019 大切な学舎
「本当にごめんなさい!!」
マーレが深々と頭を下げるのを俺は必死に止める。元はと言えば俺が貴族達に突っかかっていったのが原因なんだし。
ただ、里穂は俺にはもちろん、マーレにもお怒りなようでこちらを睨みつけて仁王立ち。
ちなみに太陽はと言うと、向こうの方で若葉に説教を食らっている。
うちの女性陣は、怒ると恐いんだよなぁ……
あの後すぐに先生が教室に入ってきたので、それ以上のことは無かったが、その後の休み時間もお昼の時間もその話で持ちきりだった。
当然のことながら、ヒエラルキー上位の貴族達に楯突いた俺達に関わろうとするやつなどいるわけもなく……コウタとレイト以外に話しかけてくる人はいなかった。
ちなみに授業はと言うと、意外や意外、なんと小学校高学年~中学校1年生レベルの問題で、俺ですら何とかなったのだ。
こちらの世界ではこのレベルが最高峰らしい。頭の悪い俺でもわかる。元の世界より学力については格段に落ちるようだ。
俺は勉強が苦手なので復習にもなり良かったのだが、太陽や里穂のように頭の良い人達にはイマイチ物足りなかったようだ。
その後お昼を挟んで現在は教室で午後の授業を待っているところ。本来であればクラスの人達と一緒に魔法の実技を行うはずだったのだが、魔法初心者の俺達のために、わざわざ少人数で授業をしてくれるらしい。
「それで、マーレは何であんなこと言ったの?」
話は現在に戻る。
いや、俺も勢いで受けるって言ったけど、確かにマーレが何でそんな勝負を提案したのかについては疑問だったんだよな。
今までのマーレって冷静沈着なお姫様ってイメージだったけど、それとも大きく離れてるし。
「それは……許せなかったんです。」
怒ってるような、悔しそうな、いろんな気持ちが混ざりあった表情。
「私もこの学校の卒業生です。この学校でたくさんのことを学びました。たくさんの友人とも出会いました。私はこの学校が大好きで、ここでの経験が今の私を作ってるんです。
だから……そんな大切な場所をあんな状態に変えてしまっている人達がどうしても許せなかったんです。」
確かにあの教室の雰囲気は酷いものだった。
もちろんコウタとレイトのように貴族達を気にしない人達もいたが、ほとんどの人達は貴族達の顔色を伺いながら生活をしていた。
あんな状態に自分の大好きな母校がなっていたら……悲しいよな。
「それに……ほら、退学した子がいるって言ってたじゃないですか。
多分その子は苦しんで苦しんで、どうしようもなくて辞めていったはずなんです。
そんな辛い思いをしている子がいたのに、王女としても助けるどころか気付くことすらできなかったんです。
貴族達の暴走を許している状況といい、一連の責任は私達王族にも非があります。」
「でも、だからといって戦う必要はあるの?マーレの……王女の力を使えば、学校から追い出すことも可能でしょ?それだけのことをあいつらはしてるんだから。」
マーレは首を横に振る。その姿を見て、里穂はハッと気付いたようだ。
「そうなんです。この学校は、国でも数少ない私達王族が手を出せない場所なんです。
だからあんなことを言ってしまって……
でも……本当にごめんなさい!!
もし皆さんが戦いたくないというのであれば、私の方から頼んであの約束は無しにしてもらいます。だから……」
ぽんぽん
俺はいつの間にかマーレの頭を撫でていた。
姫様だけど、年上だけど、それでも譲れないことってあると思う。いつもは冷静沈着な姫様だって、中身はまだ16歳の普通の人間だ。
いつも民のために頑張るマーレのわがまま。
応えなきゃ男じゃねー!
「なぁ里穂……」
「分かってる!
でもね、マーレの気持ちをちゃんと聞いておきたかったの。それって大事なことだから。」
頭を撫でられたことなんてないのだろう。おどおどしているマーレの手を、里穂はギュッと握った。
「マーレ、どれだけできるか分からないけど、それでも私達はあなたの力になる。だって……私達だってあなたに助けられたんだから。
だからこそ、一生懸命に頑張るためにも、マーレの気持ちを聞いておきたかったの。
ごめんね、強い聞き方して。」
「そんな、全然!ありがとうございます。本当に嬉しいです。
でも、太陽さんはいいとして、若葉さんは大丈夫ですか?」
マーレの言葉に俺も里穂も笑う。
若葉、まだまだ外では猫被ってるからなー。
「大丈夫よ。あぁ見えて、1番いじめとかそういう曲がったことが嫌いなのはわかちゃんだから。」
あいつが小5の時、小6の先輩達のいじめを見てガンガン注意してたくらいだからな。いつもはそんな感じには見えないけど。




