133 逃れられない運命
2人の王の話を聞き、ただただ信じたくない人、なぜ今まで隠してたんだと憤る人、どんなことがあっても最後までついて行こうと忠誠心を示す人。
様々な気持ちが入り乱れる戦場。しかし、誰も言葉を発しない。
1番複雑な気持ちなのは、身内にも関わらず、そのことを今まで知らされずに生きてきたマーレだということを皆知っているから。
「マーレ……」
私がマーレの腰に手を置く。
「里穂、私は大丈夫です。確かに驚きましたし戸惑いはありますけど……でも、さっき言ったことは嘘ではありません。
私は両親に愛されていた。愛されていたからこそ、私はこの時代に産まれることができた。だから、大丈夫です。」
そう言ってニコッと笑うマーレ。
マーレは強いなぁ。
この揺るぎない強さは、幼い頃から姫として教育されてきたからなのかな……
そう思いすぐに首を振る。
ううん、多分違う。これはきっとマーレ自身の意志と覚悟の強さ。お父さんとお母さんから受け継いだ強さなんだ。
「お父様……本当のことを教えていただきありがとうございました。そして、ウォーデン王……いえ、お兄様、このような機会をくださりありがとうございます。おかげで私は父と母の愛、そして、兄のことを知ることができました。」
この言葉は、ウォーデン王ハイルも流石に予想外だったらしい。困った顔をして目を背ける。
心の底からの純粋無垢な言葉ほど、相手の心に突き刺さるもの。
きっとマーレだって宿敵が血を分けた兄だったことには困惑してる。お母さんの死の真相を知って、悲しい気持ちもあるはず。
でも、嬉しい気持ちも本当で。だからハイルもそれを感じ取って困っているのだろう。
どう接すればいいか分からない、そんな顔をしている。
「そんな2人に……お父様とお兄様にお願いがあります。」
2人の王を交互に見つめるマーレ。戦場の魔導師達、ドール達は以前押し黙ったまま事の成り行きを見守っている。
「一つは、私の友人である若葉を救ってほしいこと。
もう一つは、この戦争を終わらせてほしいという事です。」
それは切なる願いだった。
自分の血縁者が巻き起こした争いによって、異世界から来た大事な友人と、守るべき自国民を失いかけている現状をマーレは姫として許せなかった。
そして、それを止められるのは自分だけだと、彼女は知っていた。
「お互いに考えがあるのは分かります。それがどうしても譲れないということも。でも、親子で争うなんて間違ってます。そこに自国の民の命まで賭けることなど、言語道断です。
それに、若葉を……ううん、太陽も里穂も海斗も、私達の問題に巻き込むべきではないはずです。
若葉を助けてあげてください……。どうかこの通り……お願いします。」
そう言って深々と頭を下げる。
厳しい言葉と懇願が入り混じる。普段温厚なマーレがここまで……
もしかしたら戦争が終わるかもしれない。
そんな希望的観測が戦場を駆け巡る。
みんな戦いたくなどないのだ。
実際に2人の王の思いは、愛する娘、妹の言葉によって多少なりとも揺れていた。
それだけでも凄いことなのだ。30年以上もかけて凝り固まった心を揺らしたのだから。
が、あくまで揺れただけ。
現実はそう甘くない。
「マーレ、残念だけど若葉さんを助けることができない。これはもう私達ではどうすることもできないのだよ。」
目を閉じて、ひたすらに世界の魔力を吸収し続ける若葉。
助けることができないという言葉に、太陽の身体がビクッと震える。
私もこぼれ落ちそうな涙を必死に堪え、ウォーデン王を睨みつける。
私達の気持ちを代弁してくれたのはやっぱりマーレ。
「なぜですか!?お兄様が若葉の心を壊したから、魔法が暴走したのでしょう!?」
「確かにその通りだ。心を壊し、マーレ・オブ・マギの暴走を促したのはこの私で間違いない。
でもね、そうならなくとも若葉さんは命を落とす運命なんだ。
いや、そうならなければいけないんだよ。」
そうならなければいけないって、まさか……
その先を言葉にしたのは、幼なじみだった。
「……つまり、若葉はこの後向こうの世界で命を落とす運命だから、こっちの世界で死んでも構わないということか?」
向こうの世界というワードにざわつく魔導師達。
ただ、ウォーデン王はそのことを既に知っていたようで、眉一つ動かさない。
「太陽、その話は……」
「ここまできて隠す必要もないだろ。」
荒々しい口調でマーレの言葉を制す。
「その通りだよ、浅間太陽君。理解が早くて助かるよ。
まぁ本来ならきみもその時に一緒に死ななければいけないのだが、そこは今は置いておこう。命より大切なその子を亡くしたとなれば、きみもそう長くは生きられまい。」
……許せない……
私は無意識の内に手を振り上げる。魔法が使えなくても、この憤りをなんとかして目の前の卑劣な男にぶつけたかった。
「マジックバースト。」
「くっ……!!」
リースの魔法で逆方向に1メートルほど吹き飛ばされる。
そのまま地面にぶつかり、衝撃で星が飛ぶ。けれど、すぐ立ち上がって再度ウォーデン王に詰め寄ろうとしたところを、エリーン先生に止められてしまった。
「離してください!私はあいつが許せない!!」
太陽がどれだけ辛い思いをしてるか分からないの!?
怒りが私の心を黒く染める。
パンッ!
その時、頬に衝撃が走った。
「里穂、落ち着きなさい。今あなたが向かって行ったところで、良い方向に転びますかねぇ。
あなたなら分かるはずですよ。」
叩かれた箇所が熱を帯び、ジンジンする。
けど、そのおかげで頭にのぼっていた血がゆっくり引いていくのを感じた。脈もいつもの速さに戻っていく。
「ごめんなさい、エリーン先生……」
「いいのですよ、憤る気持ちは十分分かりますからねぇ。ただ今は耐える時です。耐えて耐えて、機会を窺うのです。
私は、若葉のことも諦めてはいませんよ。あの子は私の弟子ですからねぇ。」
そう言って笑顔を見せる先生。その笑顔で、私はいつもの冷静さを取り戻すことができた。
一方で、ウォーデン王はやれやれと首を振る。
「浅間太陽君、木崎里穂さん。きみ達がこんなに辛い思いをしているのは、父さんのせいだということを忘れてはいけないよ。」
「なぜですか。向こうの世界のこととハイラスマーレ王は関係ないです。」
「確かに向こうの世界とは関係ない。でもね、未来を知ってしまったから辛いのではないのかな?」
……それはつまり、未来…運命を知らなければ、2人は気付かぬ内に死を迎え、こんな辛い思いをしなかったと言いたいの?
「STORY TELLERを父さんがきみ達に渡していなければね。違うかな?」
この人……ウォーデン王ハイルは、なんでも知っている。その上で巧みに私達を惑わせる。
確かに、STORY TELLERがなければ……そもそもこの世界に来ていなければ、わかちゃんの心が壊れることも、太陽の心がボロボロになることもなかった。
でも…でも……




