021 女王の盾
その後、早速エリーン先生の授業が始まった。
初めは魔法について……だったのだが、難しくてよく分からなかったので、後ほど里穂がしてくれた説明をそのままに。
魔法とは、自然界に存在する魔力と体の中にある魔力を組み合わせて使うものであり、様々な事象を再現することができる。大まかに分けて火、水、風、雷、地、光、闇、無の8属性に分かれており、人それぞれ体の中に存在する魔力の属性や量は違う。
例えばマーレは光属性の魔力を多く体の中に持っており、その魔力と自然界の魔力を合わせて治療の魔法や盾の魔法を使うというわけだ。
自然界の魔力に属性は存在しないようだが、昼間は光属性の魔法が使いやすかったり、夜は闇属性の魔法が使いやすかったりすることはあるらしい。
魔力がどこから発生していて、いつ魔法が作られたか等、まだまだ分からないことが多いが、体内の魔力量は年齢を重ねるごとに増えていくという。
また、魔力の量が多すぎると、魔力酔いと呼ばれる酒に酔ったのと似た症状が表れるらしい。それでもそのままにしていると髪の毛が抜けたり、内臓に異常が生じたりと体に良くないらしく、ここハイラスマーレ国は国を覆う魔法陣によって自然界の魔力量を制限している。
この話を聞いていて、里穂や俺が坊主達から逃げるときに体調が悪くなったことを思い出した。つまり、あの時の俺達は魔力酔いだったということだ。
ただ……なぜ、太陽や若葉はその症状が起きなかったのか、また途中から急に治ったのかについては分からないが。
「ということは、私達が強くなるためには、自分の体の中の魔力量や属性を知らなければいけないということですね。」
「その通りです里穂。あなたはとても優秀なようですねぇ。学生時代のマーレを見ているかのようです。」
里穂は直接、マーレは間接的に褒められてニコニコしている。
マーレ、エリーン先生の前では完全に学生だな。なんだかんだですごく楽しそうだ。
「それでは、今から各自の魔力量を測定していきます。まずはこの薬を飲んでください。これは魔力を視認できるようにする薬です。
魔力量は、全体量と属性量で測ります。全体量は全属性の総量で一般人は100~300、魔導師は300~700、私達賢者クラスは1000を超えます。
属性量は属性ごとの魔力量のことで、これを見ることによって得意な魔法が分かります。
試しにマーレ、いいですか?」
「わかりました。」
マーレはローブを脱いで中のシャツ一枚になる。そこにエリーン先生が粉をふると、8色の色に分かれた。
「明らかに白色が多い。」
「そういうことです太陽。白色、つまり光属性の魔力が多いということですね。」
細かく言うとマーレの魔力は、火100、水120、風90、雷80、地80、光600、闇10、無200で、総量1280ということらしい。
「先生、無属性ってどういう魔法が使えるんすか?」
気になって質問してみる。他はなんとなく想像つくのだが、無属性だけは謎だ。
先生は俺の言葉遣いにムッとしたようだが、質問は的を射ていたようなので説明してくれた。
「無属性とは、身体強化や転移魔法、重力魔法など幅広い魔法を使うことができる魔力のことです。」
なるほど、じゃあ俺達をテレポートしてくれた魔法とか、空を飛ぶ魔法は無属性なんだな。便利な魔力だ。
次は里穂の番。
里穂の魔力量は……えっ!?
粉を振りかけられた里穂の周りが神々しく輝く。明らかにマーレとは違う強い光。
「これは……すごいですね。総量も属性量も桁違いです。」
エリーン先生も驚くその数値とは…
火200、水200、風200、雷200、地200、光1000、闇10、無300で総量2310。
マーレの2倍弱……マーレってこの国最強の魔導師の1人だよな?
「にわかには信じられませんが……今まで測定してきたどの魔導師よりも多い量です。あの最強と呼ばれるショーンですら約1700ですから。それに光属性の1000……あなた、確かイージスを使えると言っていましたね?」
「はい。マーレを真似してやってみたらできました。」
里穂の言葉を聞き、エリーンはマーレを見る。
あれ?この光景どこかで……
「あの、イージスって魔法、そんなに特殊な魔法なんですか?王様も今のエリーンさんと同じような顔をしていたので……」
里穂の質問に戸惑いの表情を見せるエリーン先生。
「王も同じ反応を……そうですね、マーレ、教えてあげなさい。」
「わかりました。里穂、いいですか。実はイージスという盾の魔法には別名があります。1つは『絶対防御』、そしてもう1つは『女王の盾』」
『女王の盾』……意味はそのままだよな?でもならどうして里穂が?
