136 女神の物語①
私はウォーデン国という、当時はまだ小さく、人口も少なく何もない国に生まれた。
あったのは自分達が住む家と、無尽蔵に魔力を放出する4つの四角い建物、そして魔力で汚染された灰色の海。
娯楽も何もなく、裕福でもない暮らし。
でも、全然良かった。だって、私には優しいパパとママがいたから。
パパはこの国の王様だった。みんなに慕われるリーダー。魔法がとっても得意で、率先して国を守り、みんなが食べる物に困らないように、豊かな生活ができるように努力していた。
ママはそんなパパをいつも陰から支えるしっかり者。料理が得意で、魔力で汚染された美味しくない食材も、魔法のように美味しく調理することができた。
そんなパパとママは、幼いながらも私にとっての誇りだった。
ちなみに私はというと、まぁ女の子としてはちょっとやんちゃだった気もするけど、良い子だったと思う。自分で言うのもなんだけどね。
なんでもそつなくこなせたけど、特に自信があったのは勉強。
これについては同級生の友達には負ける気がしなかった。
逆に、私にも苦手……というか、全くできないことが一つ。
そのことに最初に気づいたのは、私じゃなくてパパとママ。
それは1歳の時。私がベビーベッドから落ちかけたので、慌ててパパが風の魔法で受け止めようとしたらしいんだけど……
結果は不発。
私はそのまま床に落下し(とは言ってもそこまで高くはない)1時間近く泣き叫ぶことになったことは言うまでもない。
ただ、魔法の達人のパパがそんな初歩の魔法で失敗するなんて有り得ない。だから、不発の原因は明らかに私だった。
その後、パパとママだけでなく、色んな魔導師の人達が私に魔法をかけようとしたんだけど、ことごとく失敗。
魔法の一切を消してしまうという特異体質に気付いた瞬間だった。
そして、魔法が効かないということは、つまり自らも魔法を使うことができないということ。
この世界では非常に困った能力であった。
特に困ったのは学校での魔法の授業。
魔法理論は全て頭の中にある。呪文も、魔法を発動するための行程も全て完璧に。
でも、肝心の魔法が使えない。
下手な子はたくさんいる。けれど私の場合、下手以前に何も発動しないのだ。こればかりはどうしようもない。
それが原因で私の成績はいつも芳しくなかった。他の教科はめちゃくちゃ良かったのに……
パパが最強の魔導師ということもあり、それで比較され辛い思いをしたこともたくさんあった。「お父さんはその気になれば天候だって変えられるのに、なんで娘は蝋燭1本に火すら灯せないんだ。」ってね。
いじめられたこともあったっけ。
でも、パパとママは落ち込む私をいつも諭してくれたんだ。
「魔法が使えないということは、つまり魔力に侵されてないということ。
この力は天から与えられた最高のギフトなんだよ。」って。
1番大切な存在にそう言ってもらえたから、私は誤った道に走らず、前を向いて進み続けることができたんだと思う。
そして、パパとママが言ってることは、間違いじゃなかったんだ。
私が12歳になる頃、友達はみんな髪が抜け始め、体調を崩す子が多くなってきていた。
この国は無尽蔵に魔力を放出する四角い4つの建物のせいで、他の場所より魔力濃度が高かった。その影響で、この国で生まれた子ども達は15〜18歳くらいまでしか生きられない。
魔力病。今でこそ魔力酔いなんて表現をされることが多くなったけど、昔は酔いなんて軽いものじゃなく、完全に病だった。
でも、私にはその病は発現しなかった。当然だ。だって、私の身体に触れた瞬間、魔力が消されてしまうのだから。
友達が苦しんでいる姿を見るのは辛いけど、私は天から与えられたギフトによって、元気に生きることができたのであった。
学校卒業から1年が経ち、私はパパとママの下で、研究に勤しんでいた。
研究テーマは他でもない『魔力』について。
国としても、生まれた子ども達が15〜18歳で亡くなってしまっては、国力増強どころではない。
とにかく早く魔力濃度を下げなければ、この国は終わってしまう。だからこそ、寝る間も惜しんで研究に励んでいたのである。
そこである事件が起きる。
なんと、私が誘拐されたのだ。
あれは本当に怖かった。だって私には身を守る術がないから。
パパが護身用で習わせてくれた武術も、魔法が組み合わさるからこそ無敵の体術になるのであって……結局何もできずに連れ拐われてしまった。
目的は私の特別な能力。魔力を消す能力を研究するために、パパには内緒で王国の地下にに秘密の研究所が作られていたのだ。
暗い暗い研究室で、私は服を剥ぎ取られ四肢を鎖で繋がれ、体をくまなく調べられようとしていた。
寒くて、怖くて、辛くて……何より両親が宝物のように大切に育ててくれた身体を好き勝手に弄られるのが嫌で嫌でしょうがなくて……
その時、私の中で声が響いた。
魔法の女神、マーレ・オブ・マギという魔法の存在と、その扱い方について。
そして、私は魔力を解放し、初めて魔法を行使した。理論も呪文も全部頭の中に入っていたから、魔力さえ扱えればなんの問題もなかった。
研究所を吹き飛ばし、自力で地上まで這い出ると、そこで意識を失った。
次に目覚めた時はいつもの家のベッドで。パパもママもすっごく心配してくれてたみたいで、起きた私を思い切りギュッと抱きしめてくれて……夜まで大泣きしてそのまま眠りについちゃったんだ。




