118 お日様の香り
あったかい。
私は今、包まれている。戦闘中だということも、敵国に囚われていることも忘れ、ただただその心地よさに身を委ねる。
これはそう、まるで……お日様の香り。
私が良く知るあの人の香り……
「…ば……ゎかば……わかば!!」
えっ、この声……本当に?
そんなわけない。ここはウォーデン国。
ハイラスマーレ国からは遠く離れており、彼がこんなところにいるわけない。
でも、この声、この香り……この温かさ。
私はよく知ってる。
ドキドキしながら、ゆっくり目を開ける。
「…たい……よう?」
ギュッ!
抱き抱えられた状態から、上半身を強く抱きしめられる。
「良かった……生きててくれて、また会えて本当に良かった。」
あまりの急展開に、何が何だかわからないけど……嬉しい。その気持ちは紛れもない本物。
そう返そうとするけど、まだうまく言葉が出てこない。
代わりに私も大好きな幼なじみをギュッと抱きしめ返した。
聞いてほしいこと、伝えたいことがいっぱいある。
でも、何から話せばいいかわからない。
たった2週間離れてただけなのに……大好きが止まらない。
「若葉、ごめんな。すぐに助けに行ってやれなくて。」
首をぶんぶん横に振る。
「私の方こそ、心配かけてごめんね。助けに来てくれてありがとう。」
『助けに来てくれて』
その言葉に少し苦笑いする太陽。
そして周りを見るよう促される。
私はハテナマークを浮かべた後、周りをゆっくり見渡した。
そこは先ほどまでと同じ、生き物の気配がしない乾いた地面。前には異様な雰囲気を放つ4つの四角い建物。
太陽は何を見せたいんだろう。
私は太陽に抱きしめられたまま、ゆっくり後ろを振り返る。そして唖然とする。
えっ!?なんでこんなところに!?
そこには石造りの巨大なお城。てっぺんは雲を貫くほどに高く、圧倒的な存在感を放っている。そして城下に広がる町。
私が……私達が良く知る町。
こっちの世界の故郷。
「ここって……ハイラスマーレ国?」
「あぁ。まぁ正確に言えばハイラスマーレ国から少し離れた場所だけど。さすがにこんな巨大な物をハイラスマーレ国に転移させられないしな。」
そして言葉を続ける太陽。
「若葉達はここまで自力で戻ってきたんだ。俺はただここで待ってただけ。本当は1秒でも早く助けに行きたかったんだけど……」
ますますよく分からない。
……いや、分からなくない。
『カーストランスポーション』
私がウォーデン国で聞いた最後の言葉。海斗兄が使った魔法。
ということは、ハイラスマーレ国まで転移してきたってこと!?しかも私達だけじゃなく、建物も含めた大地そのものを!?!?
信じられない……
私達だけ、人間だけを転移させるならまだ分かる。私もこの間現実世界でやったし。
でも、こんな大きなものを丸ごと転移させるなんて。
闇の禁術……凄すぎる。
「そうだ、海斗兄やマーレ、フィミールさんは!?」
あえてリースの名は出さなかった。
3人と同じくらい心配してる。友達だもの。
でも、今どういう状況か分からない中で、敵国の姫の名前を出すのは危険だと思って。
私はいいけど、他のみんなが疑われるようなことはできない。
「おっ、やっと思い出してくれたか。」
うわぁ。
ちょっと乱暴に頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
顔を上げると。もう1人の幼なじみがニヤッと笑う。
「忘れてたわけじゃないよ!!」
ただ、急展開すぎて状況が飲み込めなかっただけ。あと、太陽に会えたことが嬉しすぎて……
もちろん後半の理由は口が裂けても言えないけど。
「悪かったな、黙ってて。心配かけちまったよな。」
「ほんとだよ。本気で海斗兄が暴走してると思ってたんだからね……本当によかった…大丈夫なんだよね?」
「あぁ、ピンピンしてる。」
その身体はまだ闇の魔力に覆われているが、前回、前々回のような禍々しさは感じられない。闇属性の魔力なのに澄んでいるような……言葉では形容し難いけど、そんな感じ。
「終わったらちゃんと説明してよね。」
「分かってる。だから、きっちり終わらせよう。」
そう言って前を向き直る。気付けばマーレとフィミールさんは私達の前に立っており、その先に2人の男女の姿。奥には4つの建物。
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン
マーレとフィミールさんの横にショーンさんとエリーン先生。そしてなんと王様が並び立つ。
ハイラスマーレ国の最高戦力、4賢者と王様が揃い踏みだ。その圧倒的な存在感、そして魔力に味方ながら息を呑む。
そして、私の隣にももう1人。
「太陽早すぎ。先行しないようにってあれだけ念押ししたのに、もう……」
「里穂姉!!」
私を見てニコッと笑う幼なじみに、私は思わず抱きついた。
太陽とはまた違った安心感に包まれる。
「わかちゃん、よく頑張ったね。よく戻ってきてくれたね。
ごめんね、あの時助けてあげられなくて。」
一生懸命首を横に振る。そしてついに堪えていたものが……涙腺が崩壊した。
みんな悪くない。こうやって生きてまた会えたんだもん。
それだけで十分だよ。
私があんまりにも泣くもんだから、里穂姉ももらい泣き。太陽と海斗兄は顔を背ける。
泣き顔は見せたくないみたい。
「みなさん、募る話は終わってからゆっくりしましょう。時間はたっぷりありますから。」
前に並び立つ1人、姫様が私達の方を振り返り、笑顔を見せる。
マーレの言う通りだ。この戦いに勝てれば戦争は終結する。
ううん、勝てればじゃない。勝つんだ!
もう誰も傷ついてほしくない。みんなが笑って過ごせるように、勝つしかない!
私は嬉し涙を拭うと勢いよく立ち上がり、太陽、海斗兄、里穂姉の横に並び立った。
気付けば後ろには大勢の魔導師さん達。
ハイラスマーレ国の全ての戦力がこの地に集結した。




