117 vs. darkness?
「さすがにやりすぎだ。」
どこかから聞こえた声。その場所は……ぼろぼろに崩れ落ちた建物の屋上部分。
海斗兄の魔法はまだ直撃していない。でも、建物には多大な影響を及ぼしている。
そんな中、手すりのような場所に乗りドス黒い魔力の塊を見上げるのは銀色のローブに、年相応の整えられた銀髪。
男は左手を上げる。すると、海斗兄の魔法と同じ大きさの光輝く魔力の塊が一瞬で生成される。
ズズズズズズ。
その魔力の塊が海斗兄のカースミッドナイトに直撃する。巨大な魔力の衝突。凄まじい衝撃……がくるのかと思い身構えたけど、私の予想は外れる。
魔法がぶつかったところからどんどん消えていく。寸分違わぬ威力の魔法をぶつけ、相殺してるんだ。
その魔法はあまりにも繊細で美しく、私達の魔法のレベルを遥かに凌駕するものだとすぐに理解した。
魔法同士が相殺しあったことで、建物の崩壊は収まった。男はそれを見届けると、今度は目にも止まらぬスピードで上空に飛び上がり、3人を捕らえていた触手を切り落とす。
そうは問屋が卸さないと10本以上の触手を差し向ける海斗兄だったが、その全ては光り輝くオーラによって消失させられた。
「ウォーデン王!!」
フィミールは歓喜の声を上げるが、男……ウォーデン王は眉一つ動かさない。
「フィミール、リース、何が起きているのか説明しなさい。」
いつもと同じゆったりとした口調。けれど、その奥に圧を感じる。私が感じるくらいなんだから、説明を命じられた2人はもっと感じているだろう。リースの顔が一気に強張る。
「海斗さんの修行が成功したんっす。ぜひ王にもそれを見てもらいたくて。」
依然として厳しい状況に加え、ウォーデン王の強烈な圧を感じているはずなのに、なぜか満面の笑みで報告するフィミール。
それに今、おかしな内容が聞こえたような……修行が成功した?
海斗兄が破壊衝動に飲み込まれ暴走してるのに、なんてことを言うの?
憤る私。それはリースも同様だった。
「フィミール、こんな状況下でそんな冗談、全く笑えませんよ。そもそもあなたの軽率な判断のせいでウォーデン国が存亡の危機に陥っているのですからね。恥を知りなさい!」
しかし、フィミールは笑みを崩さない。対してウォーデン王も怒りを表すのではなく、ただじっと自分の部下、そして上空の海斗兄を見つめる。
海斗兄はというと、大魔法を相殺され建物の破壊に失敗した上、人質を奪還されたにも関わらず次の攻撃には移らずただただ静止している。
もしかして魔力を使い尽くしてしまったのだろうか。それとも大魔法による反動?
けれど、彼の周りには依然として強大な魔力。ううん、魔力はどんどん高まってる。
ある者は困惑し、ある者は憤り、ある者はじっと場を観察する。
次に口を開いたのはウォーデン王だった。
「なるほど……リース、この状況下で君の目は曇ってしまっているようだね。よく海斗君を見てみなさい。」
「えっ?」
言葉に釣られ、私も海斗兄を見上げる。
その表情は初めの時に見せていた苦悶の表情ではなく、穏やかな……そして満足しているような表情。
そして、なんと私と目があった瞬間片目をパチリと閉じたではないか。
ウインク……
その行動に私は何が何だかわからず思考停止状態。
どういうこと?
つまり、海斗兄は暴走していないってこと?
「海斗さん……いや、違いますね。フィミール、これはどういうことですか!?」
声を荒げるリース。怒りのまま、フィミールの胸ぐらを掴みそのまま引き上げる。
しかし、それでもフィミールは笑みを崩さない。そして、私の方を見て叫ぶ。
「若葉さん、ありったけの魔力を放出するっす!」
えっ?えっ!?
全然状況が読めないんだけど……
と、頭の中に2人の声が響き渡る。
『悪い若葉、心配かけた。でも、おかげで作戦成功だ。あとでちゃんと謝るから、今はフィミールの指示に従ってくれ!』
『若葉、私達を信じてください。このまま事がうまくいけば全て説明しますから』
もう、海斗兄もマーレもなんなの!?
また私の知らない間に色々事が進んでいたってこと?
はぁ……でも、フィミールさんはともかく、この2人が私のことを騙す……いや騙されてたけども、悪い意味で騙すことはない。
あとで絶対に全部白状させてやるんだから!!
「私達は完全に嵌められたようだな。さてさて、この後どうなることやら。」
私は今すぐに解放できるだけの魔法を一気に放出する。
とは言え、これでも全部には程遠いんだけどね。
放出された魔力は、虹を描きながら周囲に広がっていく。
と同時に、地面が光り輝く。
これは……魔法陣だ!
私の魔力、みんなの魔力、汚染水製造工場の魔力、タンクの魔力、周囲の魔力が全て魔法陣に吸収されているいく。
その量は測定不可能。
「サンキュー、若葉。おかげで思う存分使えるぜ。みんな、振り落とされるなよ!!」
そして、海斗兄がありったけの声で呪文を叫んだ。
「カーストランスポーション!!」




