132 父と息子と娘
ハイラスマーレ王は、娘と一直線に向き合う。
「まず、先に謝らせてほしい。マーレ、今まで黙っていてすまんかったのぉ。
ただ、これだけは分かってほしいのじゃ。
隠したくて言わなかったのではない。わしも母親もマーレ、主のことを愛しておった。だからこそ、混乱させたくなかったのじゃ。つまらん心配を抱かせたくなかった。
だが、そのことによって逆に不安にさせてしまったのぉ、すまん……」
深々と頭を下げる王様に、少し冷静さを取り戻すマーレ。
「お父様、取り乱してしまいすみません。それに、こんな状況なのに、自分の気持ちを優先してしまって……」
戦況は絶望的。王様と王国最強の魔導師は囚われ、リースとドール達以外は魔法を使えない。そんな状況の中、自分のことでいっぱいになってしまい取り乱してしまった自分を恥じるマーレ。
でも、そんな娘に優しい笑顔を向ける父親。
「急に自分に兄がいると知り、その兄が敵国の王であれば、誰だって取り乱すものじゃ。心があればのぉ。」
チラリとウォーデン王の方を見る。
最後の一言、きっとドール達のことを言っているんだ。
しかし、ウォーデン王は全く気にする素振りを見せない。
「あなたが言いますか……と言いたいところですが、まあいいです。それより早く妹に真実を伝えてあげてください。」
「言われなくとも。」
そして、ハイラスマーレ王は静かに語り始めた。
「わしと妻と結婚し、初子がハイルであった。ハイルはわしと母親によく似て魔法の才に溢れ、聡明で、親のわしらから見ても贔屓目なしに自慢の息子であった。
ハイルが15歳の頃には、すでにわしと同等の魔導師となっており、平和のために戦場で共に戦った。当時母親は子どもを戦わせることには反対しておったが、時代がそうはさせなかったのじゃ。
そして、わしらは戦いを終わらせ、ハイラスマーレ国を建国した。」
私達がSTORY TELLERに見せてもらった映像……記憶に出てきた戦いのことかもしれない。ミサイルや戦闘機などの近代兵器と魔法の戦い。
真偽は定かじゃないけど、多分そうだと思う。
「生き残った者は少なかったが、それでも皆で協力してより良い国を作ることができたと思っておる。が、幸せなことばかりは続かなかった
わしの妻が2人目を身籠ったのじゃ。」
「それが私……ですか?」
「そうじゃ。マーレ……お主を母親は身籠った。しかし、高齢だったことに加え、魔力で汚染された世界は妻の身体を蝕んでいった。
魔力が身体に影響を与えるのは知っているじゃろ?
今は魔法技術が発展して寿命も延び、子ども達も安心して産まれる世界になったが、あの頃は魔力の影響を受け、母親や胎児に悪影響を与えたり、そもそも妊娠自体ができなかったりしていたのじゃ。
そして、結局妻は耐えられず出産前に帰らぬ人となってしまった。」
「じゃあ私のせいで……」
俯くマーレに対し、そんなことはないとかぶりを振る王様。
「わしはマーレ、お前が妻のお腹に宿ってくれた時、飛び上がって喜んだものじゃ。もちろんハイル、お主の時もな。自分の子ができたことを、喜ばない親などおらんよ。」
幸せな時を思い出し、一瞬表情が穏やかになる。けれど、その表情はすぐさま陰鬱に満ちたものとなる。
「妻が死んだ時、妊娠6ヶ月。まだ産まれるには早すぎるお主を魔法で子宮ごと摘出した。幸いにも命を繋ぎ止めることには成功したのじゃが、魔力汚染が深刻だったこの世界に果たして産まれさせて良いものか、わしは悩んだ。
結果、わしは魔法をかけ産まれる時期を先送りにすることにしたのじゃ。もっとこの世界が安全になり、安心して長く生きられるようになってから産まれてこられるように。」
なるほど、だからウォーデン王ハイルとマーレ……兄と妹でここまで年齢差があるんだ。
マーレが17歳に対し、ウォーデン王はどう考えても50歳は超えている。年齢差にして少なく見積もっても33歳差。例えお母さんが兄を18歳で産んだとしても、マーレは51歳で産んだことになる。
流石にそれがあり得ないことだということくらいは中学生の私にもわかる。
それにこの説明により、マーレがハイラスマーレ王の孫ではなく、娘だということの疑問も解消された。
でも、やっぱり疑問は残る。だって……
「お父様……私の出生の秘密についてはよく分かりました。そして、両親にも愛されていたことについても……私は本当に幸せ者です。
ただ、だからこそ思うのです。今の話を『悲鳴』という世界規模の魔法を使ってまで、なぜ隠していたのですか?」
そう、そこだ。
そこまでして隠す必要があるような内容には思えなかったのだ。
確かにデリケートな問題ではある。マーレとしては、自分を身籠ったせいで母親が亡くなってしまったことは悲劇だ。
でも、分別のつかない子ども時代に事実を伏せるならまだしも、マーレはもう大人だ。隠す必要はないように感じる。ましてや世界規模の魔法で全世界の人達から秘匿するなんて……
「それはねマーレ、私達の母親の死が、私と父の確執に繋がったからだよ。
それがウォーデン国の建国、ひいてはこの戦争にも繋がるんだ。」
ウォーデン王の言葉に、皆一様に息を呑む。
それはつまり、この戦争はウォーデン国が一方的に戦争を仕掛けてきたというハイラスマーレ王の言葉に誤りがあったということだ。
自分達の信じる王が嘘をついていたということ……
話は続く。
「そもそも戦いが終わり、ハイラスマーレ国を建国した頃から、今後の世界について私と父の考えが違い始めた。
とは言え、父親と息子。母が上手にとりなしてくれたことで表面化しなかったのだけど、その母が亡くなってしまったことで、ついにはどうしようもなくなってしまったんだ。」
「けれど、ハイラスマーレ国とウォーデン国はずっと国交を維持し、仲良くしてきたではありませんか。」
「確かにその通りだよ。表面上は仲良くしていたさ。その方が互いに利があったからね。
でもね、ついに父さんが見つけてしまったんだよ。
世界を変える鍵をね。
だからこそ、私も動かざるを得なくなったというわけだ。」
そこまでだ、と言わんばかりに鋭い視線をハイルに向ける王様。男も分かっていますよと両手を挙げる。
「これ以上は話すことができないが、とにかく全ては繋がっている。
だからこそ『悲鳴』という呪いで、それに関わる全ての出来事について触れられないようにしたんだよ。ですよね、父さん?」
ハイラスマーレ王は何も答えない……ということは全て本当の話なのだろう。




