149 女神の戦い③
よし、行くぞ!!
と力を入れた瞬間、図ったようにリースも攻勢に転じる。私は身の丈に合わない強化をしているため、一度動き出すともう止まれない。
私の背後に回り込んだリースが左足を一閃。魔力でブーストされた蹴りは岩をも砕く一撃。オートシールドが防いでくれなければ後頭部にもろに直撃していただろう。
下手すれば死んでいたかもしれない。
ガラスが砕け散るような音と共にシールドが破壊される。残り3枚。
私は前に踏み出した勢いそのままに、強化した拳を地面に叩きつけた。
強化値自体は私の方が上。当たれば先程の蹴り以上の威力を発揮するはずの拳は、地面を吹き飛ばし巨大なクレーターを形成する。
乾いた砂や石、塵が舞い上がり視界を寸断する。けれど、魔力を探知できる私達には関係ない。
砂埃を切り裂き何十発という打撃が正確に身体を狙ってくる。それらをオートシールドと強化した身体能力を駆使してなんとか防御する。
特に腕と脚を強化していたので、鈍器ががぶつかるような鈍い音が響き渡る。
痛い……けど、ここを耐えればチャンスがくるはず。
打撃を受けた上腕部や下腿は内出血し、赤黒く腫れ上がる。常時回復魔法も間に合わない程のラッシュは、もはや痛覚を麻痺させている。
もう脚と腕が上がらない……
それでも、魔法の力を借りて必死にガードする。
まだ、まだ……あと少し。
その時……
バキンッ!!
最後に残ったシールドが砕ける音だった。これで私を守る盾は無くなった。
まずい、防御が間に合わない。
痛みに備えて身体に力を入れる。
「逃げて……」
「えっ!?」
言葉と共に一瞬攻撃が緩む。その隙にショートジャンプで距離をとる。
危なかった。オートシールドがない状態で、今までと同じ速度で拳を打たれてたら間違いなくアウトだった。
冷や汗が頬を伝う。乾燥した唇を舌で濡らし、次の攻撃に備える。
それにしても、さっきの言葉は……
あと数分もすれば夜が明ける。明るさを増してきたことで、両手の指を絡め、祈るように見守る里穂姉の姿が目に入った。
マーレとエリーン先生、フィミールさんは、王様とショーンさんを介抱している。表情からするに、深刻そうだ。
魔法が使えないと、ショーンさんと王様の傷を癒すことができない。
みんな、もう少し待っててください。
私も頑張りますから、あともう少し……
再び接近してくるリースに対し、ショートジャンプを繰り返し距離をとる。
その間にケガをした両腕、両脚の感覚が戻ってくる。
すると、業を煮やしたリースが魔力探知で私の移動先を割り出し、先回りして攻撃を繰り出してきた。
これではもうショートジャンプは使えない。転移先に待ち構えられれば、防御のしようがない。カウンターを食らうのがオチだ。
私は覚悟を決め、地に足をつける。
三度始まったラッシュ。
もう慣れた……なんてことは一切なく、またしても痛めつけられる。
でも、なんだろう……さっきまでとは何がが違うような……
先程までと比べて、明らかにダメージが少ない。
身体を壊すような決定打となる打撃がこない。腕や脚はすぐボロボロになるけど、お腹や顔を狙った攻撃がこないのだ。
「もう…嫌だよ……友達を傷つけたくない……」
またこの声。今度ははっきりと聞こえた。
これはリースの声だ。掠れてすごく聴き取りづらいけど、私が彼女の声を聞き間違えるはずがない。
そして、ついに長い長い夜が明け、血に染められた不毛の大地を太陽の光が照らし出す。
そこで目にしたものは……白目を剥きながら苦しそうに涙を流すリースの姿だった。
私は思わず息を呑む。
腕と脚は私以上にボロボロで、血が滴り落ちている。所々白く見えている物は骨……
けれど彼女は痛みに涙を流しているわけではない。
大切な友達を傷つけていることに涙を流しているのだ。
その時私は悟った。
リースはその気になれば、私のことなんて一瞬で倒すことができたのだと。それがきっとウォーデン王からの指示。
人形にとって、マスターの指示は絶対だ。
けれど、彼女はそれにずっと抗い続けていた。友達を傷つけたくない。壊したくない。その一心で私が守りを固めるのを待ち、自分の拳や蹴りを制御していた。
だから私はまだこの場に立っているのだ。
あの言葉は、あの涙は、あの辛そうな表情は……絶対である指示に必死に抵抗する感情からきたもの。
それだけでもリースの尋常ならざる苦しみ、葛藤が伝わってくる。
「わか……お願い、逃げて………
このままじゃ…本当にあなたのことを………壊してしまう……」
構えをとるリースの口から漏れる本心。
その時、私の心は限界に達した。
これ以上リースに辛い思いをさせたくない。
私は右手を頭上に上げる。
「リース……ありがとう。辛かったよね….」
収束する魔力。
と同時にリースの足元に複数の影が生じる。今まで必死に隠し、準備していた魔法。
「だめ……わかじゃ、私には……勝てないよ…」
ズズズ、ズズズ、と意志に反して少しずつ前に進んでしまう友人に優しく笑顔を向ける。
「大丈夫。もう辛い思いはさせないから。リースは、絶対に私が止めてみせるから!!」
もう大切な人が傷つく姿を見るのはたくさんだ。
これで終わらせる。
そして、リースさんとの約束を果たすんだ!!