マーレは話を続ける。
「イージスという魔法は、光属性の魔力を多く持つ王族の女性のみ使うことができる魔法なのです。」
「でも、私は王族じゃないです!!」
混乱する里穂をマーレは優しく落ち着かせる。
「分かっています。だから不思議なんです。どうして里穂がそのような魔力を持っているのか……
でも、魔法にはまだまだ分からないことが多いのです。なので、あまり考えずにいきましょう。」
未だ混乱している里穂を、今度は若葉が落ち着かせる。若葉に手を握られて、里穂も我を取り戻したようだった。
「ありがとう、わかちゃん。もう大丈夫よ。マーレ、エリーン先生、取り乱してすみません。」
「こんなことを言われて取り乱さない方がおかしいんです。気にしないでください。
さあ、次に進みましょうか。」
この話はひとまず区切りとなり、次に太陽が測定される番。
太陽の魔力は……こちらもすごかった。
「火400、水100、風200、雷900、地100、光200、闇100、無300の総量2300……
あなた方は化け物の集まりですか?」
先生、化け物って結構ひどいですよ。
太陽は火と雷の魔法が得意みたいだな。でも、話を聞いてる感じ、太陽も里穂もどの属性の魔法もかなり使えそうな感じだ。
2人とも頭いいからなー、それが魔力に反映したとか?
じゃあ俺はどうなるんだ?
次は俺の番なのだが、正直緊張している。
なぜかって?そりゃもちろん闇の魔力のこと。
マーレとショーンに封印してもらったとはいえ、今回の測定でどのような結果が出るのか不安なのだ。
ただ、先生はそんなことはお構いなしで粉を振りかける。
えーい、どうにでもなれ!!
結果は……
火50、水50、風50、雷50、地50、光0、闇0、無1000の総量1250。
心配していた闇属性の魔力は、なんと0!!
「無属性が1000で光と闇が0、すごい偏った魔力ですねぇ。海斗、あなたはその体を生かして強化魔法による近接戦闘が向いているかもしれませんねぇ。」
先生の話も上の空、とにかく自分を失わせるほどに強力な闇の魔力がしっかり封印されていることに安堵した。
「さて、それでは最後に若葉ですが……
これはなんとも興味深い結果ですねぇ。私も初めて見ました。」
「これって!?」
「こんなことあり得るのか!?」
ん?どうしたんだ?
若葉の結果が里穂や太陽を上回るようなすごい数値だったのか?でも確かに若葉って、こういう時に期待を上回ってくることあるからな。
そんなことを考えながら若葉の方を見てみると……
「あれ?何にも光ってないけど?」
「だから初めて見たと言ったのです。今までたくさんの生徒達の魔力を見てきましたが、こんなことは初めてです。」
ということは、若葉は魔力を持っていないということなのか?
すると太陽が何かを思い出したようで、若葉に問いかける。
「そういえばさ、坊主達に追いかけられた時、若葉だけ魔法で拘束されなかったの覚えてるか?」
「うん。確かあの時は、魔法がかからないって言われて……」
確かにそんなことを言っていたような気がする。
話を聞いたエリーン先生は、少し考えた後……なんと若葉に向かって光の球を放った。
急な攻撃に、誰もが呆気に取られ動くことができない。
それは本人も然りで全くかわすことはできず、光の球は若葉の腕に直撃した……かに見えた。
シューン
腕に当たる寸前に球が消えた。若葉が何かしたようには見えなかったが……
「何するんですか!!」
すごい剣幕の太陽をマーレが止める。対して球を撃った先生は、太陽のことなどお構いなしで、若葉を見て目を丸くしている。
「信じられませんが……あなたは魔法を消すことができるようですねぇ。しかも無意識の内に。こんな魔法初めて見ました。」
みんな戸惑っている様子だが、1番戸惑っているのは若葉自身だろう。自分がどうしたのかも分からず、太陽と先生を交互に見ながら眉をへの字にして立ち尽くしている。
先生すら見たことがない魔法。魔法を消してしまう魔法。
「あの、私、何もしてなくて……勝手に…」
「えぇ、分かっていますよ。これは相当特殊な魔法であり、世界中の権力者達が喉から手が出るほど欲しがる魔法ですねぇ。
うーむ、困りました。こんな魔法を大会で国民に見せるわけにもいきませんし…」
魔法を完全に無効化する魔法……魔法世界において最強と言っても過言ではない魔法。
俺でも分かる。魔力量とかそういうの関係なく、この魔法はやばい。
「もしかしたら王はこの事態も想定してマーレを目付け役に指名したのかもしれませんねぇ。
皆さん、よく聞きなさい。私があなた達4人全員に教えるつもりでしたが、状況が変わりました。
私は若葉に力の使い方を教えます。これはとても難しいことなので、他の3人を教える暇はないでしょう。そこで……」
一呼吸置いた後、マーレを見据える。マーレは何がなんだか分かっていない様子で困り顔だが、先生はお構いなしに言葉を続けた。
「マーレ、あなたが師としてそこの3人を育てなさい。」




