011 スカイキャッスル
「マーレ!!おまえは確かに姫様だが、同時に4賢者の1人でもあるんだぞ!!
相手がウォーデン国の精鋭部隊だったとは言え、この結果はいかん!
それに俺が来てなかったら、全員命は無かったんだぞ?」
「ごめんなさい……」
ドラゴンの羽ばたく音や風の音がある中で、離れている俺にまでマーレ姫が叱られる声が聞こえてくる。
「あのー、ソレイユさん?あの姫様をめちゃくちゃ叱ってるあの人は?」
「あのお方は4賢者の1人、雷帝のショーン様です。戦いに関しては滅法厳しい人なんですが、根は優しい人ですよ。ハイラスマーレ1の魔導師で、私の憧れの人なんです。」
ドラゴンを操る魔導師の少女、ソレイユが笑顔で教えてくれる。
国1番の魔導師か、どうりで強いわけだ。
海斗兄の暴走が止まったあと、マーレ姫は怪我人を次々と治していった。
そこで魔法は万能なんだと改めて思い知らされた。なんせ、腕が取れていてもちゃんと残っていれば繋げて元通りにすることができるのだから。
元の世界の医者ではこうは上手くいかないだろう。
里穂姉はマーレ姫に治療魔法を教わり、すぐに治療に加わっていた。頭が良いのは昔からだが、まさか魔法までさらっと使えるとは……恐るべし幼なじみだ。
治療によって重傷者もほとんど回復したが、54人中8人の魔導師が命を落とした。
姫様は戦いの中で死は避けられないことであり、俺達のせいではないと言ってくれたが……それでも責任は感じた。
相手の坊主達は全員死亡。ただ、ヤリスを含む最後に残った3人の死体は出てこなかった。ケルベロスについては、都市の実験施設で解剖されるらしい。
坊主達の埋葬が終わったところで海斗兄が目を覚ましたが、ケルベロスと戦っている途中から記憶が曖昧らしい。俺達のことを攻撃したことについても覚えていないようで、少しホッとした。もし覚えていたら、海斗兄は一生自分のことを責め続けるだろう。そんなことは俺達の誰一人として望んでいない。
と、思っていたのだが……
「おまえさぁ、闇に呑まれて仲間を傷つけようとするなんて最低だぜ。」
ショーンさんがあっさりカミングアウトしてくれた。
幸いにも海斗兄は全く信じていないようで、
「何言ってんだこのロン毛!嘘言ってんじゃねーよ!」
てな具合で言い返していた。いつもの海斗兄だ。
そしてまあ一悶着あったわけだが、その後回復したドラゴン達の背に乗り、現在移動中である。目標は、丘の上から見た巨大な城だ。
「そういえば、俺が言うのもなんなんですが、若い人が多い気がするんですが、気のせいですか?」
治療を手伝っている時に気づいたのだが、みんな俺達とさほど年齢が変わらいようなのだ。姫様やショーンさんも若いし。
「そうですか?私はもう12歳ですし、姫様は16歳ですよ。」
「えっ、きみ俺と同い年?そしてマーレ姫16歳!?」
落ち着いているからもっと年上だと思っていた。姫様に至っては、たしかに外見はそのくらいに見えるが、立ち振る舞いは完全に大人の女性だ。
「あら、太陽様は私と同い年なんですね。じゃあ結婚はもうしていらっしゃいますね。お相手は……若葉様ですが?」
いやいや待て待て。初対面でなかなかぶっ込んできますね……
って、ん?ソレイユの表情を見る限り、どうも冗談で言っているようではなさそうだ。
「いや、若葉とは幼なじみで親友だけど……もしかしてソレイユはもう結婚してるの?」
「はい!もちろんです!ほとんどの人は12歳までに結婚して、すぐに子どもを産むのですよ。実は私のお腹の中にも……」
そう言って自分のお腹を撫でるソレイユの笑顔は、母性に溢れている。
異世界に来て驚くことはたくさんあったが、魔法の次にびっくりだ。
ということは、俺と若葉はまだギリギリセーフだが、海斗兄と里穂姉は行き遅れてしまった人になるということか……
あとで教えてあげよ。
「でもなんでそんなに早く結婚して子どもを産むの?」
すると、今度は怪訝な顔をしてこちらを覗き込まれる。
「太陽様?早くなんて全然ないですよ!だって、人生長くても30年ですよ?」
人生30年?
ということは、寿命が長くても30年ということか?
