115 vs. darkness④
私達から目を離すと、今度は海斗兄を睨みつける。
「まったく、大切なタンクと汚染水を……あなたには少しキツめのお仕置きが必要なようですね。」
向かい合う2人の魔導師。強力な魔力がぶつかり合い、空気が振動する。
「リース、今海斗兄は闇の魔力に意識を乗っ取られてるの!気をつけて!!」
リースの方向に手を差し出し、魔力を奪おうとする海斗兄。けれど、リースは空中に浮いたまま、表情を崩さない。
「闇の禁術ですか。
無駄ですよ、その魔法では私の魔力は吸収できません。」
私と同じ魔法を使うリースならと思ってたけど、やっぱり!
しかも、リースは私より遥かに使える魔法も多い。これなら……
「何もしないなら、私から行きますよ。」
勢いよく放たれた4発の光弾が海斗兄の四方から迫る。中央からは極太の光線。
シューンッッ!
それに加えて雷の魔力が2本の槍を形取り、追撃する。
威力もさることながら、逃げ場を的確に潰した攻撃はさすがとしかいいようがない。
というかこの威力、海斗兄がまともに受けて大丈夫なのだろうか。
「カースシールド」
杞憂だった。
全方向から迫る攻撃に対し、黒い球体で身体を包み防御する。しかも、防御した魔法が闇の魔力を帯び射手に向かって的確に跳ね返される。
ズガッ、ガッガガガッガガガ!!
間一髪で魔法障壁が直撃を阻んだものの、リースの身体が10メートル近く後退する。
障壁にかなりの魔力を使ったようで、リースの身体から魔力が大幅に減ったことに気付く。
「なるほど、私達から魔力を奪えないと見て、タンクの汚染水の魔力を使ったようですね。」
ほんとだ。海斗兄の後ろのタンクから魔力がなくなっている。
これってかなりまずいよね。
私と一緒でこの場所なら海斗兄も魔力が尽きることはなさそうだ。
「リース!私も手伝うよ!!」
「いや、わかは守りに徹して!
私は海斗さんを倒すことだけに集中したいから。」
リースだけで今の海斗兄と戦うのは厳しいよ。
けれど、私の不安をよそに、戦闘は激化する。
闇の禁術を連発する海斗兄に対し、その魔力を吸収しカウンター気味に光属性の魔法主体で迎え討つリース。
直撃した一つひとつの場所にクレーターを作り上げる黒い稲妻がリースを襲う。
彼女は自分に直撃しそうな魔法のみを吸収すると、接近して打撃を加える。
リースって、クロスレンジ(近距離)でも戦えるんだ。本当になんでもできて思わず感心してしまう。
クロスレンジは場数の差もあってか、リースが圧倒する。けれど、ダメージがあるかについては別問題。結構重めの拳や蹴りも入っているような感じもするけど、幼なじみの身体は以前傷一つついていないように見える。
「硬いですね。それなら!!」
左の拳が海斗兄の右腕に阻まれた瞬間、魔力を吸い上げる。私のように一気に全ての魔力を……とはいかなかったが、さすがにこれは効果があったようで、すぐさま距離を取られる。
けれど、リースは逃さない。
吸収した膨大な魔力を使い、地面から巨大な根のようなものを出現させ、彼を絡めとった。
そして吸収。
先程より大きな魔力を吸収されたため、海斗兄の身体からついに力が抜ける。
勝負は見えた。
私の不安要素が表面化する前に決着がつきそうだ。
よかったと胸絵を撫で下ろしたその時だった。
海斗兄の真下の3台のタンクの魔力が一気に消え去る。
「カースエクスプロージョン。」
その輝き、衝撃に、500メートル近く離れた場所にいる私達ですら咄嗟に防御魔法を展開する。
が、私達の魔法では爆風を完全に止めることができず、吹き飛ばされてしまう。
海斗兄を中心に大爆発が生じる。
ただの爆発……けれど先程のカース・ヘル・ヒートプリズンとは桁違いの威力。
けれど1番まずいのは威力ではなかった。
この魔法が発動したこと。そのことが問題なのだ。
リースが魔法を吸収することができなかった。
あの近距離なら魔法が放たれた瞬間リースによって吸収されるはずだった。
だが、魔法は吸収されず、発動してしまった。
恐れていた事態。
本来は吸収した魔力をその分だけ攻撃や防御に転用することで、許容量をこえることがないように彼女は心がけていた。
その許容量を遥かに超える魔法……
「リース!!」
親友の姿が見えない。大丈夫だよね、生きてるよね?
海斗兄はというと、さすがにあの威力の魔法には反動があったようで、自ら作成した巨大クレーターの真上で留まったまま動かない。
バッ!
目の前にボロボロのローブを纏ったリースが現れる。いたる箇所が黒く焼け焦げ、穴だらけになってしまっているが、彼女自身に大きな怪我はなさそうだ。
「大丈夫!?」
「うん、なんとかね。でも、正直危なかった。なんでか海斗さんが私に直接じゃなく上空に魔法を撃ち出してくれたから、この程度のダメージで済んだけど……
魔力的にも私じゃ吸収できなかったと思うし、直撃だったら死んでたよ。」
苦笑いするリース。
一見するとまだ余裕がありそうだけど、身体は小さく震え、おびただしい量の汗が額から頬を伝って流れ落ちている。
「リースさん、今度は全員でいきましょう。私達も若葉の魔法があれば闇の禁術で魔力を奪われることもありません。
今の海斗は危険すぎます。」
若葉、できる?
心配そうな顔で、親友から見つめられる。
確かに、少しでも範囲や吸収のタイミングを間違えれば、死に直結するこの状況。
緊張で唇がかさつく。
でも、こういう時のために……大切な人達を守るために、私だって修行してきたんだ。
私ならできる、絶対にみんなを守ってみせる。
そして海斗兄を連れ戻す。
私は大きく頷いた。




