后様や皇女様が来てるような感じだろ?……うん、やっぱパニックになる未来しか見えない。
しかし、当の本人は得意顔だ。まだ何かありそうだな。
今度は俺達3人に向かって手のひらを向けた。そこから放たれた柔らかな光は、目を覆う。思わず目をつぶってしまったが、恐る恐る開けてみると……
「あっ、マーレに戻ってる!」
「おお、すげぇ。これも魔法か。」
「私は変わってないよぉ!!」
どうやら魔法をかけられた人だけは、そのままの姿で見えるらしい。若葉さんは残念ながら魔法を消してしまうせいでそのままのようだが、こればかりは仕方ない。
あとで聞いた話だが、この魔法は今日俺達と一緒に水族館に行くためだけに作った魔法らしい。並々ならぬ執念を感じる。
「ところで、里穂はどうしたんですか?さっきから見当たらないようですが。」
キョロキョロと周囲を確認するマーレ。いつもなら真っ先に駆けつけてくる里穂姉がいないことにはきっと初めから気付いていたはずだが、みんな何も言わないから、聞くタイミングを失ってたんだろう。
「実は、里穂姉は……」
ふかふかのソファやピカピカのテーブルが置かれた共用スペースの右奥、Rihoと筆記体で書かれたプレートがかかるドアを、ゆっくり指さす。
実際にはそんなことないのだが、なんだか負のオーラが見えるような気がする。
「風邪ひいちゃったの。熱が39度以上あって、今は寝てる。朝起きてた時は行くって言い張ってたんだけど、さすがにね……」
里穂姉って、昔からこういう時に体調崩すんだよな。
風邪なんて、魔法でちょちょいのちょいなのかと思ったら、どうもそうはいかないみたいで。腕はとれても治るのに、不思議すぎる。
と、里穂姉の部屋の戸の隙間から、一枚の紙がヒラリとすり抜け、こちらに飛んでくる。マーレの手に収まった手紙を、3人で後ろから覗き込む。
『やっぱり熱が下がらないので、今日はおとなしくしています。みんなは楽しんできて!!
P.S.お土産は買ってきて欲しいな。あと、マーレのその服、とっても似合ってるよ!』
そして、戸が微妙に開き、手だけがにゅっと出てくる。心なしか赤みを帯びたように見える手は、親指を立ててグーサインを表した。
「里穂姉、お土産いっぱい買ってくるから!楽しみに待ってて!」
「里穂、次は絶対一緒に行きましょう。約束ですよ!」
ヒラヒラと振られる手からは、どこか寂しさも伝わってくる。
今度は俺が企画しようかな。次は里穂姉が1番行きたいところに行こう!美術館とか、この世界にあるよな、きっと!




