105 俺の気持ち
海斗side
ゆっくりと、でも確実にゴンドラは頂上を目指して登っていく。
観覧車のゴンドラは色鮮やかにカラーリングされており、俺達が乗ったゴンドラの色は黄色。
作り、仕組みと元の世界と同じでなんだか安心する。動力源は電気ではなく魔力なんだろうけど。
回転スピードは少し遅い気もするが、速すぎるとすぐ終わっちゃうからな。俺としては非常にありがたい。
「スカイキャッスルからの眺めも良いですが、ここの眺めもなかなか良いですね。」
俺から見て右側の窓からは灰色の海、左側の窓からは植物が何も生えていない茶色いハゲ山が見える。
良い眺め……まあ人それぞれか。
というか、もしかしたら本当に綺麗な眺めを彼女は見たことがないのかもしれない。
青く輝く海、緑生い茂る山々、透き通る水が張る湖、過去の偉人達が作った建造物など……
俺達の世界がいかに恵まれており、豊かなのかが分かるようなそんな風景。
いつかマーレにも見てほしいな。
下には遊園地、そしてウォーデン国の街並みが広がっており、スカイキャッスルほどの高さではないので、歩く人の姿を認識することができる。
「今日はありがとうございます。」
急に窓の外から俺に目線が移り、ドキッとしてしまう。
ゴンドラの中は狭く、向き合って座ってもそこまで距離があるわけではない。
彼女の美術品のように整った顔、白い肌と対照的な黒褐色の美しい瞳を間近で見ることとなり、思わず顔が赤くなってしまう。
「本当は捕虜である身にも関わらずこんなところで楽しく過ごしていてはいけないと分かっているのですが……でもとっても楽しかったです。おかげで、落ち込んでいた気持ちが少し晴れました。」
そうだよな。
いつか……それこそ明日にも、俺達は交渉材料として使われるかもしれない。そうなれば、ハイラスマーレ王やショーン達は苦しい状況に追いやられてしまう。
なんせ、姫様が人質なのだから。
きっとその気持ちをずっと抱えて、押しつぶされそうになっていたのだろう。
だからこそ、今日は楽しんでくれてよかったと思う。
暗い気持ち、マイナスな考えを持って何かをしても、良い結果には繋がりづらいのだから。
「それなら良かったよ。思いっきり楽しんでくれていたのは、ばっちり分かったから。」
「ちょっと恥ずかしいですけどね。」とはにかむマーレも可愛らしい。
そしてさっきからそんなことばかり考えている自分も恥ずかしい。
俺、そういうキャラじゃなかったんだけどな。
恋愛は人を盲目にするって中学の国語の先生が言ってた気がするけど……
あの時はこいつ何言ってんだくらいにしか思っていなかったが、今なら少し分かる気がする。
「修行は順調に進んでいますか?」
「うーん……ぼちぼち?」
「クスッ、なんですか、ぼちぼちって。」
うん、やっぱり俺、彼女が好きだ。
笑う時に少し下がる眉も、透き通った高い声も、底抜けに優しいところも。
「でも、ぼちぼちとはいえ少しずつでも成長している海斗はすごいです。私なんて、もう10日近く経つのに、何の成果もあげられていないですし……だめな姫ですね。」
「そんなことねーよ。」
顔を俯けた姫様が、スッと俺を見上げる。
観覧車は頂上へ差し掛かり、この国で恐らく最も綺麗な風景が窓ごしに映し出される。
けれど、目の前の彼女に比べれば……
「マーレは俺達がこの世界に来た時から、ずっと守ってくれた。導いてくれた。友達になってくれた。
今回の件だって、若葉が連れ拐われた時、真っ先に動いてくれたのはマーレだった。自分の立場……姫って立場があるのに。そんなことは関係なく。」
「それは……その、いつの間にか身体が動いていたというか……無我夢中で。
きっと父上やショーンには叱られてしまいます。」
「でも、俺は嬉しかった。すげーって思った。」
若葉、ありがとな。お前がいなかったら絶対に伝えられなかった。
その人が誰を好きかとか、関係ないんだな。大切なのは俺の気持ちだ。
「俺はそんな、綺麗で、かっこよくて、優しくて、友達思いなマーレが好きだ。」
そして、一呼吸おきもう一言付け加えた。
「友達としてだけじゃなく、女としても。」
マーレは両手で口を押さえ、目を見開く。
小刻みに震える肩から伝わってくるのは戸惑いと……
時間にして数十秒。でも、その時間はとても長く感じた。
もう外の景色も、何もかも頭には入ってこない。
目の前のマーレしか見えない。




