128 Highlastmare vs. Warden⑥
私はリース……光を傷つけた。
人形だということは分かってる。でも、そこは問題じゃない。
知ってたんだ。親友と同じ顔、同じ身体、同じ声であることを。
なのに私は、ただ戦闘不能に追い込むだけじゃなく、傷つけてしまった。
私の力があれば、傷つけずに戦闘不能まで追い込めたのに……
必死だったんだ。
みんなの役に立ちたい。私もみんなと肩を並べたいって。
でも、今思えば、ここまでする必要はなかった。
ふと周りを見渡すと、そこら中に倒れているドール。フードがとれ、苦悶の表情で目を閉じている者、目を開けたまま絶命している者。中には四肢がとれてしまったり、ローブがはだけ、見るも無惨な状態で地面に転がされたりしている者もいる。
このドール達の末路に、私も十分に関わっている。戦闘を継続できるよう、味方の魔導師さん達に魔力を分け与えたのは私だ。
「でも…仕方なかったの……私たちが負けたら、ハイラスマーレ国が……大切な人達が……」
誰に聞かせるのでもない、ただ自分の行いを正当化するためだけに溢れた言葉。
だけど、そんなことで心が晴れるわけがなく……目の前に広がる光景は凄惨なままで。
先程まで頼もしいと思っていた味方の魔導師さん達が、今では親友を傷つける悪魔に見える。
1人の魔導師さんが、太陽が戦闘不能まで追い込んだドールにとどめを刺す。近距離からの砲撃魔法。魔法はローブを突き抜け、ドールの胸に大きな風穴を開けた。
甲高い悲鳴が戦場に響き渡り、それはすぐに他の戦闘音でかき消される。
あそこまでする必要があるの?
それに、あの人……笑ってる?
もしかしたら自分が殺されずに済んだ安堵の表情だったのかもしれない。でも、私には笑っているように見えて……
その表情に人間の残酷さが見えたような気がして……
「うっ……おぇ…」
何を馬鹿なことを言ってるんだ若葉、自分だって同じように傷つけていたじゃないか。
そんな心の声が聞こえた気がして、思わず吐き気を催す。
その通りだ…私も同じことをしたんだ……
「おい、若葉大丈夫か!?やられたのか!?」
ようやく異変に気づいた太陽が駆け寄る。私が苦しむ様子を見て、何か攻撃が当たったのだと勘違いしたみたい。
「違うの、太陽……私…酷いことを……」
火傷負い目の前に横たわるドールの姿を見て、顔をしかめる太陽。全てを察してくれたみたい。
「こいつらもひかりと同じ顔をしているのか……悪質すぎる…」
太陽にとっても気持ちの良いものではないはず。ライバルであり、もちろん大切な友達でもあるひかりの姿をした人形が、傷つき、倒れているのだから。
けれど、その表情は気高く、心は折れない。
ただ、元凶である敵の大将、ウォーデン王を睨みつけるのみ。
「若葉、一旦下がろう。大丈夫、お前は悪くない。」
『大丈夫、お前は悪くない。』その一言が何よりも救いだった。私が今、1番かけて欲しい言葉。
悪くないわけない。私がドールを傷つけたのは紛れもない事実。だけど、そうやって太陽から……大好きな人から言ってもらえるだけで、救われる。
でも、その言葉は、私には聞こえなかった。
なぜならもっと大きな音にかき消されてしまったから。
「プロジェクトF、第二段階始動。」
戦場に響き渡るリースの声。
それに呼応するように倒れていたドール達が立ち上がり、次々とリースの元へ飛び立っていく。
雷に打たれ黒焦げになったドール、胸に風穴を開けたドール、四肢を欠損したドールもだ。
もちろん、私が傷つけたドールも例外じゃない。あそこまで傷つけてしまったのに、まだ動けるの?
