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STORY TELLER  作者: 茶々丸
女神編
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106/168

106 マーレの思い


ゴンドラは頂上をこえ、ゆっくりと下降を始めた。



「私は……」



はらり。



一筋の涙が、頬を伝う。



「海斗、私を1人の人間として……女性として見てくれたこと、本当に嬉しいです。

多分……こんなに嬉しいのは、生まれて初めて……」


そして笑顔を俺に向けてくれる。



でも、なぜだろう……


その笑顔は、今まで見たどの表情より美しく、どの表情より切ない……




「けれど……ごめんなさい。

私は……海斗の気持ちに応えることはできません……



ごめんなさい……」






「ショーンか?」


自然と言葉が出ていた。本当に、意図せず。

言うつもりはなかったのだ。


けれど、自然に、本当に自然に言葉がこぼれ落ちた。



対してマーレの回答は、俺の予想とは全く違うものだった。



「私……実は結婚しようと思っているのです。」


「……えっ?結婚?」


誰と?もしかしてショーンと既にそういう関係なのか?


様々な疑問が頭の中に浮かんでは消える。


「ちなみに、相手はショーンではありませんよ。そもそも誰と結婚するかも、今の段階では決まっていません。」


「全然話が見えてこないんだが……」


「そうですよね。」と小さく笑う。

そして、ゆっくり話し始めるマーレ。


「スカイキャッスルでの戦いで、私は私自身の死を……そして、お父様の死を身近に感じました。」


約1年前の戦いのことが思い出される。


自分で言うのもなんだが、確かにあの戦いは俺達がいなければ危なかっただろう。フィミールという切り札はあったものの、それでももしかしたら厳しかったかもしれない。


まぁ、その後俺はウォーデン王ハイルによって闇の魔力を暴走させられ、皆を危険な目に遭わせてしまったわけだが……



「幸いにも、海斗達が助けてくれたおかげで私達は……ハイラスマーレ国は守られました。

ただ、それから私は世継ぎのことを真剣に考えるようになりました。」


「でも、ハイラスマーレ王は結婚……世継ぎのことについてはマーレの好きにしていいって言ってたんじゃないのか?」


確か水族館ではそんなことを話していた気がするが……

マーレは静かに、でもはっきり頷く。


「その通りです。王は私に好きなようにしなさいといつも言います。

けれど……孫の顔が見たくないわけありません。自分の血縁に継がせたいという気持ちだって、少なからずあるはずです。

父は、私を男手一つで育ててくれました。王という立場があったので、いつも一緒というわけにはいきませんでしたが、それでも愛情をもって育ててくれました。」


黒褐色の瞳いっぱいに涙が溜まる。


「私は……そんな父に恩返しをしたいのです。まだ何も返せていないから……」


絶対そんなことない。王はマーレが生きていてくれるだけで幸せなはずだ。

親なんてそんなものだとうちの父親と母親も言っていた。


でも、きっとマーレはそれでは納得しないのだろう。


だから俺は何も言えなかった。


「本当は自分が好きな人と一緒になりたいです。でも、ショーンは私のことを絶対に受け入れないでしょう。彼は王へ忠誠を誓う身です。私のことは、ただの幼なじみであり、4賢者の1人としてしか見ていません。


なので、別の男性と結婚しようと思うのです。」


その言葉から、マーレがどれだけショーンのことを愛しているかが伝わってくる。

と同時に、それが叶わない願いだということも。



ずっと一緒にいたのだろう。俺達幼なじみのように。



だからこそ分かることもある。

きっとどうしようもできないことなのだろう。



でも…だったら……




「でも、海斗とは……一緒になることはできません。」


また、はらりと一筋の涙。

そして胸を締め付けられるような底なしの優しさを秘めた笑顔。



「だって、海斗……大切な人に、嘘をつきながら……一緒にはいたくないから。傷つけてしまうから。ショーンのことを思いながら、海斗と付き合うなんて、愛し合うなんて、そんな酷いこと……できません。」


「けど、それなら俺がショーンのことを忘れるくらい好きにさせてやる。心の底から俺と一緒にいたいって思わせてやる。だから……」


我ながら、何を言ってるんだって感じだ。

そんなこと、俺にできるかなんて分からないじゃないか。

でも……諦めたくないと思ってしまっている自分がいる。


若葉に言われるまでは諦めてたくせに、現金な奴めって感じだけど、それでも1%の可能性があるなら、それにすがりたかった。



女の子を、こんなに好きになったことなんて今までなかったから。


だから……



「海斗、実は、あなたと一緒になれない理由がもう一つあります。」



背筋がゾクっとする。

その先は言わないでほしい。

思わず立ち上がった俺に、マーレの言葉、優しさが容赦なく突き刺ささる。




「寿命です。」




あぁ、そうか。

俺はその時察したのであった。

マーレは俺とは絶対に付き合わないし愛し合わない。絶対に……だ。



「私はあなたよりずっと早くに死にます。残された人の辛さは私にもわかります。そんな辛さを、海斗に味わってほしくないです……」



大切だからこそ、傷つけたくない。


だから、一緒にはいられない。



こんなに優しくて……残酷なことがあるのだろうか。


そんなこと言われたら、どうしようもないではないか。



だったら嫌いと言われた方が、こんなに苦しくなかったかもしれない。





ゴンドラはもうすぐ地上に降り立つ。


どうしようもない絶望感と共に……






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