111 修行の最終段階
私の魔法について、また、私の魔法があれば立ち入り禁止区域にも安全に入れることなどをきちんと伝え、マーレと共に脱出の手段を探すことになった。
リースに教わった魔法をリースの所属する国に背く形で使うのは心が少し痛かったが、それでも人を傷つけるためではないことを自分に言い聞かせ、懸命に手伝った。
同時にリースに習ったことを毎日繰り返し練習する。
彼女がいなくても、自分が日々上達していることは明らかであったし、それを実感するたびに感謝の気持ちと申し訳ない気持ちが心の中で入り乱れていた。
しかし努力も虚しく、脱出についてはこれといった成果が上がらないまま、あっという間に3日が経過した。
立ち入り禁止区域のほとんどは調べ終えたのだが、分かったのはウォーデン国の人達の生活を支える場所だということだけ。汚染水を作る4つの四角い建物と、それを貯めるタンクがあるだけだった。
基本的に工場で作られた汚染水をそのまま輸送し使用しているため、タンクに貯蔵する必要はないように感じる。けれど、マーレの見立てでは工場で作ることができなくなってしまった時のための保険ではないかということであった。
確かに、ウォーデン国の生活は汚染水……魔力に大きく依存している。なくなれば大変なことになるだろう。
あとは、リースの姿をしたドールが想像以上にたくさんいたこと。
重複して数えている可能性もあるけど、確実に100人以上はいる。
このことを、リースは知っているのだろうか……
リースのドールについてや、立入禁止区域について町の人に聞き込みをしてみたけれど、誰も何も知らなかった。
いや、隠しているのだろうか……
国の重要機密だろうし……
立ち入り禁止区域を探索しながら、マーレと一緒に脱出方法を思案した。
まず初めに上がったのは超長距離転移魔法の有無について。私が現実世界で幸鳥県から帝都へ移動する際に使った魔法だ。
魔力の少ない現実世界で使うことができたのだから可能な気もしていたのだが、そう甘くはなかった。
魔力は十分足りている。が、座標設定……目的地を設定し、正確に跳ぶのが難しいらしい。この前は、私の魔力とSTORY TELLERの正確な座標設定があったからこそできたのだ。
ちなみに目に見える位置であれば私でも跳ぶことができた。
次に考えたのは強引にこの国から出て行き、そのまま徒歩or飛行魔法で帰るというもの。
しかしこれには2つの問題があった。
1つ目は、想像以上にウォーデン国の周りを囲む魔法陣が強固なこと。とは言え、私にかかればどんな強固な魔法陣でも紙ペラのようなものだ。
問題は2つ目で、突破するのは良いのだが、それだと一瞬でウォーデン王に察知されてしまうこと。察知されれば追っ手がかかるのは必至である。それをかわしながらハイラスマーレ国まで辿り着くのは……正直現実的ではない。
それに、ウォーデン国からハイラスマーレ国までの距離はもちろん、何があるかも全く見当もつかない。そびえ立つ山や巨大な川、危険な動物、野盗など……食料や水の問題もある。
基本的に移動は空の上。大地は未開の部分が多いのだ。
結局良い方法も見つからず八方塞がり。こうなったら助けを待つしかなさそうだけど……
そして現在、私とマーレは町外れの空き地に立っていた。
北東の端っこに位置している遊園地とは反対の南東の端っこ。後ろには立入禁止区域が広がっている。
「なんでこんなところに呼ばれたんだろう。」
「私にもよく分かりませんが……」
本当に何もない場所。ただ平坦な土地が広がっているだけ。町からは1キロ近く離れている。
『若葉、分かっていますね?彼は敵という設定ですからね。絶対に気づかれてはいけませんよ。』
静かに頷く。
この場所を設定してきたのはフィミールさんだ。
彼と会うのはこの国に来た時以来。つまり仲間だと知ってからは初めてなのだ。
……フィミールさんとか呼ばないようにしないと。
フィミールは敵、フィミールはハイラスマーレ国存亡の危機に陥れた敵……
そうやって自分の中で反復していないと、いざと言う時に失敗しそうでならない。
私はマーレみたいに器用じゃないし……とにかく気をつけないと!!
「お久しぶりっすね、マーレ姫、若葉さん。元気っすか?」
後ろを振り向くと、長身のスキンヘッドと幼馴染が立っておりドキリとする。
びっくりするから、気配消して近づくのやめてほしいんだけど……
対してマーレは全く驚く様子もなく、淡々と冷静に言葉を返す。
「ご機嫌よう、フィミール。ところで、こんなところに呼び出しておいて、約束の時間に遅れるとはどういうことですか?」
パッと時計を見ると、16時2分……確かに約束の時間を過ぎている、2分だけだけど。
マーレ怖い……
「いやぁ、すまないっす。海斗さんが準備に手間取ってしまいまして。」
「おい、俺のせいにするなよ。」
海斗兄も不機嫌そうにフィミールを睨みつける。この2人、隠すのうますぎない?
私も何か言わなきゃ……いや、やめておこう。
絶対にボロがでるもん……
「それで、こんな場所で何をするのですか?」
マーレが本題を切り出す。どうも話によると、私達がいないとできないことらしいんだけど。
すると、フィミールも真剣な表情に切り替わる。
「本当に来てくれて助かったっす。単刀直入に言うっすね……今日ここで、海斗さんの修行を完成させるっす。」
海斗兄の修行を完成させる?
それがどうして私達を呼ぶことに繋がるのだろう……
海斗兄の定期報告だと、闇の魔力をかなり制御できるようになっているらしい。
ただ、あと一歩、最後の部分で躓いており、ここ数日はその修行がほとんどだという話だった。
その最後の一歩に私達が必要ってことなのかな?
「多分海斗さんから聞いていると思うんっすけど、完全なコントロールまではあと一歩なんっす。
そして完全なコントロールとは、闇の魔力を全解放し、制御することっす。」
フィミールの言葉を聞き、2つの場面が思い起こされる。一つはこの世界に来てすぐ……ケルベロスと戦った時。
もう一つはスカイキャッスルでの戦い。
私達幼なじみや、4賢者のショーンさん、マーレが全力を出さなければ止めることのできなかったあれを、制御することなんてできるの?
あの圧倒的な力を。
不安でならない……
そんな私の不安を察したのだろう。黙っていた海斗兄が口を開く。
「正直、絶対にできる!!とは言えない。でも、若葉とマーレ……俺にとって1番大切な人達が側にいてくれれば、頑張れると思う。」
そしてもう一言付け加える。
「それに、お前らなら俺が暴走した時、止めてくれるだろ。」
そう言って少しだけ笑顔を見せる幼なじみ。
本来ならこういう時、海斗兄は絶対に自分でなんとかしようとする。周りの力を頼らず、自分の力で。
でも、そんな彼が私達を頼るということは……
そう考えたら不安なんてどこかへ飛んでいってしまった。
代わりに力が湧いてくる。
「海斗兄なら絶対大丈夫だよ!!それに、何かあっても私達がなんとかするから、思いっきりやっちゃって!ねっ、マーレ!!」
「はい、任せてください!!」
私もマーレも、ギュッと海斗兄を抱きしめる。
大丈夫、絶対に!!




