102 私の本当の力
「ここって入っていいの?」
そこは高い鉄製のフェンスで囲まれ、上部は有刺鉄線が張りめぐらされた立ち入り禁止の場所。
貯水槽のような円柱型の建物が数えきれないほど並べてあり、その奥にはぼろぼろの4つの四角い建物。
ウォーデン王が近付いてはいけないと言っていた場所。
リースはポケットから鍵を出すと、慣れた手つきで扉にかかった大きな錠前を外す。
「大丈夫だよ、王様にも許可はもらってるから。」
恐る恐る中に入ると、そこは明らかに今までの場所と何かが違う。
肌がピリピリ、チクチクする。
植物は一本も生えておらず、木は葉をつけずに寂しく立っているだけ。
もちろん、動物や昆虫など動くものは皆無だ。
「ねえ、リース……」
その不気味さに、私は思わずリースの腕をぎゅっと掴んでしまう。
この場所……怖い………
「わかでも感じるよね。ここは普通の人が入れば、数時間で命を失ってしまう場所よ。」
数時間で命を失う?
心臓のドキドキが明らかに早くなる。
そんな私の手をポンと叩くリース。
「心配しなくても大丈夫!私とわかはこの場所でもいつも通り過ごせるから。」
「えっ、そうなの?」
リースは頷くと、少し先へと進んでいく。
そうしてフェンスの外側から見えない位置まできたところで、私と向き合った。
「ここに来たのはね、もちろん人目を避けるためでもあるんだけど、それ以上にわかに魔力を感じて欲しかったからなの。」
魔力を感じる?
私はほとんど魔力を感じたことがない。
いや、全く感じたことがないといえば嘘になる。
元の世界で、自然の家から帝都に転移した時と、太陽の怪我を治し、同じくみんなの元へ転移させた時は魔力を感じた。
その2回だけ。
でも、そんなことリースに話したっけ?
そもそも私の消却魔法のことも話してないような気が……
「わかの魔法は知ってるよ。消却魔法……魔法を消すことができるんでしょ?」
「な、なんで知ってるの?」
心を読まれたようで、そしてトップシークレットである私の魔法のことをいとも平然と話す姿に、心がざわつく。
やっぱりリース、危険な人なの?
「あっ、心を読んだわけじゃないからね。
それにわかは読まなくても簡単に考えていること分かるし。」
それはそれで引っかかるところがありますが……
「実はね、わかの魔法は、私の魔法と似てる……というかほとんど一緒なの。」
「え……えぇ!?」
私と一緒の魔法!?
驚く私をよそに、話は続く。
「あともう一つ言うと、私たちの魔法は消却魔法じゃないの。本当は……」
そう言って言葉を止める。
とっても気になる部分で止められてしまって、思わず前のめりになってしまうが、「実際に見て感じた方がいいよね。」と、私に円柱状の建物を触るよう促す。
良くわからないまま、でもリースがそう言うならと建物に触る……
「うわっ!?」
すぐに手を離す。
なんかすっごくビリビリ、バチバチする。
静電気のすごく強いバージョン、元の世界のもので形容するとすればそんな感じ。
ちょっぴり痛くて、痺れて、リースを睨みつけてしまう。
先に教えてくれればいいのに!!
そんな様子の私を見て、ごめんごめんと手を合わせる。
「だって、先に言ってたらびびって触らなかったでしょ?」
うっ、確かに……私がビビリなところもばっちりばれてる……
「ちなみに、今のが魔力ね。その貯水槽は、高濃度の魔力で汚染された水で満たされているの。普通の人が触れば一発であの世いきなくらい高い魔力よ。でも、だからこそわかでも感じられる。」
そんな強力な魔力があるなんて……でも、そんな危険な水、なんで貯めてるんだろう。
あと汚染されているって……
ウォーデン国の人達は、『魔力で汚染された』という言葉をよく使う。
聞くたびになんで汚染なんだろうという疑問があったのだが……今度時間がある時に聞いてみよう。
私が色々考えているのを横目に、今度はリースが貯水槽を触る。
「じゃあわか、もう一回触ってもらえる?」
「えぇ、嫌だよ、ビリビリするもん。」
「次は大丈夫だから。ほら、早く早く。」
「そう言って大丈夫じゃなかったら、怒るからね。」
そう伝え、もう一度……今度は恐る恐る貯水槽に触れてみる……あれあれ?
「ビリビリしない……」
何も感じないのだ。いや、金属特有のひんやりとした感じはあるのだが、先程のようなビリビリ、バチバチは一切感じない。
「ねっ、大丈夫だったでしょ?
じゃあ次は私と握手してもらっていい?あっ、今回は先に謝っておくね。ごめん。」
いやいや、先に謝られるのも怖いんだけど……
でも、これはきっと私が魔法を学ぶ上で必要なことなんだろう。
だったら、やるしかない。
ぎゅっ、バチバチバチ!!
「うわっ!?!?」
初めに貯水槽に触った時と同じ感触。
今度は覚悟してたから先程の驚きほどではないが、それでもやっぱり驚きますよね。
手をふるふる振り、痺れをとろうと試みる。
「分かった?」
「いや、何が……って、えっ、もしかして……」
私の……私達の魔法って……
「魔力を吸収したり、放出したりすることができる魔法?」
「うん、その通り!」
なんと!
じゃあ今まで私が消したと思っていた魔法は、全部私の中に吸収されたってこと?
すっごい量の魔法を消してきた気がするけど……自分自身をペタペタ触ってみるが、先程リースと握手した時のような魔力は一切感じない。
「触ってもわからないよ。だって、今のわかは、消却……つまり吸収だけに意識がいってる状態だからね。」
なるほど。吸収と放出は同時に行えないってことか。なんだかこの魔法には、いろんな秘密がありそうだ。
「あっ、ちなみにね、さっき私達の魔法はほとんど一緒って言ったけど、ほとんどってところを忘れずにね。」
「つまり少し違うってこと?」
「うん。それはね……私が吸収できる魔力の量はこの貯水槽3槽分くらいに対して、わかは多分……その気になればここの貯水槽全ての魔力を吸収することができるってこと。」
「そ、そんなに!?」
あれだけビリビリする強い魔力を!?
だってここの貯水槽、ぱっと見だけど100槽は軽く超えてる。
そんな量の魔力を取り込んで、私の体は無事なのだろうか……
驚きと不安が混在する私の表情を見て、「大丈夫だよ。」と肩を叩かれる。
「魔力は限界以上は取り込めないから。でも、わかは常日頃から自然界の魔力を取り込んでいるでしょ?それでも全然ピンピンしてるんだから、もしかしたら限界すらないのかもしれないしね。」
話を聞いてると、私、なんだか人間じゃないみたい。
でも、この魔法をマスターすれば、確実に太陽達の力になれる。
いや、もしかしたら私がみんなを守れるかもしれない。
ううん、きっと守れる!!
この場所への恐怖感、何もできない無力感が一気に消え去り、視界が開けたような気がした。
「それじゃあそろそろ教えていこうか。厳しくいくけど、大丈夫?」
「うん!リース師匠、よろしくお願いします!!」
「師匠はつけなくていいです!」
なんか急に先生みたいなこと言うから、そのノリに乗ってみたら茶化すなと叱られてしまった。
こうして、リースの個人レッスンは始まったのであった。
そして、このレッスン……
私がこの魔法を身につけることで、2つの世界の命運を……大切な人達の運命を大きく変えることになるのであった。




