104 遊園地と黒歴史
「なんでこの世界にこんなものがあるんだ?」
「いや、私だってリースに聞いた時は半信半疑だったけど……」
目の前には悲鳴を上げる人達を乗せて急上昇、急降下、急旋回する乗り物。そしてその奥では、ゴンドラを円盤の円周に取り付けた巨大な鉄の塊がゆっくり回っている。
こんな大きな建物、今までよく気が付かなかったなぁ。
私達は俗に言う『遊園地』というレジャー施設の前に立っていた。
「すごいですね、海斗、若葉!!みんな悲鳴をあげているのに、とっても楽しそうですよ!!」
「マーレ、あんまり先行くなよ!はぐれたら困るだろ?」
ぐいぐい先に行こうとするマーレを一生懸命静止する海斗兄。水族館の時もテンション高かったけど、今回は桁違いに高い。
でもそうだよね。17歳になって初めて遊園地を見たら、そりゃ興奮するよね。
私達が興奮しないのは、元の世界で見慣れているからだし……
まぁ、かくいう私も水族館の時はめっちゃ興奮して太陽を連れ回しちゃったけど。
この世界でも、遊園地のことはまんま遊園地というらしい。大きさは万葉にあるネズミさんの国に比べたら遥かに小さいが、それでもジェットコースター、観覧車、お化け屋敷、コーヒーカップ、メリーゴーラウンドなど、オーソドックスな乗り物は揃っている。
どれも新しくはないけど、丁寧に、大切に使われているのが見てとれる。
平日というのに、お客さんはかなり多い。
特に子ども達……今日は学校ないのかな?
「最初はやっぱりあれに乗りたいです!!」
うげ。
私はあからさまに顔をしかめる。
マーレが指差したのはやはりジェットコースター。そうですよね。さっきからめちゃくちゃ気になってましたもんね。
そうくるとは思っていましたが……
「それじゃあさ、海斗兄と2人で乗ってきなよ!!私はその間にどんなアトラクションがあるかみてるからさ。」
さすが若葉!海斗兄とマーレをいい感じに2人にするチャンス!!
ガバッ!
「にゃっ!!」
そそくさとその場を立ち去ろうとする私を、後ろから羽交締めにする海斗兄。
「いやいや、やっぱり乗るなら3人でしょ!ほら、あのジェットコースター、3人席だし。」
キッと海斗兄を睨みつけるが、この間根掘り葉掘り聞いてくれたお礼だと言わんばかりのしてやったり顔。
「「「キャーッ!!」」
真上を鉄の塊が通過し、悲鳴が響き渡る。
うぅ、行きたくないよぉ……
と楽しそうに待つマーレを前に言えるわけもなく、私はジェットコースターの待機列に連れていかれるのであった。
だから私は、水族館や動物園の方が好きなんだ。
水族館や動物園には、ジェットコースターやお化け屋敷はないから……
あまりの疲労に、お化け屋敷前のベンチで意識を失いかける。
鳩が2匹ほどご飯をもらいに近づいてきたが、構う余裕は一切ない。
バサバサバサ。
「若葉ー、顔が死んでるぞー。」
「誰のせいだろうね。」
塩対応の私に対し、ペットボトル飲料をおでこに当ててくる幼なじみ。
冷たくて気持ちいい。
「ほら、自分で持て。それやるから。」
ペットボトルの蓋を開け、一口。
うん、美味しい。少し気持ち悪さは治ったかも。
「しかし昔から若葉は本当にこういう絶叫系が苦手だよな。」
「もう一回言うね。誰のせいだろうね。」
お化けなど心霊の類が苦手なのは、恐らく自分の特性である。物心ついた時からダメだったし。
でもジェットコースターは違う。
あれは小学校低学年の時。
富士山の麓にあるギネス記録に載るようなジェットコースターがよりどりみどりの遊園地に行った時、海斗兄に何度も何度も乗せられたのである。
そして……この先は黒歴史なので、思い出したくない。
「あの時のこと、まだ覚えてんのか。そりゃ悪かった。」
「いや、絶対悪いと思ってないでしょ。」
全く謝罪の気持ちを感じられない謝罪に、持っていたペットボトルで肩を叩く。
「でも……私の方こそごめんね。今日、本当は2人で行きたかったよね。」
「あぁ、まあそれについては仕方ないだろ。だって、俺が若葉もいるところで誘っちまったわけだし。あれで若葉が行かない方がおかしいしな。」
そう、本来はデートのはずだったのだが、マーレは完全に3人で遊びに行くと認識してしまい、今に至るのだ。
「まあでもさ、お前もグロッキーだし、マーレが帰ってきたら観覧車にでも誘って、告白してくるわ。」
「………えっ!?えぇ!?!?」
さらっとすごいこと言いますね、海斗さん。
あまりの急展開に空いた口が塞がらないけど、何か言う前にマーレが帰ってきてしまった。
「若葉、具合は大丈夫ですか?」
「えっ、いや…もう大丈……ううん、大丈夫じゃない!!もう気持ち悪くてやばい!!だから、海斗兄と2人で遊んできて!私はここで休んでるから。」
「だったら私もいます、心配ですし。」と隣に座ろうとするマーレを必死に押し返す。
「いや、ほんとに!何かあったらちゃんと言うから。だから、ね!!ほら、観覧車とか、絶対楽しいから!!」
「ってことだから、お言葉に甘えて行こうぜ。1人の方がゆっくり休めるし、観覧車に乗って吐いちまったら大変だしな。なっ、若葉。」
そうやってさらっと黒歴史を思い出させる海斗兄、本当に素敵でなりません。
相変わらず心配そうな顔を向けるマーレだったが、渋々了承し、海斗兄と2人で観覧車に乗ることになった。
頑張れ、海斗兄!!男を見せろ!!
遠ざかっていく後ろ姿に、私はエールを送り続けた。




