127 三者三様
マジックバーストをモロに食らったドールはフラフラと立ち上がる。けど、過剰な魔力を吸収してしまったせいで、魔法がうまく使えないらしい。収束しようとする魔力が霧散してしまっている。
今がチャンス。私は拘束魔法で動きを止める。そして、ファイヤーボールでとどめの一撃。
なすすべもないドールは私の巨大なファイヤーボールを受けその場にのたうち回る。魔法に強い白いローブも耐久力を上回る攻撃にさらされ、みるみるうちに燃えて無くなっていく。
「助けて……」
えっ、今何か聞こえたような……
よく見るとドールのフードが燃え尽きている。
そこから覗くは……
熱さと痛みに顔を歪め、涙を浮かべる親友の顔。
「えっ、あっ……あの…」
血の気が一気に引いていくのが分かる。自分のやってしまったことに体が震える。
違う、あれはリースでも……ましてや光でもない。あれはドール、ウォーデン王に作られた紛い物の人形。
人形だから痛みはないはずだし、涙を流すわけがない。
あれは違う。そんなわけない。
何度も自分に言い聞かせ、目を逸らそうとする。
しかしドールは私の方に手を伸ばし、訴えかけてくる。「わか、助けて……熱いの。」と。
「違う、あなたはリースじゃない。やめて、私の名前を呼ばないで……」
よろよろと後ずさる。
精神が乱れたことで、5枚の盾が消えて私は無防備になる。
でもそんなことにも気付かないくらい私はひどく動揺していた。
そんな私の精神状態に誰も気付くことはない。
先程まで戦闘の様子を気にかけていた太陽と海斗兄も、ドールを圧倒する私の姿を見て無意識のうちにもう大丈夫だと自分の戦闘に専念してしまっていた。
とは言え、太陽は何かあった時のためにガーディアンを私の周りに放ち、敵の攻撃に目を光らせてくれていたんだけど……あくまでも敵の攻撃で、私の状態までは察知することができなかった。
そこから少し離れたもう一つの戦場で、ウォーデン王は笑みを浮かべる。
時がきた。
「やはり運は私に向いているようですよ、ハイラスマーレ王。」
そう呟くウォーデン王に対し、表情を崩さず魔法を放つハイラスマーレ王。
しかし、その額には汗が滲む。若干だが、魔力の乱れを感じる。焦っているのだろう。
もしかしたら詳細な計画に気付いたのかもしれない。だがそんなことはここまでくれば関係ない。
手加減せずにさっさと私を殺していればこうはならなかったのかもしれないのに……策に溺れるとは正にこのことですね、哀れなものです。
『リース、プロジェクトF第二段階です。』
ウォーデン王は粛々と準備を進める。その時に備えて。
人形の女神ことリースは、ウォーデン王の命に従いプロジェクトFを進めていく。
そこには既に自分の意志は疎か、感情すら持ち合わせてはいない。ただウォーデン王の望みを叶えるために動く人形。
眼下に広がるは月明かりに照らされ不気味に浮かぶ荒廃した戦場。ドールやハイラスマーレ国の魔導師達の死体が積み重なり、その頭上で未だ戦いは苛烈を極めている。
リースは一体のドールの視覚と同調した。目の前には震えながらこちらを見つめる少女の姿。
栗色のポニーテールが爆風によって激しくはためくが全く気にする様子はなく、可愛らしい顔を歪め、悲しみと戸惑いを秘めた瞳はただ一点を見つめている。
関若葉。プロジェクトFの遂行に最も重要な人間の1人。
この子の心を乱すことが、リースの大きな役割の一つ。
でも、なぜだろう。ドールが苦しむ姿を見て、なぜこの子もこんなに辛そうなんだろう。
自分が言うのも何だが、たかだか人形一体。
この子にとって、私とは……
しかし、その疑問はウォーデン王の念話によってかき消された。
『リース、プロジェクトF第二段階です。』
リースは、かつて大切であった少女の心を壊すため、次の指示をドール達に与えるのであった。