ただ一つ分かったことがある。ドール達は誰も死んではいなかったということ。
そもそも人形に生き死にがあるのかは分からないけど、とにかく動いているということに安堵する。
もちろん傷つけてしまった事実は残るけど、生きてさえいてくれれば治療することもできるかもしれない。
しかし、私にそう思わせることこそ、この作戦……プロジェクトF第二段階の狙いだったのだ。
心というものは、いたずらに傷つけ続けても折ることはできない。徐々に耐性がついてしまうから。
傷つけ、治し、もっと大きく傷つける。
それを繰り返し、心を折っていく。
ウォーデン王の戦いをサポートする部隊を除いて、リースの周りに集結したドール達。
すると、なんと全員が一斉にローブを脱ぎ捨てたのだ。
魔法戦において、あのローブは魔法から身を守る鎧のようなもの。それを脱ぎ去るなんて……意味が分からない。
もしかして降伏するために?
そんな希望的観測は、瞬く間に砕かれることとなる。
ローブを脱ぎ捨てたドール達。リースの顔が横一列に並ぶ。中には怪我をして痛々しい者もいるが、表情は皆同じでただ一点を見つめている。
私のことを。
「若葉!一旦下がるぞ!」
太陽は察していた。この後間違いなく良くないことが起きるということを。
けれど、私は動けない。蛇に睨まれた蛙のように、呆然とドール達を見つめてしまう。
時間にして数秒。
でも、私には数十秒、ううん、数分にも感じる。
あなた達は、私の何を見てるの?
「若葉!っ!?!?」
1人のドールが飛び立つ。そして、また1人、1人……私という標的に向けて。スピードはそれほど速くない。魔導師さん達でも十分対処できる速さ。
『何が目的か、何をしてくるか分かりません。皆、防御を!!』
頭の中にマーレの指示が響く。と同時に、魔導師さん達が私の前に立ちはだかり、障壁魔法と盾の魔法が展開される。魔法、物理攻撃の両方に対応するために。
これだけの防御魔法を抜けるのは至難の業だ。
普通の魔導師であれば。
ドール達は防御魔法など意にかえさずそのまま突っ込んでくる。
そしてぶつかる寸前、吸収魔法を発動させる。防御魔法は次々と吸収され、ドール達に取り込まれる。
でも、ドール達が一点集中で突っ込んでくるおかげで、魔導師さん達も人数をかけられている。最前列の魔導師さん達の防御魔法を吸収されても、2列目、3列目の魔導師さん達の防御魔法が行手を阻む。
徐々に速度が落ちる。吸収できる魔力量を超えている。これなら……
先頭を飛ぶ6人のドール達の動きがついに止まった。そして……
ビシッ!ビシビシビシッ!!キーーン!!!
何かが砕ける音と同時に、金切り音が戦場に響き渡った。閃光が走り、視界が塞がる。
ビシャビシャビシャ。
「えっ!?」
私の顔や身体に何かが付着する。チカチカする視界を何度も瞬きすることで整える。戻ってきた視界に最初に映ったのは……赤??
私の身体に付着したもの、それは赤い液体……血だった。
何が起きてるか理解できず戸惑う私。ふと太陽の方を見ようとして、その幼なじみに抱きしめられる。
「見るな!!」
しかし、私はその直前で見てしまったのだ。
ドール……リースの頭部が地面に転がっているところを。
「あっ…あぁ……そんな……」
「ちっ!遅かったか。
若葉、大丈夫だ。あれは人形であって、お前の親友、ひかりでもリースでもない!!」
必死のフォローも私の心には一切響かない。
あの音はドール達が爆発する音だったんだ。そして私に付いているこの血はドールのもの。
分かってる。太陽の言う通りあれはリースでも、ましてや親友のひかりのものでもない。
けど、それを理解し受け止めるほどの心の余裕は私にはなかった。
もう、私の心は限界だった。
ビキビキ!ギーーン!!!ビシャビシャ!
数十秒に一回、爆発音と液体が飛び散る音が響き渡る。
ひどい頭痛がする。そして吐き気……