「あっ、太陽様、そろそろ到着しますよ!これがハイラスマーレ国の象徴にして王の居城、スカイキャッスルです!!」
「おぉ、でかいな。」
丘の上から見た時も大きくが見えたが、近くで見ると更にでかい。
さっきは雲で隠れていて頂上まで見えなかったが、帝都タワーの倍の高さはありそうだ。てっぺんには白い鉄の棒のような物が突き出しており、下にいくにつれてどんどん巨大になっていく作りで、1階2階は城下町と一体化しているようだ。
「今から3階の飛行場に着陸します。しっかり捕まっておいてくださいね。」
飛行場とは、城と城下町を結ぶ1、2階の建物の上に作られた全長100メートルにも及ぶ石造りの滑走路だった。そこへ次々とドラゴンが着陸していく。
「んー、やっぱり空の上ってなんか落ち着かないわね。」
体をほぐそうとグルグル腕を回している里穂姉と合流し、若葉と海斗兄を探す。
2人はすでにマーレ姫とショーンさんにつれられ、城の入り口のところで待っていた。
「本当にでかい城だね。俺達の世界のどの建物より高い建物だろ。」
「でも、あと数年で中東の方に800メートルを超える高層ビルが建つみたいよ。まあそっちは鉄筋コンクリートだから、一概に同じとは言えないけど。」
石を積み上げたのはおそらく魔法によるものだろう。本当に万能の力なんだな。
「さてと、じゃあ城に入る前に身体検査な。」
「ごめんなさいね。王からは客人として丁重にもてなすよう言われてるんですけど、一応規則なので。」
身体検査では、制服やジャージ、携帯電話などなどこの世界に無さそうな物を中心にチェックされた。マーレ姫から、他の世界から来たことは秘密にしてほしいと言われていたので、誤魔化すのはなかなか骨が折れたが、なんとか無事通過することができた。
その後、マーレ姫とショーンさん、俺達4人の6人で巨大なエレベーターに乗り込んだ。
「この魔導エレベーターで上まで上がるのよ。」
「この世界にもエレベーターはあるのか。魔導エレベーターってことは、動力は魔力か?」
海斗兄が興味津々でマーレ姫に尋ねるが、答えたのはショーンさんだった。
「おい闇堕ち、おまえ姫に対して失礼な話し方すんじゃねーよ。」
「はあ?おまえに聞いてねーから。あと、おまえだってさっきマーレ姫に説教してたじゃねーか。人のこと言えんのかよ。」
ショーンさんの額に怒りマークが見える。
海斗兄さん、その辺にしておかないとまた大変なことに……
「海斗!あんたすぐに喧嘩売るんじゃないの!」
「ショーン!なんでそうやってすぐに突っかかるのですか!」
バシン!
里穂姉とマーレ姫の平手が2人の頭に同時に炸裂する。
「すみません海斗、ショーンがまた失礼なことを言ってしまって。喧嘩早くて本当に困ったものです。」
「いやいやこちらこそ一言も二言も多くてごめんね。」
代理で謝る2人。当の張本人達は絶対に謝らんという目で相手を睨みつけている。
2人とも似た物同士というかなんというか……
「それでこのエレベーターですが、海斗の言う通り魔法で動かすんです。とは言っても、私達が魔法を使うわけではないんですけどね。
里穂、行きたい階のところに指を置いて、魔力を集めてみて。1番上の階よ。」
里穂姉が最上階のボタンに指を置き目を閉じる。すると、エレベーターが静かに動き出した。
「さすが里穂、上手上手。もう手は離していいわよ。あとは目的の階まで貯められた魔力を使って勝手に運んでくれるから。」
なるほど、魔力は貯めることもできるのか。俺も早く使ってみたいな、魔法。
「そういえば、里穂?とか言ったか?おまえも異世界から来たんだよな。なんで普通に魔法使えるんだ?」
「うーん、なんでですかね?マーレ姫に教えてもらって無我夢中にやったら……できた感じです!」
「そんな簡単にできるもんじゃねーんだけどな……天才だな、里穂。」
「いやぁ、それほどでもぉ。」
ショーンさん、海斗兄以外には普通なんだな。そして里穂姉顔が緩んでるなー。
まあでも、天才とか言われちゃったらウキウキもするか。
「さあ、そろそろ着きますよ。」
エレベーターが目的の階に到着した。
外に出ると、ガラス越しに世界全てを見渡せそうな大パノラマが広がっている。
「すごい綺麗な眺め。」
「ふふ、この大展望台は高さ350メートルで、ハイラスマーレ国だけでなく、周りの山々や海を一望できるのよ。」
マーレ姫の言葉に里穂がハッとした表情をする。
「この世界もメートルの単位を使うんですね。」
「えぇ、そうよ。もしかして里穂達の世界でも使うの?」
「そうなんです!言葉もそうですが、なんかこの世界と私達の世界って似てるところがたくさんありますね!」
確かに、単位とか言葉なんて、俺達の世界では国が違えば簡単に変わるものだ。それが異世界で同じだなんて奇跡的なことだ。
「いろいろ興味深い話だが、王を待たせるわけにはいかない。玉座はここより更に上の階にある。エレベーターを乗り継ぐぞ。」
マーレ姫に聞きたいことは山ほどあるし、もう少しこの景色を堪能したいところだが、確かに王様を待たせるわけにはいかない。
次に乗り込んだエレベーターは、先ほどのエレベーターよりは一回り小さいが、窓がついていて外を見ることができた。
どんどん上がっていくのに心を弾ませながら隣を見ると、幼なじみ達も同じ顔をしている。ただ1人、若葉を除いて。
「若葉、どうした?高いところ怖いか?」
「そんなことないよ!もう、子供扱いしないでよね!」
俺の言葉にぷぅとほっぺを膨らませて俺を睨む若葉。
大丈夫、いつも通りだ。
この時は目まぐるしく変わる状況や、命がけの戦闘を生き残った安堵感で、感覚がおかしくなっていたんだ。
よく考えたら大丈夫なわけない。いつも通りなんてあり得ないんだ。だって俺達は今、異世界にいるのだから。




