140 リースさんって……
「それでわかちゃん、あなたはまだ死にたくないんだよね……生きたいんだよね?」
打って変わって真剣な表情で問われる。
そんなの決まってる。
一度は傷ついて、心を壊されかけて、どうでも良くなってしまいそうになったけど……
「私にも大切な人がいるの。まだその人に私の本当の気持ち……『好き』って気持ち、伝えられてないの。だから、死にたくない。生きたい!!」
ジッと彼女を見つめる。
良く見ると瞳の色がひかりとは違う、濃紺の瞳。
と、途端に吹き出すリース。何事かとあわあわしていると、ごめんごめんと手を合わせる。
「いや、わかちゃんがすっごく恥ずかしいセリフを真剣な顔で言うから、思わず笑っちゃって。」
顔が真っ赤になるのを感じる。同じくして若干の怒りも。
『こっちのリースも好きとか思ってたけど、やっぱり訂正してやるー!』なんて思ってたら、再び手を合わせし、ペロッと舌を出される。
「いいよね、恋愛って!!私も死ぬ前に一回でいいから誰かとお付き合いしたかったよぉ。キスとかめっちゃ憧れるし、その先のことも……ね!」
こんな死にかけてる状況で、下ネタかい!
と心の中でツッコミを入れる。
本当によくわからない人だ。
「私、そういうの大好き。だからわかちゃんに協力してあげる!!私が協力すれば、こんな場所、簡単に抜け出せるんだから!」
喜怒哀楽の乱高下が激しすぎる人だなぁ。
けど、助けてくれるのはすごく嬉しいし助かる。私1人じゃ、どうしようもなかったし。
後で思えば、私の不安を察して明るく振る舞ってくれていたのかもしれない。
死ぬか生きるかの瀬戸際で、こんなに冷静でいられたのは彼女のおかげだ。
彼女がいなかったら、私は1人で絶望して、そのまま死んでいたかもしれない。
けど、そのことに気づくほどの余裕は、この時の私にはなくて。
だから、後々すごく彼女に感謝したのであった。
その後、「ちなみに、わかちゃんの好きな人ってどんな人なの?」とか、「なんて告白するの?」とか、ひとしきり根掘り葉掘り聞かれた後、改めて本題に入る。
「それで戻り方だけど、ようはコントロール権を取り戻せばいいわけよ。」
コントロール権?なんじゃそりゃ?
ハテナマークの私に、やれやれとため息をつきながら教えてくれる。
「わかちゃんは察しが悪いなぁ。
今、マーレ・オブ・マギをコントロールしてるのは誰だと思う?」
「うーん……私じゃないことは確かだよね。もしかして、あの心の声?」
心の声。私、そして本物のリースさんに力を解放するように促したあの声の主が怪しいと思ったのだ。
対して、私の回答に「おぉ。」と驚嘆の声を上げるリースさん。えっ、もしかして合ってた??
「察しが悪いと思ったら、妙に鋭かったり……わかちゃんって変な子。」
そう言ってクスクス笑われる。
これは誉められているのだろうが……うん、誉められたことにしておこう。
「あの心の声は、紛れもないマーレ・オブ・マギの声。あの声、やたら吸収魔法を暴走させたがるのよね。なんでだろうね。」
死んだら色々わかると言っていたけど、分からないこともあるらしい。
「まあそれは置いておいて。つまり、マーレ・オブ・マギから、魔法のコントロール権を奪い返せばいいのよ。」
彼女が言いたいことは大体わかったけど……肝心なところがまだわからない。
「あのぉ、コントロール権を奪い返すっていうのはわかったんだけど……どうやって奪い返せばいいの?『返してください』って頼むとか?」
なんて冗談で言ったつもりだったんだけど、リースさんが大真面目に頷く。
「そうだよ。さっすがわかちゃん!!」
えぇ、マジですかい?
そんな友達に物を返してもらう時みたいな感じでいいの??
きっと私が相当訝しげに見つめていたのだろう。嫌、実際にそう思ってたし。
そんな私に対し、嘘じゃないよとブンブン手を振られる。
「わかちゃんがちゃんとお願いすれば、きっと応えてくれるはずだよ。だって、さっきもそうだったでしょ?」
確かにそうだったけど……
それでも納得いかない私に対して、思い出したかのように付け加える。
「あっ、あと、1番大切なのは太陽君を思う気持ちだからね。」
カァッと顔が熱くなるのを感じた。
やっぱり馬鹿にしてる。
もう……この人、本当に信じていいのだろうか。
私は頬の火照りを手で仰ぎ、一生懸命抑えながら文句を言おうと顔を上げる。
が、リースさんの顔に全然馬鹿にしている様子はなく、真剣そのもの。
「茶化されたと思っちゃった?」
「……少し……」
ごめんごめん、と申し訳なさそうにする。
「さっきまであんな感じだったからね、そう思うのも当然だよね。でもね、本当に大切なことなんだ。だから覚えておいて、ねっ!」
「……そこまで言うなら、覚えておくよ。」
その気持ちが何に生かされるのかは分からないけど……太陽を思う気持ちは誰にも負けないから。だから、きっと大丈夫。




