119 王の思惑
「感動の再会は済みましたか?流石に水を刺すのは野暮だと思いましてね。」
今まで黙ってこちらの様子を伺っていたウォーデン王が口を開く。
これだけの戦力を見ても、全然動じる様子はないし、むしろ薄っすら笑みまで浮かべている。
対照的にリースはキッとこちらを……特にフィミールを睨みつけている。
「随分余裕だな。言っておくが、2人だからといって手加減するつもりはないぞ。ここで必ず終わらせてやる。」
ここにいる全ての人達の気持ちを代弁したショーンさんの言葉。
対してリースが声を上げる。
「フィミール、卑怯ですよ!!私達をずっと騙していたんですね!!」
「卑怯なのはそっちっす。あんた達はうちの国の貴族達を煽動して反乱を起こした。この間は王の留守を狙って直接町を攻めてきた。
結果、一般の市民も被害を受けたっす。
俺達はそちらの一般人には一切危害は加えてないっす!!」
「そ、それは……」
リースは黙り込んでしまう。
確かにその通りだ。宣戦布告してきたのはウォーデン国の上に、攻撃は見境ない。
それに、フィミールさんは貴族達を誇りに思っていた。大好きだったのだ。黙っていられるはずがない。
でも、リースの戸惑った表情を見ると、今突きつけられた作戦は彼女が主導ではないことも明らかだ。
もしかしたらリースは反対していたのかも。
彼女は戦争に一般人を巻き込むことには反対していた。その気持ちは嘘じゃない。
けれど、ヤリスやジェラールなど、過激派の人達を止めることが出来なかったのかもしれない。
「まあまあ、リース。フィミールはとてもよくやってくれた。この最高とも言える状況を作り出したのは、彼の類まれなる頭脳のおかげだ。そんな功労者に、感謝はすれど卑怯だと罵るのはいかがなものだと思うぞ。」
そう言って、言い返せない悔しさにワナワナ震える娘の肩に手を置くウォーデン王。
「相変わらず強がりを……この状況のどこがお前にとって最高の状況なんだ。」
ショーンさんが睨みつけながら言い放つ。
ハイラスマーレ国の最強戦力、王様、4賢者に加え、精鋭魔導師200人以上。
それに私達だっている。太陽と里穂姉は4賢者と同等の力を持っているし、闇の魔力のコントロールに成功した今の海斗兄なら下手をすればその2人を上回る強さだ。私だって、以前のようにただ魔法を消せるだけじゃない。
確かにウォーデン王とリースは強いけど、それでもこの人数差でははっきり言って勝負にならないはず。
でも、ウォーデン王は余裕の笑みを崩さない。その余裕に、味方のリースですら違和感を感じているようで、ちらちらと顔を見上げている。
分からない。でも、不気味だ。
ザッ
夜の闇の中でも輝きを失わない深紫の荘厳なローブがはためく。
この場で最も偉大で威厳のある王の声が、静かに、でもはっきりと戦場に響き渡る。
「ショーンや、もうよい。
ウォーデン王、ハイルよ。貴様の妄言にこれ以上付き合うつもりはない。
貴様はわしが責任を持って消させてもらう。この世界のために。」
空気が張り詰める。その空気に当てられ、背筋が伸びる。
いつも思うけど、王様のウォーデン王に対する態度は他のそれと全くと言っていいほど異なる。
この2人……ハイラスマーレ王とウォーデン王の間には、私達が入り込む隙がないほどの怒り、怨念、冷酷さを感じるんだ。
以前に一体何があったのだろう……
本人達には絶対に聞けないけど……
「ようやく口を開いてくれましたね、偉大なる王よ。戦う前に声を聞いておきたかったのですよ。落ち着いて話せるのは、これで最後になるかもしれませんしね。」
「貴様と落ち着いて話すことなどない。」
ハイラスマーレ王は冷たく吐き捨てる。対してウォーデン王は体の前で手をフラフラと振る。
「相変わらず手厳しいですね。でもそれでこそ……」
「ひっ……」
男の顔が一変する。
私は思わず小さく悲鳴をあげてしまう。私以外の人達は悲鳴こそあげなかったものの、たじろぎ、一歩後ろに下がってしまう者も多くいる。
里穂姉にギュッと手を握られる。その手は汗でしっとりしている。
里穂姉、緊張してる。
ショーンさん達も動揺を隠せないようだ。
それほどまでの殺気。
ウォーデン国で見せていたような穏やかな表情は一切なく、鋭い目つきは睨まれただけで命を奪われそうであり、圧倒的な覇気は気持ちを萎縮させる。
そして、ウォーデン王はリースの頭に手を置いた。彼女はビクリと体を震わす。
「ウォーデン王、何を……」
あのいつも堂々としていて、何事にも屈しない心をもつ彼女が、子犬のように小さく震え、怯えるように問いかけている。そんなリースを完全に無視し、ウォーデン王はハイラスマーレ王に対し冷酷な笑みを浮かべる。
何かまずいことが起きる気がする……リースを助けたい。
思い起こさせる大将軍フリードとの戦い。あの時は何もできなくて、大切な友人であるマーレを助けることができなかった。
でも……今の私なら!!
もうあの時のような後悔はしたくなかった。
私はウォーデン王の覇気に抗い、思い切って足を踏み出す。
が、里穂姉と太陽にすぐさま引き戻される。
『わかちゃん、ダメだよ。危険すぎる。』
『でも、このままじゃリースが!!』
『若葉が行くことで、いい方向に転ぶとは限らない。今は我慢するんだ。」
頭の中に響く2人の声。
悔しい。
リースをあの場所から救ってあげたい。
でも……2人の言う通りだ……明らかに異様な空気。これから確実に何かが起きる。
勝手な行動はみんなを危険に晒してしまうかもしれない。そう思ったら、もう前に出ることはできなかった。
でも、もしこの時2人を振り切って止めに行っていたなら……
もしかしたら結末は変わっていたのかもしれない……
あくまで結果論だけど……




