141 私の力
それじゃあやってみようかなと一つ深呼吸。
スー、ハー…スー、ハー……そう言えば……
ふと思った疑念を彼女にぶつける。
言わなくてもいいことだったかもしれないけど、一度気になるとモヤモヤするし。
ここまでしてくれた(色々と茶化されもしたけど……)ので聞いておきたかった。
「あの……リースさんはどうして私を助けてくれたの?私がこの世界の魔力を全部吸収すれば、ウォーデン王……あなたのお父さんの望みは達成されるのよね。なのに……」
お父さんだけじゃない。あなただって追い求めていたこと。魔力のない、みんなが長生きできる世界。
それなのに、なんで……
「それはね……今のパパのやり方は、間違ってると思うから。
人に迷惑をかけたり、考えを押し付けたりするのは間違ってる。それをしたら、私達を襲ったあの人達と同じになっちゃうもん……
パパにはそうなってほしくないんだ。」
にこりと笑うリースさん。
きっと、見ていて辛かったんだ。
みんなのために、みんなが納得できるように一緒に頑張っていたことが、どんなことをしてでも達成しなければいけないという、ある意味『呪い』のようなものに変わってしまったことが。
「でも、パパのためだけじゃないんだよ。」と付け加える。
「私が……今生きてるリースがね、わかちゃんのこと、助けたいって。」
「えっ!?」
どういうこと?
リースが……私のことを?
混乱する私の頭を優しく撫でてくれるリースさん。その温かさは、私のよく知るリースとおんなじで……
「あの子も私だから、実はあの子が見てるものをずっと一緒に見てきたの。そして、感じてきた。
もちろん、私は見てるだけで、何もできないんだけどね。」
「だから私のことも最初から知ってたんだ。」
私の言葉に頷く。
「最初にあの子があなたに近付いたのは、パパの命令だったの。わかちゃんと親しくなれっていうね。」
「そ、そうだったの!?」
ということは、近づかない方がいいって言ってた海斗兄とマーレが正しかったんだ。
なのに私は2人に怒って、部屋を飛び出しちゃって……
すごく申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
と、同時に心に暗い影が落ちる。リースが私と仲良くしてくれていたのは命令だったからなんだって。
別にリースが私のことを好きになってくれていたわけじゃないんだって……
「そんなこと聞いたら、落ち込むよね。
でもね、実はあの子、あなたと一緒に過ごす内にあなたのことが好きになっちゃったのよ。」
ポカンと開いた口を、「こらこら、女の子でしょ。」と指でつままれる。そして、本当だよと目尻を下げる。
「わかちゃんって、本当に裏表がない子だね。だからこそ、裏しかなかったあの子はあなたに惹かれ、好きになり、あなたみたいになりたいと思ったんだろうね。
魔法だって、本当は吸収魔法までしか教えちゃダメだってパパから言われてたんだよ。それなのに、譲渡の魔法や、他の魔法の使い方まで教えちゃうんだから。」
ポロポロと頬を伝う雫。
あれ?なんで涙が……
ううん、理由は分かってる。
嬉しいんだ。
リースの本心が知れて。私を好きになってくれて。
すると、リースさんの頬にも一筋の涙が。
「あれ、リースさんも……泣いてるの?」
「ふふ、私も嬉しいんだ。あの子を見てると、娘ができたみたいに思えてね。娘がこんなに素敵な子と友達になってくれて、その子が娘をこんなに思ってくれて。」
ギュッ。
ひかりと同じ姿をしたリースさん。けれど、抱きしめられるとなんだか同い年とは思えなかった。
包容力っていうのかな。お母さんに抱きしめられた時と同じ、心がぽかぽかするの。
10秒くらいそのままだったのかな。
パッと離された時には、もう涙はなかった。
「今、あの子はパパに完全に心を支配されでしまってる。でも、私には分かる。
あの子は、今も抗ってる。あなたを……大切な友達を助けたいって心の底から思ってる。
だから、私も助けてあげたいの。わかちゃんを助けることで、あの子も救われるはずだから。」
「……ぁりがとう…ございます。」
私って、本当に恵まれているなぁと心から感じた瞬間だった。
私は、太陽や里穂姉、海斗兄みたいにカリスマ性があるわけでもなく、頭の良さ、運動神経などの能力面でも劣っている。
それはこの世界に来ても同じで、いつも足を引っ張ってばかりだった。
それがすごく嫌だった。
いつも自分だけみんなの中で浮いているような、そんな感覚……
だから太陽にもずっと告白できなかったのかもしれない。
例え付き合えたとしても、私と太陽じゃ釣り合わないと思って……
私も強くなりたかった。みんなに肩を並べられるくらい強く。
でも、そんなこと気にする必要なかったんだ。
自分は確かに平凡だけど、私の周りにはすごい人達がたくさんいる。
人との出会いに恵まれていることだけは誰にも負けない自信がある。
そして、その人達を大切にするという自信も。
それで良いじゃないか。十分すぎるじゃないか。
そう考えると、途端に霧が晴れたような……とても清々しい気持ちになった。




