101 変な顔
「昨日はごめんね。」
リースお気に入りのカフェで、私は謝罪を繰り返す。
一方の相手はというと、いちごとコーヒーが混ざりあったフローズン状の飲み物を吸いながら笑って手を振る。
「だからさ、大丈夫だって言ったでしょ。それより早く飲まないと溶けちゃうよ。」
促されるままに私もリースの飲んでいるものと同じものを口にする。
うん、美味しい。
コーヒーは苦手な私だけど、これだったら何杯でもいけちゃういそう。
というかこの飲み物、元の世界で有名なあのコーヒーチェーン店のフローズンドリンクとめちゃくちゃ似ている。
著作権があったら絶対に引っかかるやつだ。
もちろん他の世界にまで著作権の力は及ばないだろうけど……
「まぁでも、すごく羨ましいなぁとは思ったけどね。」
「えっ?」
羨ましい?何がだろう。
はてなマークを浮かべる私を見て、少し寂しげに笑うリース。
「だってさ、あんなに周りの人から大切にされることなんて、経験ないもん。
私さ、友達って呼べる人、そんなにいないし……羨ましいよ。」
昨夜、リースに間一髪のところを助けてもらった後、すぐにホテルからマーレと海斗兄が飛び出してきた。
大泣きする私を抱きしめるリースを見て、どういうことだと迫る海斗兄。
あまりの剣幕にその場は騒然としたが、マーレの制止と私の説明でようやく落ち着きを取り戻した海斗兄とともに、ホテルの部屋に戻った。
そこで色々と話し合ったのだが……
「でもさ、こうして会えるんだし、良かったよ。わかと会えなくなっちゃったら、もっと寂しいし。」
「私はダメって言われても、絶対にリースに会いに行ってたけどね!!」
だからそんな寂しそうな顔をしないで。
私はあなたの友達だよ。誰がなんと言おうと。
なんて言葉は恥ずかしくて口には出せなかったけど、彼女は私の気持ちを汲んでくれたようで、
「ふふ、ありがとう。」
と、笑った。今度は寂しそうじゃない、いつもの笑顔。その表情を見て、私も少し安心する。
しばらくお互いにドリンクを飲み、付け合わせのクッキーに口をつける。
うん、これもとっても美味しい。
周りを見ると、落ち着いたインテリアで彩られたおしゃれな店内には様々な人達がいた。
カップル、パソコン?のようなものを開き仕事をする男の人、本を横目に一生懸命何かをノートに書き写している女の子。
本当に元の世界と変わらない、私もよく知る至って平凡な光景。
確かに戦争中ではある。でも、この人達はいつものように日々を過ごしている。この人達が悪いわけではない。
『国同士が争っていても、1人1人が争っているわけではない。』
昨日海斗兄に言った言葉は、絶対に間違っていない。そう確信できるような光景だった。
「ねえ、リース……やっぱり魔法、教えてもらうわけにはいかないかな?」
私はタイミングを見計らって問いかける。すると、またしても眉をへの字にしてストローから口を離すリース。
「わか、さっきも言ったでしょ。私が魔法を教えないという条件で、こうやって会っていいってことになったんでしょ?
それを破るのはまずいよ。」
リースの言う通りだ。言う通りなんだけど……
何か言いたげな私に何も言わせないようにと言葉を続ける。
「大切な人達との約束、破っちゃだめだよ。」
うぅ、それを言われてしまうと……
でも、ここで引き下がったら、私は魔法を学べない。それではみんなに守られっぱなしのまま、自分だけどんどん置いて行かれてしまう。
私の脳裏には、太陽がフリードの火の玉で傷つけられたシーンが繰り返し再生される。
もう、自分のせいで大切な人が傷つくのは嫌なんだ。
「はぁ……もう、仕方ないなぁ。
私のことを少しとはいえ信頼してくれた海斗さんとマーレ姫のことは裏切りたくないけど……」
「えっ!?」
それってどういうこと?
「そんなすごい顔されたら、教えるしかなくなっちゃうじゃん。」
「わ、私、そんなすごい顔してた?」
自分の顔をペタペタ触り、どうなっているか確認するが、もちろんわかるはずもなく……
そんな私の様子を見てクスクス笑うリース。
「大丈夫、その顔でもわかは可愛いから。」
いやいや、それはそれでなんだか怖いんですが……
今すぐに鏡を確認しにトイレに駆け込みたいところだけど、今はそれどころではない。
だって、今、教えてくれるって……
「本当にいいの?」
「いやいや、良くはないよ。でも、友達の頼みだし、大切な人達のためなんでしょ?」
うぅ、リースぅ……
思わず抱きしめようとして、間の机に思いっきり阻まれる。テーブルの上に乗ったコップが倒れそうになり、慌ててキャッチ!
「こら、ところ構わず抱きしめようとしないの!!みんなびっくりするでしょ?」
「ごめんなさい。」
だって、すっごく嬉しかったから。その感情をきちんと表したくって。
「じゃあ、さっそく練習しよっか。とは言え、もちろんここじゃあ教えられないし、特別な魔法だから、人の目に触れるところはまずいしね。」
コップとクッキーの入っていた紙袋を持つと、ゴミ箱にむかう師匠。
私は慌てて散らばったゴミを集めると、リースの後を追って立ち上がった。




