020 運命の本
「そうなんですね。良かったです。
あと……実は皆さんに魔法大会で優勝してほしい理由がもう一つあるのです。」
マーレが手を前に出すと、1枚の紙が空中から現れた。何かのチラシのようだ。
俺と里穂はチラシをまじまじと覗きこむ。
なになに、ハイラスマーレ魔法大会、高等学院生徒対抗戦の団体の部、優勝商品は……STORY TELLER?
「STORY TELLERと言われても分からないですよね。
STORY TELLER、別名運命の本。初めて本を開いた人の運命を読み取り、必要なことを教えてくれる本なのです。とても貴重な本で、王様が1冊、王妃様……つまり私の母が1冊の計2冊だけこの世に存在する本。母は私が小さい頃に亡くなってしまったので、使えるのは王が持ってる1冊だけですが。
それがこの間学院の図書館で見つかったんです。まだ未使用の新品な状態で。」
マーレが言うには、この学院の図書館は中が魔法で複雑な迷宮のようになっており、未だに探索されていない場所や本がたくさんあるらしい。その図書館の奥地で、その本は見つかったというのだが……
「その本をどうするか王はずっと迷っていたのですが、ぜひあなた方に渡したいと考えているのです。」
「いや、そんな貴重な本受け取れないって。だって世界で3冊しかない本なんだろ?流れで言ったらマーレがもらうべきだろ。」
確かにその本があれば、元の世界に帰る方法が分かるかもしれない。けど、王様や王妃様が持つような代物だ。姫様であるマーレがもらうのが普通だろ。
里穂も同じ考えのようで、首を大きく縦に振る。
「王はそれも考えていたようなのですが、私は辞退させてもらいました。
私のような未熟者がそんな本を持ってしまったら、逆に運命に押しつぶされてしまいそうで。
それに……命を救ってくれた恩人達に、無事元の世界に戻ってほしいのです。」
王様やマーレは本当に俺達を元の世界に帰そうとしてくれているんだと改めて実感する。こんなにしてもらっていいのだろうか。
「ただ……もうこの本が発見されたことは国中の人達が知っているのです。それくらいの大ニュースだったので。
だから、すぐにあげるというわけにもいかず……考えに考えた結果、魔法大会の優勝賞品として渡すということを思い付いたのです。
前途ある若者たちに渡すということであれば、きっと国民も納得します。」
「それで大会で優勝して欲しいということね。帰る手がかりを手に入れられ、貴族達も学校から追いやれるから一石二鳥ってことね。」
なるほど、良い手だと思う。あの時の発言の中に、これだけの思惑があったのか。
ただ……
「俺も賛同した手前、こんなこと言うのもなんなんだけど……本当に俺達は優勝できるのか?」
「だから私が直々に教えに来たのです。」
突如教室に響き渡った凛とした声。
扉の前に立っていたのは青いローブを来た背の高い女性だった。年齢は……富士先生と同じくらいに見える。だとしたら、25歳くらいか?
「あんた誰だ?せん……むぐっ!」
心に浮かんだ言葉をそのまま出した俺のミスだった。
女性が俺をひと睨みすると、俺の口はチャックを閉められたように開かなくなる。
「エリーン学院長!お久しぶりです。マーレです。」
「えぇ、知っていますとも。3ヶ月前に卒業したはずでしたが。随分と早いお帰りですねぇ。」
厳しく一蹴されしゅんとマーレの肩が落ちる。
学園長はツカツカと俺の目の前まで歩いてくると、まじまじと顔を見てくる。
「ショーンから話は聞いていましたが……海斗、あなたは本当に礼儀がなっていませんねぇ。そこからしつけなければいけないかもしれませんねぇ。」
チャックを開くように指を動かすと、俺の口が元に戻った。
マーレがちょっと落ち込んだ様子で紹介を始めた。
「こちらはハイラスマーレ魔導高等学院、学院長のエリーン先生です。エリーン先生は、学院長であると同時に、私やショーンと同じ4賢者の1人でもあります。」
ハイラスマーレ国の魔導師の中の最高峰の1人。でも、マーレやショーンと違ってなんだか威厳に満ち溢れており。王様に近い印象を受ける。
エリーン先生が腕を振ると、今度は教室の端にいた太陽が引き寄せられ、若葉が驚いた顔をして追いかけてくる。
2人ともこの状況に全く気付いていなかったようで、エリーン先生を前にわかりやすく固まっている。
「さて、本来学院は王の頼みであろうがなんだろうが一切耳を貸さないというのがきまりなのですが……まぁあなた方の事情も知っていますし、何よりSTORY TELLERが他の生徒達に渡ることだけは阻止したいので……今回は手を貸します。
私が手を貸すからには、2ヶ月後の魔法大会で優勝してもらいますから、そのつもりで。」
話の内容が分からずポカーンとしている太陽と若葉。あとでちゃんと教えてやるからな。




