148 女神の戦い②
未だ攻撃してこないリース。
もしかして私と戦わないようにウォーデン王に命令されてるの?
それならそれで……ううん、それじゃダメだ。
ウォーデン王の魔力だって、私が一度全て吸収してる。ということは、今戦闘で使っている魔力は間違いなくリースから譲渡されたものだ。
そして、リースはきっと遠隔でもウォーデン王に魔力を譲渡できる。対して、太陽には私が直接触れないと魔力を譲渡できない。
リースを倒さない限り……倒せなくても、少しでも魔力を削らないと、太陽の戦いも苦しくなるんだ。
怖いけど、嫌だけど、攻めなきゃダメだ。
私は、常時回復魔法と身体強化の魔法を付与すると、リースに向かって走り出す。
さすがに私が向かってくるのを見て、何もしないということはなかった。魔法剣を片手に、応戦するための構えをとる。
ガキン!!
挨拶代わりの不意打ち。近距離転移魔法、ショートジャンプで後ろに回り込んでの斬撃は、容易にいなされる。いなす流れで右足の上段蹴りが飛んでくるけど、オートシールドでブロックし、開いた左半身に右の拳を叩き込んだ。
バキッ!「いっつ!!」
私の右の拳がリースの体に到達することはなかった。代わりにカウンターの左ストレートを見舞われ、顔面に大ダメージを負う。
私はショートジャンプで距離を取る。右の頬が焼けるように痛い。唇から生温かい液体が流れ落ちるのを感じる。
これ、多分折れてる……
当然、今までの生活の中で、頬骨が折れるほどのパンチをもらうことなんてなかった。
魔導対抗戦の時に足を骨折したことはあったけど、あれは石がぶつかってだし……
殴られるって、こんなに痛いんだ。
ケガは常時回復魔法によってすぐさま回復したが、痛みは確実に私の心を蝕んでいた。
今度はリースの方から攻めてくる。
空手のような正拳突きから、下段、中段、上段と流れるような蹴り。
4枚のオートシールドと分担しながら嵐のような打撃を防ぐ。が、すべてを防ぎ切ることはできず、生傷が増えていく。
一発一発が鈍器で殴られたかのように重く、刃物で切り裂かれたように鋭い。
ドゴンッ!!
「ひぅっっ……」
そして、ついにクリンヒットを鳩尾に受けてしまった。拳がめり込み、口から大量の涎が地面にこぼれ落ちる。
体表に薄く張っている障壁によって、胃の中物を吐き出すことは回避できたけど、内臓に少なからずダメージを受ける。
そのまま膝をついた私に膝蹴りを繰り出すリース。直撃すれば意識を刈り取られたであろうその攻撃は、オートシールドによって間一髪で防ぐことができた。が、勢いを全て殺すことはできず、後方に5メートルほど吹き飛ぶ。
痛い、痛い、痛い……
拳を受けたお腹に手を当てる。自分の身体がぐちゃぐちゃにされる感覚。外傷はすぐさま回復するけど……
怖い……もう、痛いの嫌だよぉ……
私はある魔法を行使しようとする。
けれど、そこでリースに言われた言葉を思い出した。
「わか、痛覚無効の魔法は、使っちゃダメだよ。」
私の使おうしていたのは、痛覚を無くすことで戦いを有利に進める魔法。痛みがなくなればこうして心が折れることもなくなるし、痛みで身体が動かなくなることもなくなる。
「確かにそうなんだけどね。でも、痛みっていうのは、自分を守るために感じるものなの。痛みを感じなくなれば確かに怖くなくなるけど、その分無茶な戦いもできるようになっちゃう。それはつまり自分を大切にしなくなるってことだから。」
そうだった。私は弱い心に負けて、マーレ・オブ・マギを暴走させてしまったばかりじゃないか。
痛いのは辛い。でも、そこから逃げちゃダメだ。そうならないように考えないと。
震える足に鞭を打ち、再びファイティングポーズをとる。
よく見ると、私を殴りつけたリースの拳からも、血が滴り落ちている。
そうだよね、あんなに強く殴りつけたら、殴った方も痛いよね。
恐らく魔力の節約のため、回復魔法は使っていないのだろう。
そんな痛々しい姿の友達を見て、早く助けてあげないとという気持ちが再び燃え上がる。
とは言え、クロスレンジが通用しないことは身をもって知った。やはり経験がものをいう世界。いくら強力に身体を強化したとしても、その差を埋めることは難しい。
じゃあどうするか……そっか!!
私は魔力量の差がリースに勝てる唯一の可能性だと考えていた。けど、もう一つあるじゃないか。私がリースに優っているところが。
覚悟を決めろ、若葉。
私はもう一度身体強化の魔法をかけ直す。今度は先程より強く、魔力を倍練り込む。
ここまで強化してしまうと、今の私では自分の狙った位置を的確に攻撃したり、移動したりすることはできない。
次に、オートシールド4枚も強化する。




